ILO(国際労働機関)は、1997年6月、従来の「有料職業紹介所条約」(96号)に代わって、民間職業紹介所条約(181号)・勧告(188号)を採択しました。
 政府や財界は、これを有料職業紹介業や労働者派遣事業自由化の方向だと宣伝していますが、実際には、この条約と勧告は、民間職業紹介所を広く捉らえ、規制を加えて、関連労働者を保護しようとする内容をたくさん含んでいます。
 参照:「労働者派遣事業と有料職業紹介事業の自由化論批判 −一九九七年ILO「民間職業紹介所条約」をてがかりに−」季刊労働法183号
 民間職業紹介所条約及び勧告 (1997)
Convention and Recommendaion concerning Private Employment Agencies

         A.民間職業紹介所に関する条約
C181 Convention concerning Private Employment Agencies


 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局理事会によりジュネーヴに招集され、1997年6月3日に第85回会期において参集し、
 1949年の有料職業紹介所に関する条約(第96号)(1949年の改正条約)の規定に留意し、
 労働市場の機能における弾力性の重要さを意識し、
 1994年の第81回国際労働総会が国際労働機関は1949年の有料職業紹介所に関する条約(第96号)(1949年の改正条的)改正のための手続きを取るべきであるとの見解を持ったことを想起し、
 上述の条約が採択された時点で支配的であった条件と比較して、民間職業紹介所が事業を営む環境が非常に異なつていることを考慮し、
 適正に機能する労働市場において民間職業紹介所が果たしうる役割を認識し、
 濫用の可能性から労働者を保護する必要性を想起し、
 結社の自由にたし、する権利を保障し、よく機能した労使関係システムの必要な要素としての団体交渉と社会的対話を促進する必要を認識し、
 1948年の職業安定組織の構成に関する条約の規定に留意し、
 1930年の強制労働に関する条約、1948年の結社の自由および団結権の保護に関する条約、1949年の団結権および団体交渉権についての原則の適用に関する条約、1958年の雇用および職業についての差別待遇に関する条約、1964年の雇用政策に関する条約、1973年の就業の最低年齢に関する条約、1988 年の雇用の促進及び失業に対する保護に関する条約の規定、並びに1949年の移民労働者に関する条約(1949年改正)、及び1975年の劣悪な条件の下にある移住並びに移民労働者の機会及び待遇の均等の促進に関する条約の採用および職業紹介に関係する規定を想起し、
 総会の第4議題である1949年の有料職業紹介所に関する条約(第96号)(1949年の改正条約)の改正に関するる一定の提案の採択を決定し、これらの提案を国際条約の形式とすることを決定し、1997年6月19日に以下の条約を採択する。引用に際しては、1997年の民間職業紹介所に関する条約とすることができる。

                第1条

 1 この条約の適用上、「民間職業紹介所」とは、(主要な活動として、− 削除)次に掲げる労働市場におけるサービスの一又はそれ以上のものを提供する、公的機関から独立した自然人又は法人をいう。
  (a) 求人と求職を結びつけるサービスで、民間職業紹介所が、そこから生する雇用関係の当事者とならないもの
  (b) 業務を割り当てかつその業務の遂行状況を監督する自然人又は法人(以下「使用者企業」という。)である第三者に割り当てる目的で、労働者を雇用することからなるサ一ビス
  (c) 特定の求人と求職を結びつけようとするものではない、情報の提供等の、最も代表的な使用者及び労働者の団体との協議の上、権限ある機関によって定められた、求職に関連するその他のサービス
 2 この条約の適用上、「労働者」とは,求職者を含む。
 3 この条約の適用上、「労働者の個人デ一タの処理」とは、特定された又は特定可能な労働者に関する情報の収集、保管、編集、伝達その他の取扱いをいう。


                 第2条

 1 この条約は、すべての民間職業紹介所に適用する。
 2 この条約は、すべての種類の労働者及びすペての部門の経済活動に適用し、船員の募集及び職業紹介には適用しない。
 3 この条約の一つの目的は、その規定の枠内で、民間職業紹介所のサ一ビスを利用する労働者の保護のほかに、民間職業紹介所の活動を認めることである。
 4 加盟国は、関係ある最も代表的な使用者及び労働者の団体と協議の上、
  (a) 特殊な状況のもとで、民間職業紹介所が、条約第1条にいうサービスの一又はそれ以上の提供において、特定の種類の労働者又は経済活動分野に関して活動することを禁止することができる。
  (b) 関係する労働者に適切な保護が確保されることを前提として、特殊な状況のもとで、条約の適用範囲若しくはその規定の幾つかから、一定の経済活動分野またはその一部分の労働者を除外することができる。
 5 この条約を批准する加盟国は、国際労働機関憲章第22条に基づく第1回報告において,本条4に基づき禁止若しくは適用除外されるものをすべて明記し、その理由を示すものとする。
                 第3条

 1 民間職業紹介所の法的地位は、国内法令及び慣行に従って、また、最も代表的な使用者及び労働者の団体と協議の上、決定される。
 2 加盟国は、適当な国内法令及び慣行によつて規定または決定される場合を除き、許可若しくは認可制度に従って、民間職業紹介所の活動を管理する条件を決定する。


                 第4条

 第1条にいうサービスを提供する民間職業紹介所によつて募集される労働者が、結社の自由に対する確利及び団体交渉権を否定されないことを確保するための措置がとられるものとする。

                 第5条

 1 雇用及び特定の職業についての機会及び待遇の均等を促進するため、加盟国は、民間職業紹介所が、人種、皮膚の色、性、年齢、宗教、政治的意見、国民的出身、社会的出身に基づいて差別することなく、若しくは、年齢又は障害など、国内法令及び慣行によって定められたその他のいかなる形態の差別もなく、労働者を扱うことを確保する。
 2 本条1は、民間職業紹介所が特別なサービスを提供することを妨げるような方法で実施されるものではなく、又は、求職活動において最も不利な立場にある労働者を支援することを意図した計画を標的としたものではない。


                 第6条

  民間職業紹介所による労働者の個人データの処理は、
 (a) 国内法令及び慣行に従って、このデータを保護し、労働者のプライパシーへの尊重を確保する方法で実施される。
 (b) 関係する労働者の資格及び職業経験に関係ある事項、及びその他の直接関係ある事項に限定される。



                 第7条

 1 民間職業紹介所は、面接的又は間接的に、全体的又は部分的に、労働者に対し料金又は経費を課してはならない。
 2 権限のある機関は、関係ある労働者の利益となるように,最も代表的な使用者及び労働者の団体と協議の上、民間職業紹介所が定める特定の種類のサ一ビス、並びに特定の範囲の労働者に関して、本条1の規定の例外を認めることができる。
 3 本条2に基づいて例外を認めた各加盟国は、国際労働機関難時第22条に基づく報告において、そのような例外に関する情報及びその理由を提供するものとする。

                 第8条

 1 加盟国は、最も代表的な使用者及び労働者の団体と協議の上、その管轄範囲において、及び適当な場合にはその他の加盟国との協力の下に、民間職業紹介所により自国内において採用又は配置される移民労働者の適切な保護を行ない、権利の濫用を防止するために適切な措置をとるものとする。これらは、不正行為及び権利の濫用に関係する民間職業紹介所の禁止を含め、罰則を定める法令又は規則を含むものとする。
 2 労働者が他国での就労のためにそれとは別の国で採用される場合、関係する加盟国は募集、紹介及び雇用における虐待と不正行為を防止するための二国間協定の締結を考慮するものとする。

                 第9条

 加盟国は、民間職業紹介所によって児童労働が利用若しくは提供されないよう確保するための措置をとるものとする。

                 第10条

 権限のある機関は、民間職業紹介所の活動に関する苦情、権利の濫用及ひ不正行為の調査のために、適当な場合には、最も代表的な使用者及び労働者の団体が関わる適切な機構と手続きが存在するよう確保するものとする。


                 第11条

 加盟国は、国内法令及び慣行に従って、次の事項に関して、条約第1条1(b)に示される民間機業紹介所によつて雇用される労働者の適切な保護を確保するための必要な措置をとるものとする。
  (a)結社の自由
  (b)団体交渉
  (c)最低賃金
  (d)労働時間その他の労働条件
  (e)法令で定められた社会保険給付
  (f)訓練の機会
  (g)職業安全衛生
  (h)職業災害又は職業病の場合の補償
  (i)破産の場合の補償および労働者債権の保護
  (j)母性の保護と給付並びに親としての保護と給付


                 第12条

 加盟国は、国内法令及び慣行に従って、次の事項に関して、条約第1条1(b)のサービスを提供する民間職業紹介所及び使用者企業の各々の責任を決定し、割り当てるものとする。
  (a)団体交渉
  (b)最低資金
  (c)労働時間その他の労働条件
  (d)法令で定められた社会保障給付
  (c)訓練の機会
  (e)職業安全衛生の分野における保護
  (g)職業災害又は職業病の場合の補償
  (h)破産の場合の補償および労働者債権の保護
  (i)母性の保護と給付並びに親としての保護と給付


                  第13条

 1 加盟国は、国内法令及び慣行に従って、及び最も代表的な使用者及び労働者の団体と協議の上、公共職業安定組織と民間職業紹介所との協力を促進するための条件を策定し、確立し及び定期的に再検討するものとする。
 2 本条1の条件は、公的機関が次のものに対して最終的な権限を有するという原則に基づくものである。
   (a) 労働市場政策の策定
   (b) 当該政策の実施に充当する公的資金の利用又はその管理
 3 民間職業紹介所は、権限ある機関に対し、次に掲げる目的のために、その機関によつて定められた期間毎に、その機関によって求められる情報を、そうした情報の非公開性に然るべき注意を払いつつ、提供するものとする。
   (a) 権限ある機関が、国内の事情及び慣行に従って、民間職業紹介所の機構及び活動について知りうるため
   (b) 統計上の目的のため。
 4 権限のある機関は、収集された情報を編集し、定期的に公開し利用できるようにするものとする。


                  第14条

 1 本条約の規定は、法令又は判例、行政裁決若しくは労働協約その他国内慣行に従うその他の手段により適用されるものとする。
 2 この条約に効力を与える規定の実施の監督は、労働監督機関又はその他の権限のある公的機関によって確保されるものとする。
 3 適当な場合には罰則を含み適切な救済策が規定され、本条約の違反の場合に効果的に適用されるものとする。


                  第15条

  この条的は、他の国際労働条約の下で、民間職業紹介所によって採用、紹介又は雇用される労働者に適用される、より有利な規定に影響を及ぼさない。

  (最終規定)



          B.民間職業紹介所に関する勧告
R188 Private Employment Agencies Recommendaion, 1997



 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局理事会によりジュネーヴに招集され、1997年6月3日に第85回会期において参案し、
  1949年の有料職業紹介所に関する条約(第96号)(1949年の改正条約)の規定に留意し、総会の第4議題である1949年の有料職業紹介所に関する条約(第96号)(1949年の改正条約)の改正に関する一定の提案の採択を決定し、これらの提案を1997年の民間職業紹介所に関する条約を補足する勧告の形式とすることを決定し、本日1997年6月19日 に以下の勧告を採択する。引用に際しては、1997年の民間職業紹介所に関する勧告とすることができる。

                I 一般的規定

 1 この勧告の規定は、1997年の民営職業紹介所に関する条約(以下「条約」という。)の規定を補足するものであり、条約の規定に照らして適用すべきである。

 2(1)条約に効力を及ぼす規定の策定及び実施においては、可能な限り、三者構成機関又は使用者及び労働者の代表が含まれるべきである。
  (2)適当な場合には、民間職業紹介所に適用される国内法令は、技術的基準、指針、倫理規約、自主規制機能又はその他の国内慣行に適合する手段により補足されるべきである。

 3 加盟国は、適切かっ実行可能な場合には、労働市場の機能への民間職業紹介所の寄与に関する情報及び経験を交換し、それを国際労働事務局に通知すべきである,


                U 労働者の保護

 4 加盟国は、民間職業紹介所による非倫理的な慣行を防止し除去するために必要かつ適当なすべての措置をとるべきである。これらの措置は、非倫理的な慣行に関与する民間職業紹介所の禁止を含め、罰則を定める規定に関する法令を含むことができる。

 5 条約第1条1(b)に規定された、民間職業紹介所によって雇用される労働者は、適切な場合には、彼らの契約条件及び雇用の条件を明記した雇用契的書を持つべきである。
 最低限の要請として、これらの労働者は業務の割り当ての有効な開始前に雇用の条件について知らされるべきである。

 6 民間職業紹介所は、ストライキを行っている使用者企業の労働者の代替となる労働者を紹介すべきではない。

 7 権限のある機関は、実際には存在しない職業についての広告を含め、不正な広告慣行および偽りの広告を取り締まるべきである。

 8 民間職業紹介所は、
  (a)許容しがたい有害又は危険な業務、若しくは労働者が権利の侵害又は何らかの種類の差別的な取り扱いを受ける可能性のある業務のために、労働者を募集、紹介又は雇用すべきではない。
  (b)移民労働者に対して与えられる地位の性質及び適用できる契約条件と雇用の条件について、可能な限り、彼ら自身の言葉又は彼らの知っている言葉で知らせるべきである。

 9 民間職業紹介所は、人種、皮膚の色、性、年齢、宗教、政治的意見、国民的出身,社会的出身、民族的出身、障害、婚姻又は家族的地位、性的性向若しくは労働者組織の構成員であること等を理由とする差別が直接的又は間接的に生じる方法で、欠員通知又は求人を作成し公表することを禁止又はその他の方法によつて防止されるべきである。

 10 民間職業紹介所は、アファーマティブ・アクション(積極的な平等推進)計画によって雇用における平等を促進するよう奨励されるべきである。

 11 民間職業紹介所は、審査の対象となっている又はなりうる求職者の適性を判断する上で不要な個人データを書類又は登記簿に記録することを禁止されるべきである。

 12(1) 民間職業紹介所は、労働者の個人テータが収集される特定の目的によって正当化される限りにおいてのみ、又は、労働者が潜在的な仕事の求職者リストに留まることを希望する限りにおいてのみ、それらを蓄積すべきである。
   (2)労働者が自動化システム又は工レクト口二ック・システムによって処理された、若しくは、手作業によるファイルに保存された自分自身のすべての個人データを入手する手だてがあることを確保するための措置がとられるべきである。
 これらの措置は、労働者がそのようなデータのいずれのコピーも入手し、調べる権利、及び、誤った又は不完全なデータが削除又は訂正されるよう要求する権利を含むべきである。
  (3) 特定の職業の要件に直接関連し、又、関係する労働者の許諾の表明がなければ、民間職業紹介所は、労働者の医療に関する状態についての情報を求め、保持し又は利用し、若しくはそうした情報を労働者の雇用への適性を判定するために利用すべきではない。

13 民間職業紹介所及び権限のある機関は、適切、公正かつ効果的な選考方法の利用を促進するための措置をとるべきである。

14 民間職業紹介所は、適切な資格を有し、訓練を受けた職員を置くべきである。

15 条約第1条1(b)のサービスを提供する民間職業紹介所は、雇用契約の終了に関する国内法に定められた権利と義務に当然の配慮を払い、以下のことを行なうべきではない。
  (a)使用者企業がそこに割り当てられた民間職業紹介所の被用者を雇用することを妨げること
  (b)被用者の職業の可動性を制限すること
  (c)他の企業での雇用を受け容れる被用者に罰則を課すこと

        V 公共職業安定組織と民間職業紹介所との関係

16 労働市場を組織する国内政策の実施に関して、公共職業安定組織と民間職業紹介所との協力は促進されるべきである。このために、最も代表的な使用者及び労働者の団体の並びに公共職業安定組織及び民間職業紹介所の各代表を含む機関を設立することができる。

17 公共職業安定組織と民間職業紹介所との協力を促進するための措置には、次のものが含まれうる。
  (a)労働布場の機能の透明性を高めるための、情報の蓄積及び共通の専門用語の使用
  (b)欠員通知の交換
  (c)例えば訓練分野における、合同計画の開始
  (d)長期的な失業者の統合のための計画その他の特定の活動の実施に関する公共職業組織と民間職業紹介所との間の協定の締結
  (e)職員の訓練
  (f)職業上の慣行を改善するための定期的な協議