Z 高齢者虐待の防止等に関する法律案

                                        立命館大学高齢者虐待班作成

 

(目的)

第一条 この法律は、多年に渡り社会の進展に寄与してきた高齢者の、健全で安らかな生活を阻害する高齢者虐待の禁止、及び高齢者虐待の防止に関する国、地方公共団体、医療機関の責務と被虐高齢者の保護、被害者と加害者に対する必要に応じた関係の調整の措置等を定めることにより、高齢者虐待防止の施策の促進、及び被虐高齢者とその家族の健やかな生活を保障することを目的とする。

(高齢者虐待の定義)

第二条 この法律において「高齢者虐待」とは、高齢者(65歳以上の者をいう)に対して、その家族および介護従事者、財産管理を行う第三者が次に掲げる行為をすることをいう。

一 高齢者の体に外傷が生じ、または生じる恐れのある暴行を加えること。

 二 高齢者に対して、性的な暴力を加えること。

 三 高齢者に著しい心理的外傷与える言動を行うこと。

 四 介護等の日常生活上の世話の放棄、拒否、怠慢により高齢者の心身を危険にさらす  こと。

 五 高齢者の所有する財産を、高齢者の意思無きところで使用し、または契約を締結す  るなどして、損害を与えること。

(高齢者に対する虐待の禁止)

第三条 何人も、高齢者に対して虐待をしてはならない。

(家族による虐待)

第四条 被虐高齢者の家族・親族によって虐待が行われた場合、当該行為によって発生した刑事罰、及び民法の定める損害賠償の請求が家族、親族であることを理由として、消滅または減免されることはない。

(国及び地方公共団体の責務等)

第五条 国及び地方公共団体は、高齢者虐待の早期発見、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な避難、及び被虐高齢者の肉体的、精神的な治癒を行うため、関係機関及び民間団体との連携の強化その他高齢者虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めるものとする。

2 国および地方公共団体は、高齢者虐待を受けた高齢者に対し専門的知識に基づく適切な保護ができるよう、福祉事務所等関係機関の職員の人材の確保及び資質の向上を図るため、研修等必要な措置を講ずるものとする。

3 国及び地方公共団体は、高齢者虐待防止に資するため、高齢者虐待が高齢者に与える影響、高齢者虐待に関わる通告義務、高齢者に対する虐待の禁止等について必要な広報、教育その他の啓発活動に努めるものとする。

4 何人も高齢者の健全な生活のために、良好な家族、人間関係が求められていることに留意しなければならない。

5 国及び地方公共団体は、必要に応じて高齢者虐待に関する総合相談窓口及び緊急の避難所の設置を行政的施策として行うものとする。

6 民間の福祉団体が前項に定める総合相談窓口及び緊急の避難所を設置する場合、国及び地方公共団体は必要な補助を行わなければならない。

(医療機関の責務)

第六条 医師、看護婦、薬剤師など、高齢者への医療に従事するものは、高齢者に対する虐待の兆候が見受けられる場合、警察、または老人福祉法第五条の五に定める当該地域における福祉事務所に通告しなければならない。

(高齢者虐待の早期発見)

第七条 訪問介護者、家事支援者、高齢者施設の職員、成年後見人その他高齢者の福祉に職務上関係のあるものは、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し高齢者虐待の早期発見に努めなければならない。

(高齢者虐待に関わる通告)

第八条 高齢者虐待を受けた高齢者を発見したものは速やかにこれを通告しなければならない。

2 刑法の秘密漏示罪の規定その他守秘義務に関する法律の規定は、高齢者虐待を受けた高齢者を発見した場合における前項の規定による通告義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。

(通告を受けた場合の措置)

第九条 福祉事務所が高齢者虐待を受けた高齢者について通告を受けた場合には、福祉事務所長は当該高齢者の安全の確認を行うことを最優先するとともに、必要に応じ一時的な避難を行わせるものとする。

(立ち入り調査)

第十条 都道府県知事は、高齢者虐待が行われている恐れがあると認められるときは、高齢者の福祉に関する事務を行う職員をして、高齢者の住所または居所に立ち入り、必要な調査または質問をさせることができる。

(一時的な避難の実施)

第十一条 第九条に定める一時的な避難の実施に際して、当該地域に適当な一時保護施設が存在しない場合、老人福祉法五条の三に定める老人福祉施設において一時的な避難を行わなければならない。

2 老人福祉施設での一時的な避難を行う場合、その費用は国及び地方公共団体が負担するものとする。

3 一時的な避難の期間は、最大一ヶ月までとする。ただしそれ以降も虐待の恐れのある場合には、介護福祉士等、専門家の判断に従い、必要に応じてその期間を延長することができる。

(警察官の援助)

第十二条 第九条の規定による高齢者の安全の確認、一時的な避難、前条の規定による立ち入り調査及び質問をしようとするものがこれらの職務の執行に際し必要ありと認めるときは警察官の援助を受けることができる。

2 前項の立ち入り調査の要請を受けた場合、警察官はその要請に必ず協力しなければならない。

(民生委員の協力)

第十三条 民生委員法に定める民生委員は、この法律の施行について、都道府県知事、市町村長、福祉事務所長または社会福祉主事の事務の執行に協力するものとする。

(指導を受ける義務)

第十四条 高齢者虐待を行ったものについて九条の措置がとられた場合、当該者はその指導を受けなければならない。

2 虐待を行ったものが前項の指導に従わない場合、都道府県知事は、指導に従うように当該者に対して勧告を行うことができる。

(加害者への対応)

第十五条 国及び地方公共団体は、高齢者虐待を行った者について、その行為が加害者と被虐者との関係及び、経済的、肉体的、精神的な要因からかんがみて情状の余地が認められる場合に限り、加害者に対して社会的及び、精神的な支援を行うものとする。

(被虐高齢者の保護)

第十六条 被虐高齢者が、加害者たる家族などが刑事罰に服する等の理由から、その介護が受けられなくなることにより、日常生活を送ることが困難に陥る場合、国及び地方公共団体は、被虐高齢者に対して施設への入所を含めた適切な処置を行わなければならない。2 前項の処置にかかる費用は、加害者たる介護者が負担しなければならない。ただし、刑事罰による服役等の理由で負担が困難な場合は、一時国及び地方公共団体がこれを代わって負担する。

参考法 『児童虐待防止法』『老人福祉法』