障害をもつ人への虐待 金沢大学 石原・西村
金沢大学では、実際に明らかになっている障害をもつ人への虐待事件の具体例を取り上げて考察することを敢えてしませんでした。その理由は、具体例が少ないため、事例研究だけを行うとその他にも潜んでいる、虐待が起こる要素を見落としてしまうのではないか、と考えたからです。そのため行政の施策の問題点を明らかにするという方針にしました。今回はその中でも知的障害者施設への施策に絞った内容となっています。虐待とは論点がずれるかもしれませんが、障害をもつ人を取り巻く「障害」を取り除くことで、差別そして、その極端な形としての虐待がなくなるのではないかと考えました。そのため、一般に言われている虐待より広い範囲、「健常者」に対してであったら裁判提起が可能であるはずの人権侵害まで考慮に入れています。
18歳以上:知的障害者更正相談所(知的障害者福祉法12条)
同じく措置 …県及び市の福祉事務所(知的障害者福祉法16条)
知的障害者施設の監督…県及び市(知的障害者福祉法
21条の2)→知的障害者福祉の責任の分散
施設への監査は、極力年一回の実施が求められている。監査では膨大な資料を調査するが、一日で済ませることになっている。事務効率のため事前に監査の日時を通知している。また、経理・処遇等の項目別に担当する部署が異なっている。(厚生省から都道府県知事への通達)
Ex
:知的障害者福祉法21条の5「知的障害者更正施設は18歳以上の知的障害者を入所させて、これを保護するとともに、その更正に必要な指導及び訓練を行うことを目的とする施設とする。」…「入所させて」に代表されるように「教育」「指導」「更正」「訓練」「保護」する場所として考えていて、「生活の場」としての認識に乏しい。三.以上のことから考えられる問題点とその改善策
推察される。「白河育成園事件」の発覚が遅れた原因には、この選択の自由がないと言うことが
挙げられるであろう。利用者である障害をもつ人に選択の自由を保障し、サービス提供者であ
る施設の、受け入れるかどうかの「選択の自由」をいかに規制するかが大きな問題である。国
や 地方公共団体の施設監督権限を強化し、適正運営を行わせることが必要である。
っているのではないだろうか。現在の施設はあくまで「入所させる場」であり、「刑務所」に等
しい施設だといったら言い過ぎだろうか。たしかに更正や職業訓練を目的とする施設も存在す
る。しかし、入所施設はもとより、通所施設・授産施設などは第一義として「障害をもつ人の
生活の場」でなければならないのではないだろうか。施設の職員には、「障害をもつ人の生活を
支援するのだ」という認識が必要であるし、そのような認識を持たせるための啓蒙活動が必要
である。法律の文言も変わってしかるべきと考える。
四、まとめ
障害をもつ人への施策はこのように、様々に虐待を生みかねない要素を含んだ内容となっている。しかしその実態にはほとんど光があたっていないのが現実であろう。障害をもつ人の虐待問題として「健常者」から「障害者」に対する差別意識が根強くあると思う。そのことは、Dの文言にも如実に現れているのではないだろうか。また痴呆のある高齢者、知的障害をもつ人が外に出られない(危ないからという理由で鍵をかけて出させない)などは、虐待として語られてはいないが、明らかに人権が侵害されている状態であると言える。障害をもつ人が虐待はもとより、いかなる人権侵害も受けない社会、仮にうけてもすぐに救済が求められる社会の構築のためにはどのようなことが必要であるのか、さらに検討する必要がある。
参考文献 @障害者の人権20の課題:障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会・共同作業所
全国連絡会・全国障害者問題研究会編:全障研出版部:1992年
A障害者虐待を許さない:副島洋明著:水戸事件のたたかいを支える会:1996年
B施設内虐待:市川和彦著:誠信書房:2000年
その他の参考 @副島洋明弁護士のホームページ
A石川県知的障害者更正相談所の職員の方のはなし(大変熱心に教えてくださっ
たので参考に加えておきます)
資料
石川県内療育手帳交付者数状況(平成
12年4月1日現在、石川県庁 判定A重度 判定B軽度)区分 判定
A 判定B 計18
歳未満 496人 401人 897人18
歳以上 1850人 2115人 3965人計
2346人 2516人 4862人石川県知的障害者施設の状況(平成
12年10月1日現在、石川県中央福祉センター)県内施設
入所更正施設
9ヵ所 778人 定員充足率平均:93、3%通所更正施設
3ヵ所 71人 定員充足率平均:94、7%入所授産施設
5ヶ所 247人 定員充足率平均:98、8%通勤寮
1ヶ所 24人 定員充足率:96、0%通所授産施設
13ヶ所520人 定員充足率平均:95、8%福祉ホーム
1ヶ所 10人 定員充足率:83、3%県内施設計 定員
1695人 利用者1650人 定員充足率平均:97、3%県外施設
更正施設
7ヵ所 利用者計14人県内訳…群馬県・富山県(
2ヵ所)・福井県・京都府(2ヵ所)・山形県県外施設計 利用者
14人小規模作業所
22ヶ所 232人 定員充足率平均:90、9%グループホーム
23ヶ所 98人