ホームヘルパー訴訟を支える会ニュース

88歳の願いニュース9号

  発行:ホームヘルパー派遣訴訟を支える会事務局
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         FAX 06-633-0494
         弁護士 青木佳史

村井証人の証人尋問始まる(居住区福祉事務所の老人福祉担当主査)

第9回公判が、8月20日午後1時15分から行われ、いよいよ本格的な証人尋問が始まりました。一人目は、被告側の申請した原告居住区の福祉事務所の老人福祉を担当する主査です。まず被告の弁護士から、当初の予定の倍の2時間をかけた主尋問が行われ、その後残り45分間、原告側の青木佳史弁護士から反対尋問がありました。初めての証人尋問に傍聴席も一杯となりました。
 村井証人は、主尋問では、ヘルパー派遣の体制や原告への対応について時間の流れに沿って淡々と述べていきましたが、あまりの単調さに傍聴席もやや疲れ気味。しかし、再三の原告の息子からの派遣内容についての変更の要請をどう考えたか、なぜ週2回の派遣が妥当であると考えたかについてはほとんど理由を示すことができませんでした。

反対尋問は、一般的な制度についての質問までしかできませんでしたが、村井証人もホームヘルプ事業も生存権保障のための老人福祉法上の制度であることは認めざるをえず、要綱の派遣基準については「上限」であるとしましたがその根拠は示すことができませんでした。また、本人や世帯の状況によって派遣回数を検討するといいながら、どんな場合も、一律、週6時間しか派遣していない実態を示され、答えることができなかったのは印象的でした。さらに担当区内では約200世帯ものヘルパー派遣のケースをわずか一人のコーディネーターが担当しモニタリングの制度も実態もないことや、たくさんの待機者が名簿に記載されながら派遣されないまま中止となっている様子も明らかになりました。

次回は、いよいよ反対尋問も、原告とのやりとりの迫真に迫ります。また、それに続きコーディネーターの尋問も行われる予定です。多数の傍聴者で、法廷を埋め尽くしましょう。

村井証人尋問感想集

その1

お役所仕事では住民のニーズに応えられない 匿名地方自治体ケースワーカー

8月に被告側の証人として村井氏が証言台に立った。私はこの裁判には関心を寄せていたが、平日には仕事をしており、そう簡単に傍聴にいけるものではなかった。しかしたまたま証言録を見る機会があった。 主尋問ではあらかじめの打ち合わせがあったのか、証人は比較的うまく証言していたようであった。しかしよく読み込むと、それは内容に踏み込んだものではなく、表面を繕うタテマエを述べたのにすぎなかった。役人としての弁解しか聞けず残念であった。私は解明すべきいくつかの問題点を明らかにすべきと感じた。

問題点1 平成5年7月、原告の世帯は生活保護を受給するようになった。これによりヘルパーの派遣は中止になった。「在宅介護ができた為」というのが、その理由である。このとき、息子は「自分が介護するからヘルパーの派遣は必要ない」と申し出たのであろうか。後日、弁護士と派遣再開の申し入れをしたことを見てもわかるように、そのような申し出はしていなかったのである。派遣中止という不利益処分をするときは、実地調査をして上で十分な話し合いを行い、対象者との合意を得た上で決定をすべきである。しかし福祉事務所は、そのような手続は踏んでいなかった。だから無効な処分であった。

問題点2 弁護士が登場したことで福祉事務所はあわててしまい、そこで改めて実地調査をした。弁護士を相手に無効な処分は通用しないと反省したのか、派遣を再開したのである。理由は「息子の稼働能力の活用が必要である」とし、「介護者が必要となった」というものである。確かに生活保護法においては、稼働能力がある者については活用することが求められる。しかしこの世帯の場合、息子は母親を介護することによって、それを活用していると見なすべきである。ヘルパーが週に2回派遣されれば介護は事足り、息子は働きに行けるし、昼間介護は必要でないと判断したのであろうか。証人たちは十分なアセスメントもせずに派遣再開したのではないだろうか。 

問題点3 実態を見ずに派遣決定したものだから、その後の派遣状況についてもフォロー(モニタリング)をすることはなかった。原告は必要な援助を受けることができず困っていた。福祉事務所は平成6年11月、清拭を含め十分な介護の援助を求めていることをヘルパーからの報告受けて初めて知った。その時も、「福祉事務所のほうへ電話連絡なり、あるいは本人サングループから来ていただいて相談する」と言っているように、困っていることを把握していても、積極的に出ていくことはしなかったのである。「用があるなら来い」というような態度と思えてならない。重度の要介護者を抱えている家族は、気軽に福祉事務所まで出かけていくことは困難である。対象者からのシグナルを発見したときには出向いていくというのが、ケースワーカー、コーディネーターの原則的役割ではなかったか。証人はスーパーバイザーだったのだから、コーディネーターが業務多忙で訪問できないとしたら、代わって実地調査すべきなのであった。訪問看護や入浴サービスの組み合わせを検討したなどと言っているが、あくまでも机に座っての仕事でしかない。

問題点4 原告の世帯の場合、生活保護ワーカーは最も身近な福祉事務所職員であった。生活保護ワーカーは「被保護者の立場を理解し、そのよき相談相手となるようにつとめること」(『生活保護の基本的態度』厚生省社会援護局保護課長の通達)とされている。“生活保護指導監査方針”でも、「要援護世帯に対する指導援助の充実」がこの年度の主眼事項にもなっており、「病状などの悪化により不測の事態を招くことがないようにケースの定期的な訪問調査を通じて、日常生活が支障なく営まれているかどうか」を把握することになっていた。証人は「福祉関係の書類などで情報をつかむ」と証言しているが、それなら生活保護記録などで当世帯の問題をどのように把握していたというのか。記録が無かったとしたら、生活保護担当者の怠慢が指摘できる。記録があるとしたら、証人は生活保護「福祉書類」から情報をつかんでいなかったことが指摘できる。いずれにせよ、福祉事務所として当世帯の生活実態は把握できていなかったと言えるのではないだ ろうか。

他にも色々と問題点は指摘できる。証人にしろ、コーディネーターにしろ、あるいは生活保護担当者にしろ、個人としては「誠実」に仕事をしていたのかもしれない。私は、大阪市が福祉の専門的な援助システムを確立していないことが、現場で働く者や住民に迷惑をかけた結果となっているように思われる。

村井証人尋問感想集その2

選択肢のない「選択」とは――サービスと生き方―― 久保洋(大阪府立大学学生)

私は村井証人という人を全く知らない。それにもかかわらず、緊張して、少し声をうわずらせながら、口を渇かせて質問に答える彼を見ながら、こう考えていた。彼は真実を語っているのだろうか。彼は事実を包み隠さず話しているのだろうか。それとも何かを隠しているのだろうか。彼の証言に対して、私は否定的な気持ちをつのらせていくと同時に、ならば、と次にこう考えた。彼にも当然良心がある。あってしかるべきだし、そう信じている。そして何かを隠している。彼は、苦しいに違いない。しかし、一方では、行政側にとって、首尾良く証言できたのかも知れない。彼も立場上は安泰かも知れない。私の自分勝手な憶測からすると、彼は表面上、最も平穏に暮らせる一方で、実は、最も深く心に陰を残す、悔いの残る道を選んだのではないだろうか。ならば、なぜ彼に真実か、それとも事実をあますところなく語らせてあげることが出来なかったのだろうか。彼にとって、それが出来る条件とは、何だったのだろうか。少なくとも彼は、あの法廷で、理念と制度と実態の矛盾を最も強く感じた一人に違いない。
 証人尋問を通じて、大阪市は、どうやら原告は、ホームヘルパー以外のサービスをも利用すべきであって、他に方法があったはずだと、言いたかった様である。これは、在宅介護支援は、文字通り、在宅介護を支援するのであって、在宅生活を、原告本人に在宅介護サービスを通して保障するということではなさそうである。また、たとえ在宅介護支援であるにしても、サービスを選択するというのは、選択すれば、希望のサービスが十分に保障され、利用できるのであって、サービスを決定するのは本人である。選んだサービスは満足に受けられず、他のサービスも利用すべきであったというのは、自由な選択ではない。ショートステイ利用を拒否すれば、十分な介護が受けられない、というのは、利用者の自己決定が、人として、どう生きるか、という生き方の問題ではなく、人らしく生きられるか否か、という人間らしい生存の問題になり下がっていることを示しているのではないか。88歳の願いは、人間の願いであるに違いない。

お待たせいたしました。提訴1周年を記念したパンフレット「88歳の願いU」が漸く完成いたしました。予告ばかりでいったいいつになったらその現物を目にすることができるのかとご心配をされた方もいらっしゃることと思いますが、内容も盛りだくさんでお届けできる日がきました。
 公判も証人尋問へと突入。その盛上がりににあわせ、パンフレットも内容を充実させ、原告出張尋問の模様やホームヘルパー派遣要綱の分析などを掲載しております。 なお、パンフレットの代金は訴訟を支えるための活動に充てられます。支援の意味を込めての購 入をお願いします。

キリトリ線




「88歳の願いU−私たちのためのホームヘルプ制度―」申込書

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この申込書に記入のうえ、下記宛先まで郵送またはFAXにてお申し込みください。パンフレットとともに振替用紙を送らせていただきますので、お近くの郵便局にて代金と郵送料をお振り込みください。

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 弁護士 竹下育男 TEL06-772-7521 FAX06-772-7526




原告90歳の誕生日を迎えられる!

「支える会」からテレビを贈る 夏の暑さも乗りきり、原告さんがこの9月19日で満90歳の誕生日を迎えられました。最近は体調も比較的安定しておられるご様子です。昨年にひきつづき、今年も何か「支える会」から励ましのプレゼントをと考え、事務局会議で話し合ってテレビを贈ることにしました。丁度、原告宅では古くなったテレビが壊れてしまいました。外出のできない原告や息子さんにとって唯一の社会との窓なので、とても喜んでおられたそうです。最近はテレビも安く、1万数千円で適当なものがあり、阪田弁護士から届けられました。

原告の臨時介護ボランティア募集!!

原告と長男さんから支える会に対して、臨時に原告の介護を行うボランティア募集の要望がありましたのでお伝えします。
 原告は痰が切れにくく吸引を行う必要があり、長男さんはお風呂屋に行くこともままなりません。そこで、長男さんの入浴時間確保のため、隔週日曜日の午後2時30分から4時までの間、原告を介護して下さる方を募集します。交通費は原告側で負担します。その関係で大阪市内在住の方を希望するとのことです。また、吸引をしていただく関係上、できれば看護婦の資格を持つ方を希望するとのことです。ご応募とお問い合わせは支える会事務局(阪田弁護士TEL06-231-3110)までお願いします。


このホームページは、脇田 滋が責任をもっています。E-mail:MAH01517@nifty.ne.jp (なお、写真・資料などのバイナリーファイルはRB1S-WKT@asahi-net.or.jpへお願いします。)

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