アンダーグラウンドについて


 ネットワークには、アンダーグラウンドと呼ばれる世界がある。アンダーグラウンドの定義は難しいが、一般には、表沙汰に出来ない情報のやり取りが行われているWebサイトやニュースグループを総称してそのように呼ばれている。
 もともと明確な規定が存在しないインターネットだが、それでも、守るべきルールはいくつか決められており、それに抵触した場合には法律によって裁かれる可能性は常に残されている。アンダーグラウンドは、すべてのルールや法律から開放された「何でもあり」の世界と言っていい。ネットの世界に張り巡らされた規制や監視の網をかいくぐるべく、ありとあらゆる技術を駆使する方法がアンダーグラウンドでは日々研究され、その情報が交換されている。

 異種格闘技戦によって「最強の格闘技は何か」ということを定義することに興味を持つ人も世の中にはたくさんいるようだが、私は、異種格闘技戦を実施するまでもなく、最強の格闘技はケンカに決まっていると思っている。ケンカにはルールがない。相手が倒れたら10秒待たなければいけないわけではなく、目潰しあり、金的蹴りあり、凶器を使うこともあり。もちろんそれらはフェアーではないけれども、格闘技の純粋な目的は「相手を倒して自分が生き残る」ことにあり、例えば戦争で実際に生きるか死ぬかという瀬戸際になってフェアーかどうかなど、まるで意味を為さない。
 その、人間の最も実際的な行為である戦争ですら、化学兵器の使用や核兵器の拡散については国際的な「ルール」がある。それは、とりもなおさず化学兵器や核兵器がルールによって抑えこまれなければならないほどに「最も有効」で「最も強力」な兵器であることの証明になってしまっている。

 産業やテクノロジーの発達は、まず軍事開発から始まり、民間に普及するのが一般的な流れになっている。インターネット自体も、アメリカの国防技術にその端を発して今日の普及に至っている。軍事の研究からあらゆる分野の最先端の技術が生み出されていると言っていいわけだが、その理由は、軍事開発の目的が「いかに効率的に人を殺せるか」という極めてシンプルな一点に集約されているからである、と私は思う。そこには一切のムダや民主主義は存在しない。
 アンダーグラウンドは、ケンカや軍事開発に似た性質を持っている。ルールに則らず、ムダを排した、実利的な視点での研究。それに加えネットワークでは、圧倒的なメリットとして、多くの人が同時にそこで情報のやりとりを行うことが出来るという特徴がある。Eric Raymondの論文「伽藍とバザール」によって実証されたオープンソースの有効性は、他の何よりもアンダーグラウンドに対して有効に機能すると思われる。
 今後のネットワークに関するすべての技術の最先端は、大企業の研究所からではなく、アンダーグラウンドから生み出されてゆくことだろう。

             Shimizu Noriaki

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