アウトドア料理の今昔

 
大学時代にはキャンピングツアーというサークルに入って、テントを担いで山に登っていた。
金曜日の講義が終わるとそそくさと準備をして、夕方には総武線に乗りこんだ。
夜行列車で山を目指し車中で一泊、土曜日はテントで寝て、日曜日の夜に帰ってくるのだ。
たいていは23時55分新宿発の中央線長野行きに乗って信州へ行くか、または22時13分上野発の長岡行きで群馬や上越の山を目指した。

仲間内では、「にー・さん・ごー・ごー」とか、「にー・にー・いち・さん」とか言えば、大体どこに行くか通じていたほどだ。
今は登山も新幹線の利用が多くなり、廃止されてしまったのは寂しい限り・・・
ところで夜汽車というと、人気の寝台特急などを思い浮かべるかもしれないが、我々の利用したのは普通列車だった。
しかも途中までは勤め帰りの人も混在しているので、旅情などはあるはずもなく、登山者と一般客で車内はごった返していた。
そこであらかじめ駅の待合所で何時間か列に並び、ようやくボックス席を確保して、仲間と一緒に座ったものだった。

しかし横になることも出来ないし、車内は明るすぎてうまく眠れず、仮眠を2~3時間取れれば上出来。
翌日は寝不足のまま山を数時間も登るのだから、体力的にはかなりきつい。
こんな強行軍の計画にもかかわらず、当時は山へ行くのが楽しくて、それほどの負担とは思っていなかった。
帰宅した翌日の月曜日には元気に大学へ行っていたのだから、やはり若さのまっただ中にいたということだろう。

 
ちなみにキャンプの形態は、滞在型と縦走型の2種類に分けられる。
前者は湖畔や海辺などのキャンプ場に出かけ、テントを張ってのんびりと過ごすもので、自然の中で生活をしている雰囲気が味わえる。
体力的には楽だったが、場所の移動がないため変化に乏しく、少々物足りないのは否めない。
一方、後者は山の尾根を延々と歩いて踏破するもので、山の景観の移り変わりがダイナミックに堪能できる。

自分はもっぱら縦走型を好んでいたが、キスリングという大きなザックにテントや食料を詰めて背負い込み、山を登り下りするのだから体育会的な厳しさもある。
キスリングは横幅があるため、人混みではぶつからないように横に歩いて移動したため、当時はカニ族などと呼ばれていた。
現在はザックも縦型になったので、登山者は堂々と真っ直ぐに歩いている。
 
ところで山での楽しみのひとつは食事なのだが、ことキャンプ料理に関しては滞在型に軍配が上がる。
場所の移動がない分料理に凝って、結構な豪華メニューを作ることができる。
キャンプファイアーを囲んで、新鮮な空気の中で食べるご飯は至福の味わいなのは言うまでもない。

それに対して縦走型は山道をひたすら歩いて目的地に向かわなければならないわけで、自ずと食事に掛ける時間に余裕がないことが多い。
キャンプサイトに着いてテントを張り、食事の準備をして、食べてから後片付けまで、てきぱきと済ませなければならない。
特に日の短くなる秋の登山などでは、時間が掛かるとあっという間に日が落ちて暗くなってしまう。
灯りはヘッドランプ、懐中電灯、ローソクぐらいしかないのだ。
そんなときの食事といえば、登山を遂行させるための効率が優先されるため、メニューはどうしてもお寒い感じになる。

1例を挙げると、エッセイでご紹介している北八ヶ岳デポ山行において、ある1日のメニューは以下のようだった。
 
朝:ワンゲル定食
マグロフレーク、ふりかけ、漬け物、インスタント味噌汁、米

昼:ピーナツ定食
クラッカー、ソーセージ、チーズ、紅茶

夕:カレー定食
ボンカレー、缶詰、漬け物、コンソメスープ、米、紅茶
 
ワンゲル定食などと洒落た名前は付けられているものの、要するに朝は米を炊いて缶詰と漬け物だけで食べ、
昼は行動中にクラッカーやソーセージを適宜かじり、夕食はレトルト食品で済ますというわけである。
なんとシンプルな(はっきり言って味気ない)ことだろう。
今となってみると、よくもこんな食事で何キロも山道を歩いたと思うが、当時は平気なのだからこれも若さの為せる技か。

一方、最近の登山ではテクノロジーの進歩により、テントや寝袋を始めとした装備品が、当時と比べるとかなり軽くなっている。
食料も同様で、軽くて持ち運びのしやすいフリーズドライ化された食品も多く出回っており、
雑炊、天丼、牛丼、チャーハン、チキンライス、中華丼など、ずいぶんとメニューの幅も広がっている。
レトルト食品でも定番のカレーやシチューを始めとして、中華なら麻婆豆腐、青椒牛肉絲、回鍋肉、
イタリアンではドリア、パスタ、グラタン、和食であれば焼き魚、焼き鳥、煮物などと、多彩な食品がラインナップされている。
また、当時はインスタントラーメンなどもよく食べたのだが、麺類はゆでるのにお湯がある程度必要で、寒い山ではなかなかお湯が沸かない不便さがあった。
現在では真空パックで売られている「ゆでうどん」「ゆでパスタ」などもあり、大量のお湯を使わなくても食べられるようになった。

こうして調理時間や荷物の負担から解放されたのか、最近は山での食事にもグルメを求める傾向にあるようだ。
つくづく良い時代になったものだ。
ただ当時と比べて体力・気力はなくなったので、実際の登山はしていません・・・・残念!

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