ボウリングとスポーツ・オノマトペ
  
 「オノマトペ」ってご存知ですか? 語源としてはフランス語の「onomatopee」に由来していて、擬音語とか擬態語とかいう意味です。要するに「雪がシンシンと降り積もる」とか、「お肌がプルプルしている」とか、「部屋がガラーンとしている」とかのように、物事の有様を音に関連付けた言葉で表現することです。今年はNHKの朝ドラ「あまちゃん」で「じぇじぇじぇ」が流行ったし、医学分野でも「むずむず脚症候群」という病名があります。日本語はオノマトペの宝庫なのです。

 これを運動分野で活用することを、朝日大学経営学部准教授の藤野良孝氏が提唱し、スポーツ・オノマトペと名付けました。具体的には、パワー(動きのカ強さの程度、たとえば、腰を落として「グッ」と押す)、スピード(動きの速さの程度、相手の懐に「サッ」と体を入れる)、持続性(動きの持続時間の長短、「ポーン」とボールを打ち返す)、タイミング(動きの実行効果を最大にするための時間的調整、「ピタッ」とタイミングを合わせる)、リズム(一連の動きの時系列的調整、「トン・ト・トン」と足を踏む)などを表現する言葉として、オノマトペが使われているのだそうです。

 実際にスポーツ選手が、プレーの最中に声を出すことは、それほど珍しいことではありません。テニスのシャラポワ選手はショットを打つたびに「アー」とか「ハー」とか絶叫するし、室伏広治選手はハンマー投げで「ンガアアアツ」と叫ぶし、卓球の福原愛選手は「サーッ」と言ったりしていますね。これがスポーツ・オノマトペです。ちばてつや原作のゴルフ漫画「明日天気になあれ」では、主人公が「チャー・シュー・メン」と言いながらショットをしていました。それから、燃えよドラゴンのブルースリーが使う「アチョー」はあまりにも有名ですよね。このように運動時のパフォーマンス向上にも、オノマトペは使われているのです。

 ところで、高崎市医師会ボウリング部のM先生は投球の際に、高崎高校の応援歌「翠巒」を歌っているとのことです。「翠巒影を浮かべては〜♪」のリズムが、ちょうど助走から投球に至るタイミングに合っているのだそうです。さすが元合唱部ですね。このようにボウリングで最も重要と考えられるのは、いつも同じリズムで投球するということです。そのためにはアプローチから始まって、ボールをリリースするまでのひとつひとつの動作が、常に連動して一定になっていなければなりません。では合唱どころかカラオケさえ苦手な人は、どうしたらよいのでしょうか。

 さあ、そこでオノマトペの登場です。ちなみに私のアプローチは5歩助走。そこでまず助走用オノマトペを作ってみます。1歩めはゆっくりと余裕をもって踏み出したいので「トーン」と刻み、2歩め3歩めは小さく早めに足を運ぶため「ト」だけにし、4歩めは大きく踏み出すように「トォ〜」と伸び、5歩目めは体重移動を完了して足を止めるために「トッ」と詰まる音を加えてみました。そしてこれに、ボールをリリースするときの「サ」という素早い感じの音を最後に加えます。「トーン・ト・ト・トォ〜・トッ・サ」というボウリング・オノマトペの完成です。足が止まった後に手がおりてくるという、自分の理想としているタイミングで投球できるはずです。なおこれにはバリエーションもあり、「サ」の代わりにレーンコンディションによって、強いボールを投げたいときは短く「ガ!」と言い、滑らかに投げたいときは「シュゥー」などと音を伸ばして使い分けています。

 ちなみにこのボウリング・オノマトペを用いるようになってから、少しスコアが良くなったような?感じがします。ぜひ皆さんもボウリングに限らず、ゴルフ、テニス、野球など、いろいろなスポーツで試してみてください。でもオノマトペが普及して、皆ぶつぶつと唱えたり、何か叫んだりしながらプレーするようになったら、知らない人はちょっと引いちゃうかも。
 

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