終章 教授の説明


「極めて近い将来、我々は既知のすべてのサイキック現象に対して科学的説明を与えることができるだろう」
1900年にある懐疑主義者によってなされた約束―100年後の今、私たちはその約束が果たされるのをまだ待ち続けている


O:なんだ。まだ最後の一章があったのか。

ヴィ:私の提示する証拠は終わりですが、教授を尊重して新たな一章を設けることにしました。

O:なるほど。で、まずなにを説明すればいいの?

ヴィ:まずは、スウェーデンボルグの話から私は始めました。きちんとした資料が残っている例として、スウェーデン王妃が彼に皮肉混じりで、もし彼女の亡くなった兄と会ったならよろしく伝えてくれ、と言った話があります。1週間後、スウェーデンボルグは王妃の耳元であることをささやきました。王妃は震えながら周りの者にこう言ったそうです;

「彼が今私に告げたことは、兄だけしか知らないはずです」


 教授、この話がもし本当だとしたら、どう説明しますか。

O:これは簡単だ。故人の記憶はどこかにどんどん溜まっていく。それにアクセスしただけのことだ。

ヴィ:しかし教授、考えてみてください。人類全体の記憶といったらその量は膨大なものです。その中からいったいどうやって特定個人の情報を引き出すのですか。

O:彼はきっと、その検索方法を知っていた特殊な人なのだろう。

ヴィ:そんな一言で片づく問題だとは思えないのですが。まあ、いいでしょう。

 テープに見えない人たちの声が録音されるEVPは、念写のテープ版ということでしたね。では、電子機器を用いて見えない人たちとの会話が成り立つITCはどう説明しますか。

O:それは結局、潜在意識の作り出した副人格と会話しているに過ぎないんだな。

ヴィ:副人格が電子機器に働きかけて、一般的な電波を全く受信しない装置から声を出すわけですか。すごいものですね。ということは、物理心霊現象はすべて、我々、生者の偉大な潜在意識の成せる業なのでしょうか。

O:そうだ。

ヴィ:そう開き直られてしまうと・・・。では、別の線から考えてみましょう。

 幻像、いわゆる幽霊現象が、残された記憶に感応した生者が無意識に作り上げた故人の客観的な実像だとしましょう。しかしそれなら、何年も考えたことのない人や、一度も見たことのない人の幻像が現れるのはどうしてなのでしょう。故人の客観的な実像は、その故人に対する知識が無くても生まれてくるものなのでしょうか。つまり、会ったこともない、確かに実在した人の幻像を、なぜ作り上げることができるのでしょう。

O:そりゃ簡単だよ。その故人の情報は完璧に保存されていて誰でもアクセスできると思ってごらん。たくさんのスライドの中から一枚だけ選び出して投影するのは誰でもできるでしょう。そのスライドの中身に関する知識が全く無くてもな。

ヴィ:じゃあ、我々は無意識に死者の情報を呼び出して、それを実像として投影しているわけですか。そうは言っても、その幻像が絶妙のタイミングで現れるのはいったいどうしてなのでしょう。何年も会ったことのない知人が、遠隔地で亡くなったそのときに、幻像として姿を見せる事例はどう説明されるのですか。

O:死に際のテレパシーが幻像を生起させただけだ。何もそんなに悩むような現象ではない。

ヴィ:それでは「マイヤースによる交叉通信」はどう説明していただけるのでしょう。

O:それは、潜在意識から生まれた副人格が生前のマイヤースのように振る舞ったに過ぎない。

ヴィ:そうは言っても、この副人格は、どうしてこれほどまでに生前のマイヤースとそっくりなのでしょう。しかもなぜ、複数の霊媒から、同じ副人格が現れるのでしょうか。これは単に、マイヤースの記憶にアクセスした結果だとは思えません。

O:人間の性格は記憶によるところが大きい。マイヤースの一生分の記憶は、生前のマイヤースそっくりの人格を生み出すことができる。

ヴィ:でも退行催眠においては、他の人の記憶を思い出したからといって、その人の性格が全く変わってしまうということはありません。人間の性格は記憶だけで決まるものではありませんよ。

O:退行催眠では、すでに確立した性格を持っている主人格が記憶を思い出している。それと、生まれたばかりのまだこれといった性格を持たない副人格が、ある人の記憶で埋め尽くされるのとでは全く違う。

ヴィ:つまり、我々の主人格から分離した副人格、

O:いや、その言い方は正しくない。我々の主たる人格は顕在意識にしかない。一方、私が今言っている副人格は、潜在意識のレベルから生まれてくるものだ。だから「我々の潜在意識から分離した副人格」という言い方が正しい。

ヴィ:いいですよ。その言い方にしましょう。結局、ウィジャ盤を通じて交信してくる相手、幻像、臨死体験時にあらわれる存在、霊媒の伝える人格、ITC・EVPによる通信相手、臨終の床に現れる人、ポルターガイストの原因となる存在、過去生退行で現れた記憶、異言状態に現れる人格、こういったそれぞれの現象において現れる特定の個人を装った個性は、すべてこの「我々の潜在意識から分離した副人格」なのだ、と、こう教授は言いたいのですね。

O:正にそうだな。

ヴィ:そしてこの副人格は、電子機器を操り、ジープを浮かべ、故人の実像を作り出し、宙空から人の声を聞かせ、人間や物体をテレポートさせたり、現代の物理を無視した異常な力を持っているわけですね。

O:まあ、その原理もおいおい科学で解明されていくだろう。とにかく、死後の世界などが出てくる余地はどこにもない。ヴィクター、長い間ご苦労。結局君は死後の世界の存在を証明できなかった。私は死ぬ前に、君の言った事柄を思い浮かべながらいさぎよく消滅していこう。死後の世界などどこにもないんだ。

ヴィ:まだ終わりではありません。その超PSI仮説には大きな落とし穴があります。

O:何?

ヴィ:いいですか。これだけの未知の要素を持った、現代の科学では解明できない副人格を生み出す潜在意識を、我々はこの心の中に持っているのだとしたら、それが死と共に消滅してしまうとなぜ言い切れるのでしょう?

O:心は脳が生み出すからに決まっているじゃないか。

ヴィ:では人類の集合記憶にアクセスしているとき、脳のいったいどこの部位が動いているというのですか。重たい家具を宙に浮かせる力は、脳のどこと関わっているのです?

O:そのうち説明されるよ。脳の中には使われていないとされている領域がたくさんあるのは知っているだろう。おそらくその部分が、今の科学ではとらえられない形で、これらの現象と関わっているんじゃないか。

ヴィ:わかりました。やはり超PSIは、我々にとって乗り越えられない、「究極の屁理屈」のようですね。でも教授、教授のその考え方は天動説のようなものです。天動説自体に誤りはありません。地球が全く動かないと仮定しても、すべての天体の動きを説明できます。そうですよね、教授。

O:否定はできないな。ただ、地球を中心として考えると、他の天体の動きが果てしなく複雑になるが。

ヴィ:果てしなく複雑でも説明はできる。だから今でも天動説を信じている人たちがいますし、信じられないことに地球が平らだと今だに言い張っている人たちもいます。地球が丸いことを示す証拠を、光が遠くに行くほど曲がって届く証拠と解釈し、丸い地球の写真は国家の陰謀だと訴えます。滑稽だとは思いませんか?

O:ヴィクター、いったい私に何を言いたいんだ。はっきり言いなさい。

ヴィ:教授は天動説を信じますか。

O:まさか。

ヴィ:どうしてです? 天動説でもすべてを説明できるのに。

O:地動説の方がずっと合理的でスッキリしている。だからといって、死後の世界仮説の方が超PSI仮説よりも合理的だとは思わん!

ヴィ:先を越されましたね。でも私には、死後の世界が存在するという解釈の方が、変な超PSI仮説なんかよりずっと合理的だと思えるのですが。こちらの方がとても簡潔でスッキリしていませんか。

O:何と言われても、死後の世界など無い!

ヴィ:そうですか。教授に対して死後の世界があることを証明するには、教授自身があちら側に行っていただくしかないようですね。最後にひとつ質問させてください。

「なぜ、どうして、そこまで死後の世界を否定するのですか?」

O:それはだな、ヴィクター、私はそんなものを信じていないからだよ・・・。

弁護士の論じる死後の世界


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