23.異言


「たとえテレパシーが本当だと証明されても」と高名な生物学者がウィリアム・ジェームズに言った。「学識豊富な人が、科学者たちを揺るがせ研究を続けられなくしてしまうかもしれないその事実を、隠して世間に広まらないようにするべきだ。」
ブライアン・イングリス


ヴィ:狂心家や懐疑論者、無神論者たちが故意に無視し続けてきた、最も驚嘆すべき心霊現象のひとつに異言−全く学習したことのない外国語を話したり書いたりする能力−があります。異言を説明するために色々な説が提唱されてきましたが、結局のところ、これは過去生において学習した言語の記憶、もしくは肉体を捨てた霊とのコミュニケーションの証拠として考えられます。

 ある人が一度も習ったことのない言語を話したり書いたりしたという記録は、年齢に関わらずたくさんあります。この現象は自然発生的に起きることもありますが、催眠下や意識が変容している状態の時に、より多く見られます。思い出すのがほんの一言、二言の場合もありますが、ときには全く流暢に、その言語を母国語とする人たちと談話を交わしたり、何世紀も話されていないような変わった方言を使ったりします。

O:過去生だとか霊だとか、ヴィクター、どうして君はもっと科学的になれないの。人間の記憶力というのはすごいもんだよ。

ヴィ:?

O:催眠にうまくかかると、幼年期のものすごく些細なことまで思い出すというじゃないの。そうでしょ。

ヴィ:そうですね。

O:そういった隠れた記憶を思い出しただけということで、この現象は説明できるんじゃない。

ヴィ:それでは実例を聞いて、改めてその説で説明できるのかどうか考えてください。


O:これは説明できるじゃない。きっとテレビやラジオで放映された言葉を、その少年が無意識に記憶していたんでしょ。

ヴィ:では、これはどうでしょう。


O:どうも霊媒っていうのは信用できなくて。

ヴィ:こんなのもあります。


O:それは、全くの詐欺でなければ、幼年時代に自分ではそれとは知らずに言語を学習したんだな。でなければあり得ない。

ヴィ:もちろん注意深い調査者は、常にその両方の可能性を徹底的に調べます。

 イアン・スティーブンソン博士は合衆国で最も尊敬されている科学者の1人です。彼は異言に的を絞った調査研究をし、この分野の研究者を先導する科学的な本の一冊である「Xenoglossy(異言)- 1974」を書きました。その中で彼は、37歳のアメリカ人女性について報告しています。催眠にかかった彼女は、声と性格が完全に男性のものへと変わってしまう体験をしました。彼女は、普通の意識状態では話したり理解することができないスウェーデン語で、流暢に話したのです。

 スティーブンソン博士はこの事例と直接関わり合い、その調査は8年以上続きました。この研究には言語学者と他の専門家、科学者たちが巻き込まれ、代わりの説明の可能性が細心の注意を払って調査されました。

 詐欺仮説は、スティーブンソンが彼の研究で概説している、たくさんの信頼できる理由によって除外されました。研究対象である彼女と、医者である夫は完全に調査されました。彼らは極端に厳密で長い間続く調査の下におかれたため、その内容を公表されることを嫌がり、プライバシーを守るために彼らの名前を変えるという条件で初めて、研究の出版に同意しました。この夫婦は周囲の人たちから、正直で礼儀正しく、彼らの行いは模範的だとさえ言われています。この手の詐欺をするための個人的な利益・名誉を求める動機が、彼らに見あたらないのは確かです。それどころか、研究を完全にするために、彼らは何年にも渡って多くの不都合を経験してきたのです。

 クリプトムネシア−以前に学習し、忘れていた外国語を思い出すこと−も同様に除外されました。この事例を何年も調査した結果、彼女あるいは彼女の親が、幼いときにスウェーデン語を学習したり、スウェーデン語を話す誰かと関わり合ったことがある可能性は、徹底的に否定されたのです。

O:でも、メディアを通じてスウェーデン語に触れた可能性は否定できないんじゃないの。いくら追跡調査をしたって、37歳になるまでのすべてを調査できるもんでもないでしょ。

ヴィ:しかしそれなら、せいぜいスウェーデン語のフレーズがいくつか出てくるだけでしょう。彼女はこの言語を操り、流暢に話したのですよ。

 スティーブンソンが同じように注意を払って調査したもう1つの事例が、アメリカサイキック調査協会の1980年7月の会報に報告されています。ウッター・フッターという32歳のインド人女性の性格が、突然1800年代初頭にベンガル(インド北東部の旧名)西部にいた主婦の性格に変わってしまいました。彼女は自分自身の言語マラッタ語の代わりにベンガル語を話し始めたのです。何日間も、ときには何週間も、彼女は自分自身の家族と話すためにベンガル語を通訳できる人を呼んでこなければなりませんでした。

 こういった事例をどのように説明します?

O:これだけはハッキリ言える。こんな研究は当てにならない。案外、そのスティーブンソンとかが、異常な研究を学会に認めてもらいたいがためのねつ造じゃないの。

ヴィ:教授、もうそろそろ、その「ねつ造」という言葉を出して逃げるのはやめませんか。もちろん、スティーブンソン以外にもたくさんの人が色々な事例を伝えています。


O:ふーん、もしこの研究になにがしかの真実があるとしたら・・・。これはあれだよ。

ヴィ:あれって何です?

O:あれだよ。私がいつも提唱している。

ヴィ:何のことでしょう。私はいつも思うのですが日本人の話し方はとても曖昧です。

O:いいじゃないの。西洋のようにすべてを杓子定規に構えないのが日本の文化だよ。私の知り合いのアメリカ人が「O教授、これをそれにあれしてください。」と言ったとき、私は初めてその男が本気で日本を理解しようとしていると認めたものだ。

ヴィ:で、いったい何なのですか。教授の言う「あれ」とは。

O:言わなければわからんのか。それでは日本女性にもてんぞ。相手のちょっとした仕種で、何を言いたいかを理解してやらないとな。

ヴィ:あいにく私は、教授と結婚するつもりはありませんので。

O:私もヴィクターと暮らすなんてお断りだよ。

(しばし、無言で目を合わせる二人。)

ヴィ:教授の考えが見えてきました。またテレパシーで説明するつもりですね。

O:その通りだよ。やっと私の言いたいことをわかってくれたようだね。

ヴィ:ええ。教授の説によればテレパシー能力を持つ人はたくさんいるようで。きっと私にもその能力があるのでしょう。教授からテレパシーが来るのを、ものすごく感じましたよ。ええ、とってもものすごく。これはおそらくとってもありふれた能力なのでしょうね。すべての超常現象はテレパシーで説明できるのでしょう。

O:どうも、君のその言い方にはとげを感じるんだが。

ヴィ:大丈夫、それは気のせいではありませんよ。

(再び、無言で目を合わせる二人だった・・・。)

ヴィ:教授、テレパシー説を持ち出すのでしたら、是非この事例もその説で説明してください。


O:いかに珍しい言語でも、実際にそれを理解する人たちがいたんでしょ。そういった人たちというのは、自分の知っているその言葉を話したくてしょうがないんだよ。でも、そんな珍しい言葉で話せる相手はいない。となると、話したい思いはどんどんふくれあがり、いずれその思いをキャッチして、その希少言語を話すものが出てくる。

ヴィ:なるほど。ちょっとそれらしい説明ですね。でもこれはどうです?


 いったいこの世の誰の頭の中に、中世英語を用いてこれだけの文学作品を生み出す内容が詰まっているというのですか。仮に、そのような人が存在したとしても、なぜその人は自分でその内容を発表しないのでしょう。なぜ中世英語なのでしょう。現代英語で書いた方がよほどたくさんの読者を獲得できると思いませんか。

O:もしくは、遺伝子の記憶とも考えられる。遺伝的な性格・病気と同様に、ある種の記憶が遺伝子を通じて伝えられるんじゃないの。

ヴィ:その主張をまじめに受けとめることは難しいですね。古代の中国語が、11歳の白色人種であるアメリカ人の遺伝子にどうにかして埋め込まれ、彼に言語を話させたという主張は、はっきり言ってばからしいです。

O:君の、死後の世界が存在するという主張も、はっきり言ってばからしいな。いや、はっきり言わなくてもばからしい。

ヴィ:それなら、今まであげてきた事柄がなぜ起きるのかを説明してください。異言だけで考えても、事例は何千とあり、そのうちの何百かは正式に文書化されています。イアン・スティーブンソン博士は異言を科学的に検証し、この現象を説明できる説は次の二つのどちらかであると結論しています。

1. 霊との交信
2. 過去生というものが存在し、それを思い出した

 このどちらが正しいとしても、死後の世界を考えずに異言の現象を説明することはできません。

O:どこかに、すべての記憶の貯蔵庫みたいなものがあって、そこにアクセスしてしまったんじゃないか。

ヴィ:教授、すばらしい! そのアイデアはまともな反論に属すると思います。

O:冗談で言ったのに。

ヴィ:いえ、是非、本気でその可能性を考えてみてください。それは死後の世界の実在性を考える手助けになるでしょう。

O:なんだかな〜。まっ、死後の世界があると考えるよりはましか・・・。

弁護士の論じる死後の世界


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