序章


「何かを読むときは、反論したり反証するためではなく、また信じたり当然のこととして受け取るためでもなく、熟慮し考慮するために読むのです。」
サー・フランシス・ベーコン


O教授:これから紹介するヴィクターは実在の人物で、オーストラリアに生まれ、以前は公式に資格を取得した弁護士として開業してたそうだ。その彼が、事もあろうに死後の世界は存在するなどと世迷いごとを唱えている。弁護士が! 私の感覚で言えば、弁護士というのはもっと固い、思慮分別のある職業なんだが・・・。それとも彼は弁護士をやめるときに、そういった英知も脱ぎ捨ててしまったのか。まあ、とにかくその主張を聞いてみることにしよう。

ヴィクター:紹介をありがとうございます。お言葉ですが私は至って正気です。偏見のない調査者として、私は現存する死後生存の証拠を調査し始めました。また他の者の協力を得ながら、他界の知的存在との交信は可能だという主張を、自分達自身でテストできるような環境も整えてきました。そして、何年もの真剣な調査の後に私は、これらの膨大な証拠類は、死後の世界が疑いもなく存在することを指し示しているという、取り返しのつかない結論にたどり着いたのです。

O:ほーほー。つまりその手の資料を読みすぎたせいで感覚が常識からずれ、死後の世界があるような気になってきたわけだ。

ヴィ:違います。私は客観的証拠が、ただ非常に高い価値を持つと言っているのではありません。私はこれらの証拠が全体としてとらえられたとき、他界の存在を示す圧倒的な、O教授、あなたすらも論破できるほどの証明を形作ると論じているのです。心霊現象とその科学的な研究について書かれた文献は、今までに数え切れないほどあります。弁護士としての私の専門的なバックグラウンドと、大学で学んだ心理学・歴史と科学的な手法を用いて、私は非常に慎重に心霊研究と他界に関する認識の一部を選び出し、連邦最高裁判所、イギリスの英国上院、オーストラリアの高等裁判所、その他で専門的に客観的証拠を提出するのと同様な方法で事例を議論してきたということなのです。

O:なんだか面倒くさい言い回しをするな。要するに私情をはさまずに弁護士としてのプロフェッショナルな吟味をしたと言いたいんだな。

ヴィ:すみません、職業がら厳密な言葉遣いになれているもので。なるべく簡単に話す努力をしてみます。私がこれから紹介する客観的証拠類:

 その他の証拠がすべてまとまって考慮されるとき、死後生存の主張は衝撃的で論破できない絶対的なものとなるのです。同じく、ここに提出された証拠はいわゆる『サイキックな現象』が存在することを証明します。そしてこれらは、ただ死後生存によってのみ満足に説明されるものなのです。

O:いやはや、なんだか聞いたことのない言葉がたくさん並んでいるな。よくそんな、日本人でも知らない日本語を知っているもんだ。ところで『サイキック』にはちゃんと『超能力者』っていう日本語訳があるぞ。

ヴィ:日本人のあなたに対してこういうのも何ですが、その訳は半分しか正しくありません。この『サイキック(Psychic)』という言葉ほど心霊研究の歴史をよく現している言葉はないのです。1900年代の始めまでは、この言葉は『心霊』を意味しました。しかし、心霊研究が進みその現象の存在性に疑いがなくなってくると、今度はその現象を生きている人の心の力だけで説明しようとする一派が現れたのです。その頃から『サイキック』の意味に『超能力』が新たに加わりました。だから『サイキック』の語は、『生きているにせよ、死んでいるにせよ、とにかく人間の心によって発生する』というようにとらえられるべきなのです。

O:なるほど。まあそれはいいとして、そんなにたくさんの科学的な証拠があるのなら、なんで今まで騒がれなかったの? 誰でも不思議に思うよね。

ヴィ:なぜかわかりませんが、心霊科学という分野に対して何年もの間、マスメディア、大学、そして教会の一部から敵意が向けられていました。

O:(そりゃ、いいかげんなことを科学と称する者に敵意が向かうのは当たり前だろ!)

ヴィ:死後の世界を証明するために取り組む真剣な科学者の発見は誤報されて、ゆがめられ、そして無視されていたのです。心を閉ざした懐疑論者(次章参照、いわゆる分からず屋!)たちは、その社会的地位を利用してメディアの注目を集め、今までに蓄積されてきた科学的な研究の素晴らしい内容を笑いものにし、その内容についてほんの少ししか知らない一般大衆をだまして嘘をついてきました。この魅力的な分野を正真正銘に追い求め、探検することを切望している人々の多くが、正しい、ゆがめられていない情報に出会う機会を逸しています。

O:まあ、そこらへんは何とでも言えるな。でもその、ヴィクターが見つけだしてきた証拠が信用できるって保証はどこにあるのかね。

ヴィ:私が選び出してきたのは科学的な証拠です。それ自身、実証することが不可能な『主観的な』認識ではないのです。個人的な宗教的信念 -キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、ユダヤ教などは主観的な認識に属します。主観的な認識には同様に、やみくもに死後の世界が存在しないなどと言い出す、頑固な心を閉ざした懐疑主義も含まれます。O教授、あなたがテレビでよく言っている事柄も、ほとんどが個人と主観に根ざす信念で、科学とは相容れない、全く説得力のないものです。

O:だってあれはテレビだよ。あそこで何でもかんでも否定するのが私の役どころなんだから、それをどうこう言っても始まらないでしょ。
***このO教授は、実在の人物とは関係ありません***

ヴィ:それでお金を稼いでいるあなたが情けない。

O:だって、大学だけの費用じゃ、大がかりな研究はできないんだよな。
***繰り返しますが、このO教授は、実在する人物とは全く関係ありません***

ヴィ:他にもっと真っ当な稼ぎ方があるでしょう。

O:いや、私はこれも真っ当な稼ぎ方だと思ってるよ。考えてごらん。私みたいな抑えがないと、世の中にはあやしげなオカルトがすぐにはびこってしまう。ガールフレンドが「占いによると今日は日が悪いからデートはやめましょう」と言い出したり、結婚を申し込んだら「亡くなった祖母に伺いをたててみるから」とか言うのが普通の世界になってしまったら、君もいやだろう?

ヴィ:そういうオカルトと私の主張を一緒にしないでください。

O:変わらんよ。

ヴィ:聞いてください。いわゆるオカルトは主観的認識に基づいています。しかし、客観的な認識− 科学−では、同一の原因に対して同一の結果が、時間と空間を超えて保証されます。同一の方式で条件を変えずに実験をすれば、他と同じ結果が得られるが故に、科学は「客観的である」と見なされるのです。電子音声現象(EVP)と電子機器を用いたトランスコミュニケーション(ITC)の研究は、明らかにこの反復可能性の原理を示しています。多くの異なった国で、それぞれ独立に調査している者たちが、他のものと同一の結果を得てきたのですから。私はこれらの客観的分析を元に調査を進めました。

O:心霊研究が怪しいのは、再現性がないからだ。私もいろいろな超能力者、霊媒を訪ねたが、皆、私の前ではできないとか言いだして。そんなことでは信用できるはずがない。もし仮に、君の言うような再現性のある心霊現象があるなら、これは是非聞かせてもらいたいものだね。

ヴィ:ありがとうございます。しかしそうは言っても、すべての科学が管理された研究室で行われるわけではありません。科学の定義の中に『現象の組織的、体系的な観察』があります。例えば野生動物の生態を調べるのに、彼らを実験室に持ってきて観察するわけにはいきません。教授が訪ねた人たちの中にも、もしかしたら本物がいたかもしれません。ところが、あなたの威圧的な態度の前で超能力者や霊媒たちは、実験室に連れられてきた野生動物のように、日頃の行動を示すことができなくなってしまう。こういった可能性も考慮されなければなりません。

O:早くも逃げ道を用意してきたな。

ヴィ:いいえ。私の言いたいのは、一部に実験室では再現不可能な事例もあるということです。そしてそうした事例研究もまた、科学的な方法論において重要なものなのです。厳密に科学的方法論に乗っ取って評価していく限り、その結果は必然的に科学に根ざしたものになります。

O:わかった。もう前置きはいいから早く本論に入ってくれよ。

ヴィ:最後にもうひとつ注意を言わせてください。この発表を記録に残すにあたって、私は他人の信仰や宗教、信念を変えようとしているのではありません。これは宗教改革ではありません。信念や信仰の問題ではないのです。客観的証拠を受け入れるかどうかが問題なのです。

 O教授、そして読者の皆さん、あなたはこれから、死後の世界について非常に重要な客観的情報に、あなたの人生において間違いなく最も重要な情報にアクセスしようとしています。そして最後に、すべての情報が与えられた後には、あなたは何を受け入れ、何を拒絶するかの選択を迫られるのです。 過去に、聖職者達は個人的な宗教的信念と対立するという理由で、科学の受け入れを拒否してきました。ガリレオがローマ法王に望遠鏡を見せ、これが彼の宇宙観を証明してくれると言ったとき、ローマ法王は望遠鏡を『悪魔の仕事』と呼んで、それを覗くことを拒否したのです。けれども聖職者達はやがて、科学が個人的で主観的な宗教的信念を打ち負かすのを、折に触れて認めていかなければなりませんでした。他の道はあり得ないのです!

O:だいぶ力が入っているようだが、その情報が本当に、私の人生において間違いなく最も重要な情報であることを祈るよ。あまり期待してはいないがな…。

弁護士の論じる死後の世界


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