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 ことばをめぐるひとりごと  その20

「ダサい」はいつから

 あなたが「ダサい」ということばを初めて耳にされたのはいつでしょうか。稲垣吉彦『最近日本語事情』によれば昭和54年のことばとなっているようですが(井上史雄『方言学の新地平』に引用)、もっと前からあったはずです。僕がずっと昔、ある散髪屋で読んだマンガに「だせえぜ」を口癖にする編集者が出てきまして、それが「ダサい」を見た初めでした。何というマンガだったか……。
 以前、このことばについてパソコン通信で情報を求めたところ、何人かの方からメールをいただきました。以下ではそれらをふまえ、「ダサい」の発生、流行、そして語源についてまとめてみようと思います。

発生
 証言の中で最も早い使用例報告は、1961年札幌出身の方の「1970年代に入ってから」というものでした。(小学校の)同級生など皆が言っていたとか。

「あいつの服装はダサい」(かっこわるい)
ダッサーイ、先生に叱られてやんの!!」

などと使われていたそうです。
 年代のはっきりした証言としては、鎌倉市出身の方が中学2年生のとき(1975年)に聞いたそうです。いつの間にかクラスの中ではやっていたということです。最初は「変な言葉だ」と思ったそうです。
 同じ年(1975年)、中野区の高校1年だった方も、初めて「ダサい」を聞いたそうです。友だちが会話の中で、次のように話してくれたそうです。

ドボルザークは9曲の交響曲を書いているんだけれど、その1〜4番までは自分ながらダサイ曲だったもので、一時作品から末梢〔原文ママ〕して、5番目の曲に1番という番号をふったのです。でも後世の人が、それではおかしいというので、作曲されたものは全部番号に入れることにしたんです。

 この方のお祖母様・お母様もそのことばを知らなかったとか。
 1977年、当時9歳だった男性は、学習塾の上級生が、かっこわるい人や物を見る度に「ダッセー」と言うのを聞いたそうです。その上級生は何を見てもダサいを連発、塾の先生が「意味の分からない言葉を使うな」と怒ったとか。
 これらの証言から、1970年代には「ダサい」ということばを聞いて「変だ」とか「意味が分からない」と思った人がおり、だれもが広く知っていたことばとはいえなかったようです。長崎市のある方は「70年代には使われていなかったように思う」と証言していました。
 なお、新語・流行語を載せた年刊の『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では、1978年版に載っているのが早い例です。ただし、それ以前の号では俗語をあまり取り上げていなかったために収録されなかった可能性があります。

流行
 1980年代にいわゆる漫才ブームが起こり、1981年5月からフジテレビ系列でコント番組「オレたちひょうきん族」が放送開始になりました。
 報告者のひとりは、この番組をさかんに見るようになってから「ダサい」を確実に使ったといいます。
 同じ80年代には、タレントのタモリがバラエティー番組で埼玉県をからかって「ださいたま」ということばを使い、このことば自体も流行しました。埼玉県がその後、イメージ改善にずいぶん苦労したことはご承知の通り。1981年には、さいたまんぞうの「なぜか埼玉」という曲も生まれ、ヒットしました。
 なお、1980年の流行語に「ナウい」があります。また、1981年のフジ系「欽ドン!良い子悪い子普通の子」からは、「イモ欽トリオ」が誕生し、「イモ」ということばも流行しました。これらを頻繁に使っていたという報告者もいました。
 当時、物事を「ナウい」か「ダサい」かの二項対立によって判断することがよくありました。「ダサい」はそうした風潮に乗って一般化したのでしょう。現在では、「ダサい」ということばを聞いて意味の分からない人は、ごく少数になりました。

語源
 「ダサい」の語源について、多くの報告者が「かっこわるいね! だって埼玉だもん!」の「だって埼玉だもん」が省略されたものと考えていました。中には、格好悪いという意味で「それって、ダサいタマー」のように使ったという方もいました。
 しかし、上記の「ダサい」の歴史(?)を見れば明らかなように、「ださいたま」は、「ダサい」に「埼玉」をひっかけて作られたしゃれで、はじめからあったわけではないようです。
 他の説では、『現代用語の基礎知識』1990年版で「田舎」を「だしゃ」と読んで、「だしゃい」が「ださい」になったと説明していますが、これも信ずるに足りないでしょう。「田舎」を「だしゃ」と読むことがきわめて不自然ですし、1970年代の用法をみても明らかなように、当時はかならずしも「田舎臭い」という意味では使わず、「間が抜けている」「格好が悪い」という意味でも使われているからです。
 また、「毎日新聞」1991.10.04では「鈍くさい」などからかもしれないという説が紹介されていますが、これも無理があると思われます。
 結論として、「ダサい」の語源は不明といわざるをえません。ただ、前出『現代用語の基礎知識』1978年版では「暴走族を震源地とする言葉」とされています。一つのヒントになるでしょうか。

(1997.02)

追記 小野秀一さんから1997年に教えていただいたところでは、漫画家の谷岡ヤスジ氏が酔っ払って人としゃべっていたとき、「野菜」と言おうとして「ダサい」と言ったという説があるそうです。逢河信彦著『懐しのマンガおもしろ意外史』(二見書房)に載っているとのことです。
 もっとも、「野菜」から「ダサい」ができるというのは、かなり無理があるように思います。(2001.07.21)

追記2 境田稔信氏より、見坊豪紀『現代日本語用例全集』(筑摩書房)に、1975年の「平凡パンチ」の女子高校生の用例(「あのコ、ダサイわネ」)が載っていることを教えていただきました。僕は把握していませんでした。
 境田氏の文章「「ださい」の語源説」が日本校正者クラブ機関紙「いんてる」98(2002.03.07)に掲載されています。上に示したような語源説に加え、境田氏自身の考察も加えられています。
 辞書では『三省堂国語辞典』第3版(1982)が最初とのことです。(2002.03.21)

追記3 境田氏からの追加情報です。武光誠『県民性の日本地図』(文春新書)には、「ダサい」の語源について「だって埼玉だもん→ださいたま→ださい」と「堂々と」書いているとのことです。また、その後、日本人を知る研究会『県民性の統計学』(角川oneテーマ21)でも同じように「ださいたま」説を載せているとのことです。やはり信用できませんが、民間での語源説というものは、このようにして広まってゆくのでしょう。
 なお、小学館の『日本国語大辞典』のホームページ「日国.NET」では、skidさん(この方はだれ?)が

「マブ」の反対は「ダサイ」で、「ダサイ女」といわれると、スケバンは恥ずかしがる。カッコ悪い、みっともないという意味なのだ。

という雑誌「POKETパンチOh!」(1974.06.01)の用例を報告しています。やはり1970年代前半には存在したのですね。(2002.11.16)

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