HOME主人敬白応接間ことばイラスト秘密部屋記帳所

「ひとりごと」目次へ
前へ次へ
きょうのことばメモへ三省堂国語辞典
email:
99.01.27

重症・重体

 「重症」と「重体」は、似ているような気がしますが、どう違うのでしょうか。
 僕は「意識不明かモーローとしているのは重体、意識ははっきりしているがベッドから動けないのは重症」ぐらいに考えていたのですが、これはあやふやです。手元の『集英社国語辞典』を見ると、「重症」は「病気・けがなどの症状が重いこと」、「重態・重体」は「生命に危険があるほどにけがや病気の重い状態」とあり、程度差ぐらいしか違いがないような説明です。
 そこで、『プログレッシブ和英中辞典』(小学館)を見ると、「重症」は「a serious illness」という訳で「深刻な病気」、「重体・重態」は「(a) serious condition」という訳で「深刻な状態」と捉えられているようです。後者には「肺炎で重体である He is seriously ill with pneumonia.」という例文が載っています。
 これによると、「重症」は病気そのもので、「重体」は状態を指すらしい。つまり、「重症の肺炎」に対し、「肺炎で重体」ということになるわけでしょうか。
 まだピンと来ないので、新聞の実例に徴してみることにしました。「朝日新聞」の1998年に現れた「重症」「重体」「重態」を、先頭から200例ずつ取り出し、用法を調べました(ざっとです、ざっと)。
 200例ずつと言いましたが、「重態」はそこまで集まらず、数例しかありません。ほとんどは「重体」と書かれています。『朝日新聞の用語の手引』にも「じゅうたい(重態)→(統)重体」とあります。校閲の目をくぐり抜けた例だけが「重態」になっているようです。そこで実際は「重症」「重体」だけを比べることになります。
 傾向が捉えやすいのは「重体」のほう。200例のうち78例が「意識不明の重体」の形で出てきます。典型的なのは交通事故の記事です。

 ○日午前○時ごろ、○○市の国道○○号で、○○県○○市○○、アルバイト○○○○さん(二四)の乗用車と○○市○○、会社員△△△△さん(六三)の乗用車が正面衝突した。○○さん同乗の○○県○○市、アルバイト◇◇◇◇さん(二四)が頭を強く打って意識不明の重体になるなど、○○さんの車の四人と△△さんの計五人が重軽傷を負った。

 この例のように、「重体」は、頭や全身などを強打したり(これが大部分)、首を絞められたり、酸欠になったりして意識不明になった状態を指すことが多い印象。用例のほとんどは事故の記事です。
 記事では「重体の〜」と修飾語になる形は少ないです。「重体の男性死亡」など見出しで10例があるだけです。
 一方、「重症」には「〜の重症」と上に修飾語が来る例は逆に少なく、18例。たとえば「多くの重症患者」などと使われます。
 どちらかというと、この「重症患者」(32例)や「重症心身障害者(児)」(21例)などのように、下の名詞を修飾する例が多いようです。この場合に被修飾語となる名詞は、「心身障害」のほか「急性すい炎」「筋無力症」「肺気腫」「脳出血」といった疾患名が目立ちます。
 結論として、「朝日新聞」においては、「重体」は「打撲傷などがひどくて、意識不明になるほどの状態」を、また、「重症」は「心身の重い疾患」のことを指して使っていることが分かりました。

「ひとりごと」目次へ
前へ次へ
きょうのことばメモへ ご感想をお聞かせいただければありがたく存じます。
email:

Copyright(C) Yeemar 1999. All rights reserved.