BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第147話:風邪で食事どころではなくなった場合。

目の上に載せたバンダナがすぐに温まる。鼻炎薬を飲めば眠くなるはずなのだが。おそらく6時間は静かにしていた方がいいだろう。それからもう一度薬を飲む。

少なくとも鼻が通るようにしていかないと、飛行機のなかの気圧変化についていけない。飛行機に乗ってしまえば、あとは薬と毛布をもらって、ひたすら休んでいればいいだけだ。

問題は、それまでの食事なのであるが、昼食にはピザを3切れとサラダ・バーで野菜を摂っているし、明日の朝食はフル・イングリッシュ・ブレックファストだからいいだろう。そして夕食だが、こういう時のために取っておいたものがまだあった。

梨とトマトが1個ずつ、それにチョコバーが1本。部屋のなかには湯沸かしとコーヒー、紅茶、砂糖とコーヒーミルクがある。できればオレンジジュースなんかがあれば嬉しいが、まずまず十分だろう。だいたい、そんなに食欲はない。しかし、食欲がなくても食べなければならない。

深夜12時、この旅の最後の夕食をつつましやかに終えた。それは、オペラもコンサートもライブもサッカーも映画もなかったこの旅にふさわしいものであるのかもしれなかった。

(第147話:風邪で食事どころではなくなった場合。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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