BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第121話:[ミッション]30分以内に国際電話を2本完了せよ。

ベルファスト中央駅には20分遅れで着いた。ダブリンへと発車するのは40分後だ。結局、検札も検問もパスポートチェックもなかった。

私は、電話を2本しないといけないことに気がついていた。B&Bは家族経営だから、チェックイン時間がずれると問題を引き起こす場合がある。さらに私は荷物をMrs. Fanningに預けていた。なにしろMrs. Fanning宅からMrs.Tarrant宅までは肉眼で楽に見通せる距離だった。荷物を引き取りに行く時間も、2時間ほどずれる。

駅の階段を上がって様子を探ると、改札があり、その向こうに文明世界が広がっていた。改札のこちら側には、電話はない。

覚悟を決めて警備員に話しかけた。

電車を間違えて乗り過ごしてしまった。電話をかけたいんだが、どこにあるだろう。

次のダブリン行きは4時10分だ。電話は改札を出て、まっすぐ行って右手だ。いま、改札に言って出られるようにしてやるから、待ってなさい。

というわけで、なんと切符を見せるわけでもなく、あっさり改札を抜けてしまった。まず、電話を探した。目の前にあった。しかし、クレジットカードでかけられるとなっているのに、認識しない。あ、まっすぐ行って右か。さらに進んで行列に並んで電話にトライ。しかし、ここでもカードがはねられる。

ここからダブリンへは国際電話になる。アイルランドの国番号は353。ダブリンの市外局番は01。だから、00-353-1-xxx-xxxxでいいはずだ。いいはずなのに・・・

電話を変えてチャレンジしてもつながらない。すでに4時5分前である。北アイルランドのコインなんて、持ってるわけないし。

おっ! 思い出した。私の財布に英国ポンドがあったはずだ。10ポンドを引っぱり出して、切符売り場で、電話したいから小銭にくずしてくれ、と頼んだ。5ポンド札と、見たことのある1ポンド硬貨4枚、それに20ペンスや50ペンスなどが返ってきた。硬貨は英国と共通なのだろうか?

というわけで、英国コインのおかげでベルファストからダブリンまでの国際電話はあっけなく通じ、電車に乗り損ねたから遅くなるという連絡はまったく問題なく終了したのであった。さすがに、いやあ、間違えてベルファストに来てしまって、とはとても恥ずかしくて言えなかったが。

ジャック・ヒギンズのファンとしては、こんな形でなくベルファストを訪問したかった。でも、空気を吸っただけでもいいか。何も買わなかったけど。あ、そう言えば、さっきの5ポンド。

ポケットのなかの5ポンド紙幣をあらためて見れば、それは北アイルランド発行の紙幣だった。ただひとつ残った、北に越境した証拠だった。

(第121話:[ミッション]30分以内に国際電話を2本完了せよ。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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