BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第120話:国境の街。

ダブリンから北へ、ドロヘダ、ダンドークと辿ると次の街はもう北アイルランドである。紙幣も違うし、電話は国別番号からかけないと通じない。同じアイルランドの島にふたつの体制が存在している。

ということは認識していたが、まあ今回は対象外なのでおとなしくダブリンに帰るのである。混んでいる車内で、やっと見つけた席でいつかうとうとしていた。ドロヘダを発ってから、もうすぐ1時間になろうとしている。

むむ? 1時間? おかしい。

バスでさえ、1時間かからなかったのだ。鉄道ならせいぜい45分てとこだ(後日注:実際にはほぼ30分)。終点がダブリンだから乗り過ごしたはずはない。一応、停車駅ごとに起きて、大きな駅ではないことを確かめている。まさか、ダブリンから折り返したなら、必ず気づいている。

アスローンでもらったクリスマス・新年用時刻表を広げ、駅名を調べる。さっきの駅はPORTADOWNだった。PORTADOWN、PORTADOWN・・・あった。

そして判明したのは、この列車は北へ向かっており、次は終点のベルファストだ、ということであった。どうやら、ドロヘダでベルファスト行きが10分遅れで、ダブリン行きの予定時刻とほぼ同じタイミングで(しかも同じホームに)入線したせいで、私が勘違いしたらしい。それにしても、列車の行き先を確認せずに乗り、さらに途中の駅名確認も怠った自分の責任である。

ベルファスト! 北アイルランドの首都じゃないか。しかも、とうに国境を越えている。ありゃま。

まあ、着いたら引き返すしかない。4時10分のダブリン行きに乗れば(そしておそらくそれは、いま乗っているこの列車の折り返し運転だ)、6時10分に着く。プラットフォームから出ずに戻ってしまえばいい・・・というわけにはたぶんいかない。

最大の心配は乗り越し料金などではなく、パスポートを携帯していないことだった。まさか、北に越境するなんて考えていなかった。検問がないことを祈るのみ。もしも咎められたら、正直に事情を説明して、財布にいつも入れているパスポートのゼロックスコピーでしのぐしかない。

頭のなかでは、留置場にひと晩拘置される映像が浮かんでは消える。よりによって、ベルファストにパスポートを持たずに入るとは。

(第120話:国境の街。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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