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【第3脳室脈絡叢乳頭腫】


1.序文
  脈絡叢乳頭腫は脈絡叢上皮に由来する腫瘍で、全脳腫瘍の0.5%をしめる(1,2,3)。小児脳腫瘍の中では頻度が高くなり、12歳以下の脳腫瘍で3.9%,1歳以下では10%をしめる(1,2)。側脳室三角部と第4脳室に好発して、前者は小児に、後者は成人に発生する特徴がある(2)。日本の脳腫瘍統計では130例が報告されており、その発生頻度は0.5%,側脳室が52例、第4脳室が61例報告されている(4)。第3脳室に発生することは非常に稀であり、日本でも10例弱の症例報告があるのみである(5-11)。1つの施設での多数例の報告はSchijmanら(12)の2つの施設をあわせて10例が最多で、他の論文は1例の症例報告がほとんどである。第3脳室の脈絡叢乳頭腫が日本の脳腫瘍統計に何例あるかは、その報告書からは不明である。我々は最近第3脳室内に発生した脈絡叢乳頭種の1例を経験したので、同部の脈絡叢乳頭腫について若干の考察を加えて報告する。
2.症例
7歳男児
主訴;頭囲拡大
既往歴;出生時から乳児期の発育は正常であり、頭囲の拡大などの所見は認められなかった。
現病歴;学校で指のとげをさして、近くの医者に見てもらったところ、頭囲の拡大を指摘されて、1994年11月11日当科を受診した。家族は以前より、やや頭が大きいようには感じていたが、放置していた。昔の写真でみると、3歳頃から頭囲が大きいようであった。
現症;身長、体重は正常、頭囲は58cm,一見して頭が大きいことがわかった。自覚症状はまったくなく、頭痛はしないかとよく聞かれるため、そういえば少し痛いというほどであった。学校での成績は普通であった。神経学的検査で異常所見はなく、うっ血乳頭も認められなかった。
神経放射線学的所見;頭蓋単純撮影では骨の菲薄化を認めたが、石灰化などの所見はなかった。頭部CTスキャンでは、全脳室の著明な拡大があり、第3脳室全体をしめる等吸収な房状の腫瘤が認められ、均一かつ著明に造影された。頭蓋骨は著明に菲薄化していた。頭部MRIでは3X3cmの不規則に分葉化した腫瘤があり、T1強調画像で等吸収域から低吸収域、T2強調画像でmixed densittyで、Gd-DTPAにて著明に造影された。矢状断像、冠状断像でその解剖学的関係はさらに明らかになった。脳血管撮影では、左椎骨動脈写で、右後内側脈絡動脈からの腫瘍陰影を確認し、その側面像で内大脳動脈の上方変位を認めた。内頚動脈撮影では著明な水頭症の所見を認めた。

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手術所見;以上より第3脳室脈絡叢乳頭腫との診断で11月22日に手術を行った。手術は背臥位で、右前頭開頭を行い、まず超音波断層装置で腫瘍の存在する方向を確認して、脳表静脈を温存して、右前頭葉に約2cmの皮質切開を置き、約3cm進むと、右側脳室に達した。無色透明な髄液を吸引すると、黄色がかったカリフラワーのような腫瘍がモンロー孔から見えた。腫瘍をpiece by pieceに切除し、腫瘍を小さくしていった。幸い第3脳室内に腫瘍との癒着はなく、容易に引き出せた。腫瘍は硬く、切除すると軽く出血した。最終的には、モンロー孔の下壁に流入動脈の固まりがあり、同部をとおる深部静脈と癒着しており、これを丁寧にはがして、腫瘍をほぼ全摘出した。この間深部静脈からの出血はなく、モンロー孔からのぞいた第3脳室内に損傷は認めなかった。念のためこの進入経路から持続脳室ドレナージをおいて手術を終えた。

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病理組織学的所見;正常な脈絡叢に似た円形核を持つ1層の円柱ないし立方上皮細胞層よりなる乳頭様構造をもち、時に多層になっていた。核分裂像や核の異型など悪性所見は認めなかった。以上から脈絡叢乳頭腫と診断された。


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術後経過;手術の直後より意識は清明で麻痺はなく、手術後1週間くらい発熱が続いたがその後おさまり、持続脳室ドレナージは1週間で抜去した。頭部CTスキャンでは腫瘍陰影はなく、水頭症の増悪もなかったが、軽度の右硬膜下水腫の所見があった。12月12日に行った脳槽造影では軽度のventricle refluxを認めたが、clearanceは良好で、症状のないことから、シャントは行わずに経過観察とした。12月の末に行った心理検査ではWISC-R知能検査でVIQ(言語性IQ)が89点、PIQ(動作性IQ)が77点、TIQ(全IQ)が82点で知的には正常範囲内であったが、順応性や持続力、集中力に多少の問題があるようであった。現在外来にて経過観察中である。
3.考察
 自験例は過去およそ20年の間にこの1例しかなく、側脳室、第4脳室に発生する脈絡叢乳頭種にもそれぞれの特徴があるが、今回は第3脳室発生のものを中心に要約する。諸家の報告ではかなりのばらつきがあるが、脈絡叢乳頭腫の0-27%位が第3脳室に発生すると報告されている。およそ10-15%くらいと思われる。最近の浅井らの報告では(13)12例中4例とすこし頻度が高い。第3脳室腫瘍の中では3.6%程度である。最初の第3脳室脈絡叢乳頭腫の手術例の報告は1922年にDandyが行っている。手術は経脳梁的に行って全摘されたが、手術後に死亡した。最初の手術成功例は経前頭葉的に行ったMasson(1934)が最初である。Fortuna(1979)はそれまでに報告された第3脳室脈絡叢乳頭種56例を集め報告している(14)。Joomaら(1983)は60例を集計しているが(1)、その好発年齢は成人、乳児、小児のいずれの報告があり、側脳室、第4脳室のような好発年齢の特徴はない。
臨床症状は水頭症に伴う頭蓋内圧亢進症状であるが、水頭症の発生機序として腫瘍自体からの髄液の過剰産生と腫瘍による髄液の流れの閉塞が考えられる。水頭症は慢性的に進行し。Matsonが述べているように本例と同様に脈絡叢 乳頭腫の3分の1は頭囲拡大以外の症状がない(2)。局所症状ではdiencephalic autonomic seizure, Parinaud syndromeなどを示すことがあり、視床下部の圧迫症状として、生理不順、肥満、思春期早発症、尿崩症などの報告がある。脳室の急激な閉塞により、sudden deathの報告もある。髄液検査では、蛋白高値が報告され、時に腫瘍からの出血によるキサントクロミーの所見を認めることがある。
画像診断では、頭蓋単純写で縫合線離開、骨菲薄化の所見を認める。石灰化は稀である。CTスキャン、MRIにて第3脳室内にheterogenous lobulated patern(不規則に分葉化)あるいはcauliflowerlike appearanceを認めるのが、特徴的である。CTの単純写、MRIのT1強調画像で脳実質と等吸収域であり、CTの造影あるいはMRIのガドリニウム造影像でdiffuseに造影される(12)。MRIのT2強調画像ではmixed densityをとる。脳血管撮影では、medial posterior choroidal arteryの拡大と腫瘍陰影、その上方挙上の所見が重要であり、まれにlateral posterior choroidal arteryから造影されている。静脈相ではinternal cerebral veinの上方挙上の所見を認める。internal cerebral veinが閉塞した場合に逆行性に側脳室内のsubependymal veinsが発達する。腫瘍は第3脳室発生の場合にはモンロー孔付近から発生する。また腫瘍は充実性のことが多く、嚢胞の形成は稀である。 手術は通常脳室拡大が著明なため経前頭葉経脳室的に行われることが多く(12,15)、脳室拡大のない例および根治手術前にシャント手術が行われている例で経脳梁的に手術される。経終板的など特殊なアプローチなどについては、症例数が少なく、報告はなされていない。第3脳室の手術では深部静脈の損傷が非常に危険であり、腫瘍を一塊としてとることは危険であり、少しずつ焼き潰してゆくことが重要である。この場合髄腔内播種することがあるので、腫瘍を確実に除去することが重要である(12)。流入動脈のはいっているvascular pedicleを確認して焼却することが重要であり、それは腫瘍の背側、第3脳室の屋根,そしてモンロー孔の後ろに位置することが多く(12)、自験例でもモンロー孔の部位に流入動脈の束をみとめている。腫瘍が脳室壁にはいりこんでいたり、癒着していることは少ないといわれるが、自験例でもまったく第3脳室壁に癒着などの所見はなく容易に摘出された。モンロー孔経由ではいってゆくので脳弓の損傷にも注意すべきであって、その損傷は記憶障害をきたすという。
術後の硬膜下水腫の発生頻度は高く、これは脳室から硬膜下腔へのシャントの影響であるから、手術終了時に脳室に生食を入れてから、4-0ナイロン針で脳表の軟膜を縫合しておくと、この障害が回避されるという(12)。硬膜下腔と腹腔のシャントを必要とする場合もある。術後の脳室腹腔短絡術を必要とする例が30%ほど存在するという。
全摘出後の再発、悪性化はきわめて稀であり、後の治療は必要としないが、Fortuna(1979)の文献的報告で全体の死亡率が48%,手術は25例に行われ(16)、手術死亡率は20%とかならずしも安全なものではない。Tomaselloら(1981)の25例の文献的検討では死亡率36%とマイクロサージェリーによって深部の腫瘍の治療も比較的安全におこなわれるようになったとはいえ、このような腫瘍を見た場合には腫瘍を大きくして、手術を困難なものにしないうちにすみやかに全摘出を心がけるべきと思われる。
本論文の要旨は第3回山形脳神経外科懇話会(1995年1月21日,山形)において発表した。
4.文献
1) Jooma R ,Grant DN : Third ventricle choroid plexus papillomas., Childs Brain, 10 : 242-50, 1983
2)Matson DD : Tumors of the choroid plexus. In : Matson DD : Neurosurgery of Infancy and Childhood, Charles C Thomas, Springfield,Illinois 1968 pp581-595
3) Cohen ME, Duffner PK : Chroid plexus papilloma. In : Cohen ME, Duffner Pk (ed) : Brain Tumors in Children: Principles of Diagnosis and Treatment 2nd ed., Raven Press, Ltd., New York, 1994, p363-376
4)The Commmittee of Brain Tumor Registry of Japan : 全国日本脳腫瘍統計, Neurol Med Chir, 32 : 395, 1992
5) 駒井則彦 ,竹綱晟記 : 髄液過剰産生による水頭症を呈した第3脳室内choroid plexus papilloma, 脳外, 8 : 121-129, 1980
6) 熊川均, 岩崎光芳, 宮崎修平, 他. : 第III脳室内"choroid plexus papilloma"の一治験例, 日大医誌, 45 : 1023-1029, 1986
7) 松山武 ,増田彰夫 : 第3脳室脈絡叢乳頭腫の1例, 脳外, 20 : 1269-1272, 1992
8) 嶋田淳一, 門田静明, 宮島雅一, 他 : 小児第3脳室脈絡叢乳頭腫の1例, 小児の脳神経, 17 : 269-273, 1992
9) 田代晴彦, 竹内藤吉, 宮崎真佐男, 他 : 第3脳室脈絡叢乳頭腫, 三重医学, 27 : 187-190, 1983
10) 富永篤, 藤岡敬己, 門田秀二, 他 : 乳児第三脳室脈絡叢乳頭腫の1例, 脳外, 20 : 1273-1276, 1992
11) 豊田収, 金子的美, 平戸政史, 他 : 新生児第3脳室Choroid plexus papillomaの1例, 脳外, 11 : 5, 1983
12) Schijman E, Monges J, Raimondi AJ, et al. : Choroid plexus papillomas of the III ventricle in childhood. Theirdiagnosis and surgical management., Childs Nerv Syst, 6 : 331-4, 1990
13) 浅井昭雄, H H, 松谷雅生, 他: 脈絡叢腫瘍乳児例の検討, 脳外, 19 : 21-26, 1991
14) Fortuna A, Celli P, Ferrante L, et al. : A review of papillomas of the third ventricle. One case report., J Neurosurg Sci, 23 : 61-76, 1979 15) Gradin WC, Taylon C ,Fruin AH : Choroid plexus papilloma of the third ventricle: case report and review of the literature., Neurosurgery, 12 : 217-20, 1983
16) Tomasello F, Albanese V, Bernini FP, et al. : Choroid plexus papilloma of the third ventricle., Surg Neurol, 16 : 69-71, 1981

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