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【髄膜血管周囲細胞腫】


1.はじめに
中枢神経系の血管周囲細胞腫(meningeal hemangiopericytoma)はつい最近まで髄膜腫の1型として分類されており、hemangiopericytic meningiomaと呼ばれていた。そしてこの腫瘍が悪性の経過をとることから、悪性髄膜腫の中で議論されてきた。悪性髄膜腫は組織学的に異型性を示す髄膜腫、papillary meningiomaおよび血管周囲細胞腫の3つを含めていた。最新のWHO分類において髄膜腫からはずれ、独立した腫瘍と考えられるようになった(1)。Cushingが分類したangioblastic meningiomaは現在の1)hemangiopericytoma, 2)angiomatous meningioma, 3)hemangioblastic meningiomaに相当する。angiomatous meningiomaは血管腫のように血管の多い髄膜腫である。hemangioblastic meningiomaは小脳のhemangioblastomaに酷似する腫瘍であるが、電顕所見よりangiomatous meningiomaの一型と考えられている(2)。このように分類、名称に混乱があるが、中枢神経系の血管周囲細胞腫は臨床的に髄膜腫と同一に扱われるが、特徴的な臨床像を持つ重要な疾患である。われわれは最近頭皮下腫瘤として発症したこの血管周囲細胞腫の1例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。
2.症例
66才女性 
家族歴、既往歴; 特記すべきことなし
現病歴; 1992年1月ごろから左前頭部の腫瘤に気付いたが放置していた。次第に大きくなってきたので8月になって当科を受診して、9月1日精査のため入院した。
現症; 左前頭部に7×10cmの腫瘤を触れるほか、自覚的な症状はなく、神経学的に異常所見はなく、神経眼科的に軽度の欝血乳頭を認めるのみであった。血液生化学的検査では特に異常所見は認めなかった。
神経放射線学的所見; 頭蓋単純写真では左前頭部に大きな骨欠損を認めた。頭部CTスキャンでは左前頭部のびまん性に造影される腫瘤があり、骨を破壊して皮下に膨隆していた。MRIでは冠状断でその関係はさらに明瞭となり、ひょうたん型をしていた。ガドリニウム造影像にてやはり著明に造影された。腫瘍内に太い血管像があり、flow voidを呈していた。脳血管撮影では外頚動脈が発達しており、浅側頭動脈、中硬膜動脈から腫瘍血管がはいっていた。内頚動脈系の関与はないものと考えられた。以上より髄膜腫との診断で 1992年9月10日全麻下に手術をおこなった。

!!!図1


手術所見; 皮膚切開を大きくとって皮膚をはがすと腫瘍が大きく顔をだし、一部で出血していた。浅側頭動脈が主流入動脈で、これはすぐに止められた。腫瘍の周囲で骨をけずり、腫瘍周辺の硬膜を十分に露出させ、その外側に骨孔を置き、骨を大きくはずした。中硬膜動脈よりも多数の流入動脈があり、出血量は多かった(実測900ml)。硬膜を腫瘍の周囲で全周にわたって切開し、腫瘍を一塊として引きながら、脳表との癒着をはがしてゆくと腫瘍はほぼ一塊として摘出された。正中部分では硬膜浸潤があり、直下に大きなbridging veinを認めたため、この部の硬膜に一部腫瘍が残った。脳表の止血を確認後、硬膜を形成、レジン板にて欠損した骨を形成して手術を終えた。

!!!図2


病理組織学的所見; 切除標本は硬膜および破壊された骨をはさんでひょうたん型になっており、断面は充実性で固く、肉眼的には髄膜腫と考えられた。組織学的所見では楕円形から伸展した核を有する腫瘍細胞が密に増殖し、大小の血管腔が腫瘍に押しつぶされて存在するいわゆる鹿角状staghorn patternを呈していた。細胞分裂像、骨破壊像も認めた。PAS染色では陽性像を認め、腫瘍細胞間および血管を囲むように好銀繊維が密に増殖しており、hemangiopericytomaと診断された。

!!!図3


術後経過; 術後神経症状の出現はなく局所に60Gyの放射線療法を施行後、退院した。その後外来にて経過観察しているが,術後1年を経過した現在再発は認めていない。最近再入院してMCNU、インターフェロンによる化学療法を追加した。
3.考察
脳の血管周囲細胞腫の報告としてはGuthrieら(1989)(3)の44例、Menaら(1991)(4)の94例の報告などが代表的であり、日本では九州大学のIwakiら(1988)(5)の15例のまとまった報告である。いずれも比較的最近の報告ばかりであるが、これらよりこの臨床的特徴を要約する。成人男性に多く(55ー70%)、発生年齢は平均が38歳から47歳と比較的若い(髄膜腫は50代後半)。髄膜腫瘍の0ー7%、脳腫瘍の1%以下(髄膜腫は15ー20%)、髄膜腫の1.9-5%あるいは1-3.8%で、小脳テント、テント下、大脳鎌に多いとされるが、Jellinger(6)の検討ではテント12%, 後頭蓋窩20%,さらにテント上に多いという報告もある。髄膜とつき、充実性で、カプセルに包まれ、時に分葉化していて、肉眼的に髄膜腫とかわりはない。
神経症候は髄膜腫と臨床的に異なることはなく臨床的には髄膜腫と診断されるが、きわめて悪性の経過をとるのが特徴である。すなわち局所再発が1年から8年(平均4年)の間に報告により26-80%(平均158/278,57%)みられる。さらに遠隔転移(肝臓、肺、骨格筋,骨、膵臓、皮膚、軟部組織、副腎、甲状腺、胸郭、乳腺)が58ー85%(平均60/278,21.5%)にみられ、平均生存は58から84カ月といわれる。頭皮下腫瘤として発症した髄膜腫が悪性髄膜腫であることが多いといわれるが、血管周囲細胞腫は悪性髄膜腫の1つとして扱われてきたので、このような形をとる場合には診断上考慮されるべきである。同様な報告は1993年にCosentino(7)ら,さらにChin(8)らが報告している。
神経放射線学的には、まず頭部単純写ではosteolyticなことがあり、通常の髄膜腫の特徴として知られるhyperostosisと対照的である。CTスキャンでは、著明な造影効果がみられる。脳血管撮影では内頸動脈系からの流入血管を認める場合が多く、内頚外頸動脈からの2重支配を認めることが多いといわれる。外頚からの流入動脈は細かい不規則な流入血管があり、"fluffy"な(ふわふわした、綿毛のような)血管造影像といわれる。MRIではT1強調画像で脳実質と等吸収域、T2強調画像で灰白質よりやや明るい。ガドリニウム造影像ではびまん性の造影を示し、flow-voidを示す部分があり、太い流入血管を示している。
病理組織学的には、軟部組織の血管周囲細胞腫とまったくかわりない特徴を有する。充実性で細胞成分に富み、部位によっては著しく拡張した血管を有し、また細胞密度の高い部分ではほとんど血管腔が見られないところもある。腫瘍内血管の特徴は、鹿角状(staghorn-like)を呈することである。血管腔はしばしば狭小で認めがたい。典型的な部分では、腫瘍細胞集団が薄い内皮細胞に覆われ、血管腔に突出した像を示す。腫瘍細胞は細胞境界のはっきりしない胞体を有し、卵円形や不整形の核を有する。核分裂が増加していることが多い。縦横に分布する血管および腫瘍細胞を囲むように好銀繊維が見られる。腫瘍細胞間に好銀繊維がみられることが特徴である。髄膜腫では好銀線維は、腫瘍細胞塊を取り囲んで存在するが、腫瘍細胞の間にははいっていない。髄膜腫に特徴的な渦巻(whorl)形成や砂粒体は認められない。
Jellingerら(6)によれば免疫組織学的には髄膜腫と髄膜血管周囲細胞腫はともにvimentinには反応するが、cytokeratin,EMAは髄膜腫に反応するのに血管周囲細胞腫には反応しない。S-100蛋白、NSEにはともに反応する場合がある。pericyteは血管平滑筋に存在するα-actinに強く反応するが、髄膜腫はこれに完全に陰性なのに対し、髄膜血管周囲細胞腫では陽性の場合がある。遺伝子解析では髄膜腫にみられる第22染色体の欠損がないとの報告がある。このように髄膜腫と異なる多くの特徴を有し、先に述べたようにWHO分類でも髄膜腫からはずれたが、Rubinsteinら(9)のように両者に移行型があることなどから髄膜腫の中に含めておくべきとの意見もある。
治療については手術による完全摘出が望まれるが、しばしば髄膜腫と同様に全摘が困難な場合があり、先に述べたように悪性の経過をとることが多いので放射線療法が追加される(10,11)。さらにNitrosourea, fluorouracil, adriamycin, cyclophosphamide, vincristine,cis-platinなど化学療法の有効性を述べるものもあるが、まとまった報告が少なく、治療法は確立されていない。われわれの症例においても、長期を経ての再発、遠隔転移が多いことを考えると、化学療法などの維持療法をおこなってゆくべきと思われる。
4.文献
1)中里洋一 : 改訂されたWHO国際脳腫瘍分類. 伊藤正男 、楢林博太郎編,神経科学レビュー6、 医学書院, 東京, 1992, pp175-189
2)石田陽一, 田中卓, 中西孝治, 他: Hemangioblastic Meningiomaの組織学的電顕的検討、脳腫瘍病理 , 7:31-37, 1990
3)Guthrie M, Ebersold M, Scheithauer B et al: Meningeal hemangiopericytoma: histopathological features, treatment, and long-term follow-up of 44 cases. Neurosurgery, 25:514-522, 1989
4)Mena H, Ribas JL, Pezeshkpour GH et al: Hemangiopericytoma of the central nervous system: a review of 94 cases. Hum Pathol, 22:84-91, 1991
5) Iwaki T, Fukui M, Takeshita I et al: Hemangiopericytoma of the meninges: a clinicopathological and immunohistochemical study. Clin Neuropathol ,7:93-99, 1988
6)Jellinger K, Paulus W, Slowik F: The enigma of meningeal hemangiopericytoma. Brain Tumor Pathol 、8:33-43, 1991
7)Cosentino CM, Poulton TB, Esguerra JV et al: Giant cranial hemangiopericytoma: MR and angiographic findings. AJNR , 14:253-6, 1993
8)Chin LS, Rabb CH, Hinton DR et al: Hemangiopericytoma of the temporal bone presenting as a retroauricular mass. Neurosurgery, 33:728-732, 1993
9)Russell DS, Rubinstein LJ: Pathology of tumours of the nervous system. Edward Arnold, London, 1989, pp474-479
10)Uemura S, Kuratsu J, Hamada J et al: Effect of radiation therapy against intracranial hemangiopericytoma. Neurol Med Chir (Tokyo), 32:328-32, 1992
11)Takase M, Watanabe O: Radiosensitive hemangiopericytoma of the falx. Case report. J Neurosurg, 68:640-1, 1988

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