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【小脳血管芽腫】


1.はじめに
小脳の血管芽腫(Lindau病)は古くから知られる疾患であり、家族発生、他臓器の血管腫を伴うなど遺伝性のある疾患である。日本の脳腫瘍全国統計では706例が登録されており、めずらしくはないが、一般の施設において経験することは、比較的稀であり、少数例でも長期にわたる経過観察について述べることは重要と思われるのでここに自験例について述べる。10年前に当院の同疾患について鈴木らが報告しているが、当時は頭部CTスキャンが出現した頃で、CT所見について考察していたが、頭部CTスキャンではartifactが入りやすく診断が比較的困難であった小脳病変の診断能がMRIの普及によって、格段に向上しており、外科的治療の計画もたてやすくなっている。小脳血管芽腫の治療上の問題点について考察するとともに、自験例の長期経過観察について述べる。
2.症例
1980年から現在までに当科にて経験した小脳血管芽腫は5例あった。うち初期の2例については鈴木らが以前に記述しているここでも簡略に記述する。そのうちの1例はその後再発して治療を行っている。全症例について現在の状態について調査を行った。個々の症例について以下に述べる。
症例1
38歳男性(鈴木論文症例1)
1980年(38歳)頭痛、めまいにて発症し、CTにて左小脳半球に嚢胞を認め、壁在結節の造影を認めた(図1)。脳血管写にて左上小脳動脈からの腫瘍濃染像を認め、手術にて壁在結節(mural nodule)を全摘出した。組織像は小脳血管芽腫であった。その後無症状にて暮らしていたが、1986年8月(44歳)頭痛がひどくなって再来院した。小脳症状は認めなかったが、CTにて前回の手術部位に充実性の造影される病変を認め(図2)、脳血管写にて左上小脳動脈、後下小脳動脈からの腫瘍陰影を認めた(図3)。眼科的な異常は認めなかった。血液検査にて多血症あり。血中エリスロポイエチンは正常であった。手術にて全摘出を行った。組織所見は小脳血管芽腫であった。術後のCTでは腫瘍陰影は消失し、その後無症状で退院した。1994年1月現在(52歳)無症状で暮らしている。

!!!図1

!!!図2

!!!図3


症例2
41歳女性(鈴木論文症例2、015-741-3)
1981年5月頃から、頭重感あり。当院を受診し、CTスキャンにて後頭蓋窩に嚢胞があり(図4)、造影効果を認めないため、くも膜嚢胞との診断で、様子観察していたが、8月になって、めまい、頭痛があり、嚢胞の拡大と脳室拡大の増強があり入院した。手術にて嚢胞を解放すると、まず淡黄色の嚢胞液を吸引、内面を観察すると、正中内側面に直径1cmの赤い壁在結節を認め、これを摘出した。組織は小脳血管芽腫であった。術後は特に問題なく退院した。1989年11月のMRI検査で、再発は認めていない。1994年1月現在(53歳)無症状で暮らしている。

!!!図4


症例3
68歳女性
1984年9月下旬から頭痛あり。10月になってめまいを伴うようになって、入院した。神経学的に異常はなく、眼底は正常であった。軽度の多血症を認めた。CTスキャンでは小脳虫部に造影される壁在結節があり、嚢胞を伴っていた(図5)。手術は後頭下開頭で正中部を大きくあけると、右小脳半球にやや黄色調を帯びる部分があり、同部を切開すると赤色調の腫瘍が顔をだし、これを全摘出した。組織所見は小脳血管芽腫であった。術後は特に問題なく退院し、10年を経た現在(1994年1月)再発は認めていない。

!!!図5


症例4
62歳男性
1984年5月左半身の失調で発症し、6月に歩行時のふらつきが増強。7月になって頭痛が増強して入院した。神経学的に躯幹失調、左小脳症状を認めた。網膜は正常、鬱血乳頭は認めなかった。CTスキャンでは左小脳正中部に嚢胞を伴う造影される病変を認めた(図6)。脳血管写では、上小脳動脈を主流入動脈とする腫瘍陰影を認めた。正中後頭下開頭にて脳表は柔らかくすぐに嚢包に達した。嚢包液は帯黄色であった。嚢包内に赤い境界鮮明な腫瘍があり、流入動脈を止めてから一塊として摘出した。術後中央内側面に腫瘍が残った。組織所見は小脳血管芽腫であった。その後そのまま様子観察しているが、再発は認めず、現在71歳になるが、元気に暮らしている。

!!!図6


症例5
65歳女性
1989年から糖尿病にて当院にて治療をしていた。時々頭痛の訴えもあったが放置されていた。1993年9月から軽い頭重感あり、11月半ばより少々ひどくなってきた。右手が多少ふるえたとの訴えもあった。12月6日当科受診し、CTスキャンを施行したところ異常あり(図7a)、12月9日に入院した。神経学的には両側の鬱血乳頭があるほか、小脳症状、網膜異常などは認めなかった。後頭部に皮膚単純性血管腫があり、血液検査では軽度の多血症があるが、糖尿病はよくコントロールされており、エリスロポイエチンは18.2mU/mlで正常であった。MRIでは小脳虫部にT1で低吸収域、T2で等張から高吸収域の4cm大の腫瘍があり、周囲の浮腫を伴っていた(図7c)。腫瘍内部には腫瘍血管と思われる多数のflow-voidや細かい嚢胞を伴っていた。Gd-DTPAにて強い増強効果があり、第四脳室の変形を伴っていたが、水頭症は認めなかった。脳血管撮影では右後下小脳動脈、右上小脳動脈からの流入があり、著明に増強された(図7b)。手術は後頭下開頭で正中切開、大槽をまず開放して、正中部脳表に異常流入動脈、流出静脈多数を認め、全摘出した。組織像は大小の血管腔と、時にfoamy cytoplasmを有するstromal cellからなる小脳血管芽腫であり(図8)、免疫染色ではFactor VIIIr-AgとUEAIは陽性、EMAおよびVimentinは陰性であった。術後特に神経症状の出現はなく、MRIでも造影される病変は消失した(図7d)。1993年4月退院した。現在外来にて経過観察中である。

!!!図7

!!!図8


3.考察
血管芽腫は血管内皮細胞由来の良性腫瘍であり、erythropoietinを産生する腫瘍として知られている。小脳に好発し、単独で発症する場合と10ー20%の症例でvon Hippel -Lindau(vHL)病に伴って発症する場合がある。vHL病は小脳の血管芽腫と網膜の血管腫を合併する疾患で常染色体優性遺伝をしめし、原因遺伝子は第3染色体短椀(3p25)に位置する癌抑制遺伝子である。その他脳幹脊髄の血管芽腫、褐色細胞腫、脾臓嚢腫、腎細胞癌を合併する。自験例5例はいずれも家族歴、遺伝歴のない孤発例であり、症例5の後頭部皮膚に認めた血管腫以外の異常は認めなかった。Constansらによる1023例の検討では家族発生(15%)、網膜血管腫(15%),脳内多発(12.5%)を認めた。脳腫瘍全国集計では全脳腫瘍の2.6%に発生し、小脳が91%,他に延髄、橋、脊髄、大脳に発生する。小脳腫瘍の24%をしめ、髄芽腫に次ぐ発生頻度である。好発年齢は30-40代で42.6%をしめ、15歳以下の発症は3.7%,60歳代以降は8%と少ない。vHL病を合併すると年齢層がやや若くなる傾向にある。男性に多い(2-3:1)。
小脳血管芽腫は小脳半球に70-80%,小脳虫部に10-15%発生する。腫瘍の形から、大きな嚢胞に壁在結節を有するもの(65%)、嚢胞を伴うが壁在結節のないもの(6%)、実質性でmicrocystを伴うもの(4%),実質性で境界不鮮明なもの(25%)に分けられる。前二者は小脳に多く、後二者は脳幹、脊髄、大脳に多い。組織学的には無数の血管により構成される網目と、その間を密にしめる明るい胞体を持った多角形の細胞(stromal cell)よりなる。免疫組織化学的に第8因子抗原,UEA-1,Thrombomodulinなどが陽性になる。症候学的には頭蓋内圧亢進症状と局所症状(小脳症状)に分けられ、時にくも膜下出血、脳内出血で発症する。神経学的3主徴は、鬱血乳頭、失調、眼振である。自験例はいずれも頭痛に軽い小脳失調を伴うだけの症状の軽いものばかりであった。多血症は5-30%(平均20%)に認められるが、自験例では数例において認めたが、検索できた症例にエリスロポイエチンの高値をみとめるものはなかった。
診断はCTスキャンの登場により、容易になったが、最近のMRIの普及によってさらに精度を増した。合併病変の診断にもMRIはきわめて有用である。腫瘍の三次元的な把握は手術計画を容易にしている。術前診断では壁在結節の位置を確認することが重要で、M RIによって症例2のように壁在結節の位置がわからないということもなくなると思われる。
手術は小脳星細胞腫と同じく壁在結節を持つものではその全摘出を行う。充実性のものではていねいに周囲の流入血管を処理して全摘出を行う。再発例においては放射線療法の有効性も報告されているが、基本的にはやはり全摘出である。佐野はその手術書の中に簡潔に記載しているので引用する。
@@@この手術方法は小脳astrocytomaの手術とほぼ同様である。小脳血管芽腫 が嚢胞性であれば、やはり腫瘍組織は壁在結節として存在するから、これを除去すればよい。腫瘍が実質性の場合は、周囲組織から入る血管を丹念に電気凝固しながら除去する。腫瘍が大きな場合には、手術が困難なことが多い。@@@
血管芽腫は脳動静脈奇形と同様にきわめて血管の多い腫瘍であり、充実性で大きな腫瘍の場合には出血のコントロールが困難で、手術中、手術後の大出血、小脳腫脹をきたすことがあり、術前の塞栓術なども可能であれば、考慮される。手術は当然のことながら時期を逸せず、すみやかに行うべきであるが、高齢で発症した場合などで保存的に治療され、致死的な腫瘍内出血を来した症例も報告されており、部分摘出に終った例や手術不能例、さらには保存的に見られた症例では、放射線療法やガンマメスなどの治療が考慮され、その有用性を報告しているものもある。
全摘出により治癒するが、10%前後の再発がある。腫瘍により死亡するものが26-36%あるが、手術用顕微鏡や双極電気凝固装置の普及によりその手術成績は向上している。Palmer(1972)の報告では健康あるいはわずかな神経症状のものは、5年後に74%、10年後に62%、20年後に68%であり、死亡したものは、5年後に14%、10年後に26%、20年後に68%であった。自験例では全摘出4例、部分摘出1例で、全例元気に日常生活をおくっており、最長の経過観察は6年後に再発して再手術をおこなった例で14年である。亜全摘に終った1例も10年経過しているが再発は認めていない。
4.文献
1) 菊池顕次, 古和田正悦, 佐々木順孝, 他. : 致死的な腫瘍内出血を来たした小脳血管芽腫の1剖検例, 脳神経外科, 22 : 593-597, 1994
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3) 岡一成, 北村勝俊, 福井仁士, 他. : 血管芽腫の臨床, 脳神経外科, 10 : 911-921, 1982
4) C.Standard S, Ahuja A, Livingston K, et al. : Endovascular embolization and surgical excision for the treatment of cerebellar and brain stem hemangioblastoma. Surg Neurol, 41 : 405-410, 1994
5) Constans J-P, Meder F, Maiuri F, et al. : Posterior fossa hemangioblastomas, Surg Neurol, 25 : 269-275, 1986
6) 寺尾栄夫 : 血管芽腫. In : 阿部弘, 菊地晴彦, 田中隆一, 他. (ed) : 脳神経外科疾患の手術と適応Ι, 朝倉書店, 東京, 1990, p383-398
7) Julow J, Balint K, Gortvai P, et al. : Posterior fossa haemangioblastoma, Acta Neurochir, 128 : 109-114, 1994
8) Mizuno J, Iwata K ,Takei Y : Immunohistochemical study of hemangioblastoma with special reference to its cytogenesis, Neurol Med Chir, 33 : 420-424, 1993
9) Neumann HPH, Eggert HR, Weigel K, et al. : Hemangioblastoma of the central nervous system, J Neurosurg, 70 : 24-30, 1989
10) 鈴木倫保, 小田辺一紀 ,佐藤壮 : 小脳血管腫のCT所見及び病理組織学的検討, 山形済生館医誌, 7 : 79-85, 1982
11) 鷲山和雄 ,田中隆一 : 脳腫瘍の組織診断アトラス (11) Hemangioblastoma, 脳神経外科, 18 : 323-328, 1990
12) Seizinger BR : Tumor suppressor genes and hereditary tumor syndromes of the human nervous system: Isolation of the primary genetic defect in von Hippel-Lindau disease. In : levine AJ ,Schmidek HH. (ed) : Wiley-Liss, Molecular genetics of nervous system tumors, 1993, p311-318
13) Standard SC, Ahuja A, Livingston k, et al. : Endovascular embolization and surgical excision for the treatment of cerebellar and brain stem hemangioblastoma, Surg Neurol, 41 : 405-410, 1994
14) 佐野圭司: アトラス脳神経外科手術書, 金原出版,1981, p111

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