1.はじめに
gliosarcomaはglioblastomaと肉腫が混在した脳の混合性腫瘍である。gliblastoma with sarcomatous componentsとも呼ばれ、後者のほうが内容の混乱をきたさないとされている(1)。1990年のWHO新分類ではgliosarcomaは、astrocytic tumorの低分化型腫瘍であるglioblastomaの亜型として分類されている。glioblastomaの報告例は欧米を中心に少なからず見られるが、本邦での報告は少なく、これまで10数例の報告を見るのみである(2)。今回われわれはglioblastomaの手術、放射線照射療法、化学療法後に発生したgliosarcomaの1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。
2.症例
60歳女性
既往歴; 約8年前より高血圧症にて降圧剤を服薬中であった。
現病歴; 1990年7月26日、けいれんを起こし意識消失し、近医受診し、CT施行するが異常なしとの診断を受けた(図1)。10月20日頃から頭痛、翌日より失語、健忘などが出現し近医により当科へ紹介され、10月23日当科受診した。








3.考察
1895年Strobeらがgliomaとsarcomaの組織像が共に見られる脳腫瘍をgliosarcomaと報告して以来、欧米を中心にこれまで100例以上の報告が見られる。Wislowskiは700例のglioma中1.7%に、Feigin(1)は2.3%, Moranz(3)は全gliomaの5%, gliosarcomaの8%にgliosarcomaが見られたと報告している。しかし本邦においては報告が少なく、Tubokawa(4)の報告以来これまで渉猟しえた限りでは、17例の報告を見るに過ぎない。このうち初発として脳腫瘍があり、これを手術的に全摘または亜全摘し、組織学的にanaplastic astrocytomaやglioblastomaなどと診断され、放射線療法、化学療法を行った後に、再発または転移した腫瘍に対し組織学的にgliosarcomaと診断された症例が約半分の8例に見られる。本症例も初発の腫瘍は前回の腫瘍とは異なった組織像を呈し、gliosarcomaと診断された。
外胚葉系のgliomaと中胚葉系のsarcomaが共に発生するしくみについては幾つかの見解があるが、Fouldによると、1)別々に独立した腫瘍が隣接した接合部で両者が混在するもの、2)1つの原始細胞から2つの異なった腫瘍がほぼ同時に発生するもの、3)宿主組織を含めた腫瘍間質に2次的に腫瘍化が起こったもの、この3種類が考えられる。gliosarcomaの発生形式には一般的に3)の説が支持されており、例えばglioblastomaに伴う血管のhyperplasiaよりneoplastic transformationが生じ、sarcomaが発生すると考える説が有力である。また原腫瘍がsarcomaであり、これらの近在のastroglial reactionがmalignant transformationを起こしgliomaに至ったものと考えられる症例も少数報告があり、これをLalitha and Rubinsteinが<sarcoglioma>と呼び、gliosarcomaとは区別している。
Moranz(3)によれば、gliosarcomaはanaplastic astrocytomaより発生する例が大多数で、anaplastic astrocytomaの8%をしめるという。更に側頭葉に発生することが多く、通常のanaplastic astrocytomaと比べ比較的境界が鮮明であり、時に中枢神経系外への転移も見られることなどを本腫瘍の特徴として挙げている。予後に関しては、anaplastic astrocytomaに比べ必ずしも不良ではなく、平均生存期間は発症後平均25週、手術後21週と報告されている。これは本腫瘍が浸潤傾向が少なく、通常のgliomaに比べて境界が比較的鮮明であることが関与していると思われる。しかしながら、手術が2度目、3度目の開頭である例が多く、本症例の様に、術後急速に死への転機をたどる例も少なからず、見られる。
本症例も含む本邦での18例について検討すると、Morantzによる特徴と一致する所が多い。半数の9例が初回の生検時にすでにgliosarcomaの組織を呈しているが、後の半数は初回の生検時にはgliosarcomaの診断がなされておらず、astrocytomaやglioblastomaなどの組織を呈している。 sarcomatous componentsの見落としの可能性も否定できないが、gliosarcomaは手術所見も境界が明瞭である、硬いなどの差異が見られる様である。astrocytomaの放射線療法後、数か月から数年後に発症したという報告が7例見られる。radiation induced tumorについては幾つかの診断基準があり、Fajardoは1)同じ照射野内に腫瘍が発生する,2)潜伏期間を経た後に発生する、3)最初に治療した腫瘍と異なる腫瘍であること、という項目をあげている。また永谷ら(12)の報告によると照射からsarcoma発生までの期間は2年から27年、平均10年としている。この診断基準に添う症例は川口らの報告した2例のみとなるが、他5例もradiationの影響は否定できないと思われる。本例の場合もradiation、及び化学療法後sarcomatous componentsが確認されたものであり、過去の7例と同様とも考えられるが確定はできない。今後、手術および放射線療法、化学療法による集学的療法が増え、再手術、再々手術や剖検例が増えるにしたがい、本邦におけるgliosarcomaの症例数も増加すると思われる。
4.結語
今回我々はglioblastomaの放射線療法、化学療法後に発生したgliosarcomaの1例を経験した。本邦における症例をまとめ、radiation induced tumorの可能性も含め、この症例を考察した。放射線化学療法が広く行われている現在、重要な症例と思われたのでここに報告した。
5.文献
1)Feigin IH et al: The endothelial hyperplasia of the cerebral blood vessels with brain tumors and its sarcomatous transformation. Cancer 11:264-277,1958
2) 川口進ほか: Radiation induced gliosarcoma の2例. 脳外19:285-290,1991
3) Moranz RA et al: Clinical and pathological study of 24 cases of gliosarcoma. J Neurosurg 45:398-408,1976
4)Tsubokawa T et al: The sarcoma arising in glioblastoma, Clinicopathological report of two cases. Tohoku J Exp Med 115:85-93,1975
(オリジナルの論文から有用なものだけを引用した。)