GO TO HOME PAGE
【小児小脳星細胞腫】
1.はじめに
15歳以下の小児期に発生する脳腫瘍は人口10万人につき、年間1.5人と頻度はきわめて少ない。しかし小児期の悪性腫瘍のなかで比較すると、脳腫瘍は白血病についで第2位である。小児脳腫瘍のなかでは、髄芽腫とならび星細胞腫は約20%と最も多い腫瘍の一つである(1)。
小児小脳星細胞腫は神経膠腫の中で最も良性な経過をとる腫瘍として知られているが、なかには再発を起こす例(2)や、悪性化する例(3)も存在する。過去10年に経験した4症例を提示してこの腫瘍の治療上の問題点について考察を加える。
2. 症例
症例1 24歳男性
1984年5月後頭部痛出現、徐々に進行した。6月25日当科受診。CTにて右小脳半球に腫瘍が認められ(図1左)、当科入院した。入院時、右小脳症状及び軽度の鬱血乳頭を認めた。6月27日後頭下開頭で全摘出を行った。手術は右寄りの後頭下開頭すると、硬膜直下に黄土色の腫瘍壁を認め、穿刺すると赤褐色の液体を吸引した。壁在結節は右半球下方に存在し、嚢胞壁を含めこれを全摘出した。組織所見はpilocytic astrocytomaであった。術後神経症状は改善したが、水頭症が進行し、7月10日に脳室腹腔短絡術を行い、神経症状なく、退院した。1985年に慢性硬膜下血腫で入院手術をおこなっているが、その後特変なく、現在33歳になり当科外来にかよっているが、普通の生活をおこなっている。1993年2月3日に施行したMRIでも再発は認めていない(図1右)。
図1
症例2 3歳女児
1986年12月頭痛を時々訴えるようになり、翌年3月傾眠傾向、4月になって嘔吐が続き、4月18日当科を受診した。意識は清明で麻痺は認めず、軽度の左小脳症状、眼振を認めた。CTスキャンにて小脳正中部に造影される病変および水頭症を認めた(図2左)。翌日脳室腹腔短絡術施行。放射線療法(15Gy)、ACNU25mg、インターフェロンを投与してから、5月19日、7月7日に部分切除術をおこなった。組織所見はanaplastic astrocytoma、 grade 3であった。経過中さらに化学療法を追加し、CT上腫瘍は残存しているものの元気に退院した(図2中)。その後自宅にて生活可能であったが、1989年に再発し(図2右)、入院して化学療法を追加したが、次第に意識障害が進行し1989年7月10日死亡した。全経過2年2カ月であった。
図2
症例3 10歳男性
1992年4月頃から一ヶ月に1回位頭痛、吐き気があった。12月13日四肢間代性けいれんにて発症。当院に救急車で搬送された。来院時神経学的には眼底に軽度の鬱血乳頭を認めるほか異常はなく、頭蓋単純撮影で頭蓋骨全体に著明な指圧痕があり、CTスキャン、MRIにて小脳正中部に充実性で中心部が嚢胞になった7×6×6cm程度の腫瘍をみとめ、著明な水頭症を伴っていた(図3上、左下)。手術は後頭下開頭で薄くなった骨を切除してうすい脳表下に充実性で濃赤色の腫瘍が顔をだした。嚢胞は多房性で濃黄色の液を吸引した。腫瘍は第4脳室、C1の下までもぐりこんでおり、一部は脳幹部にかかっていた。腫瘍は脳幹部にかかる部分を残しほぼ全摘出した。組織はpilocytic astrocytomaであった。術後神経症状はなく、MRI上は造影される病変はみとめず、水頭症も改善した(図3右下)。93年2月8日退院し、現在外来にて経過観察中である。
図3
症例4 7 歳男性
1992年11月頃から朝の頭痛があり学校にいきたがらなかった。1993年2月、吐き気、頭痛が頻回となり当院小児科を受診し、5月6日に当科を紹介された。軽度の小脳症状を認める他神経学的に異常はなく、著明なmorning headacheを認めた。CT、MRIにて小脳正中に嚢胞があり、MRIのガドリニウム造影像にて壁在結節を確認した(図4上)。脳血管写ではmass effectのみで腫瘍濃染像は認めなかった。手術は正中部の後頭下開頭を行い、1×2cmの皮質切開をすると赤紫色の壁在結節を認め(図5)、xanthochromicな嚢胞液を吸引した。この嚢胞液は1176mg/dlの高い蛋白を含んでいた。嚢胞壁は腫瘍近辺のものは切除したが、深部は残した。壁在結節の組織所見はprotoplasmic component with microcytic degenerationを伴うpilocytic astrocytomaであり(図6)、嚢胞壁は正常小脳組織であった。術後MRIで嚢胞は縮小し、壁在結節は消失(図4下)、神経症状は消失して、6月16日退院した。現在無症状で経過観察中である。
図4
図5
図6
3.考察
1926年ごろすでにBailey and Cushingは小脳のastrocytomaは他部位のastrocytomaより術後ながく生存することを知っていた(4)。1931年にはCushingは76例の小脳星細胞腫を報告している。彼は大脳の星細胞腫と区別してその術後の良好な予後について報告しているが、組織学的には大脳の星細胞腫との違いについて述べていない。1937年になってBergstrandは詳細な病理組織所見を発表し、小脳髄膜の先天奇形として、"gliocytoma embryonale"とよんだが、現在では先天奇形説は支持されず、腫瘍とされている(5)。
1987年の全国脳腫瘍統計によると、小脳の星細胞腫は第四脳室のものも含め、全脳腫瘍の約2.5%を占めるに過ぎないが、小脳および第四脳室の腫瘍のうちでは髄芽腫と並び約20%を占めている。性差については明らかな傾向はない。年齢については4歳前後にピークがあるという報告と,10歳前後という報告がある(6)。
臨床症状としては頭痛、嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状を示すことが多く、これは腫瘍そのものによるものではなく、第4脳室を圧迫することによる非交通性水頭症のための症状である。その他小脳症状である歩行障害、上肢の不器用さなどや、複視、眩暈などを訴えることもある。鬱血乳頭は高頻度であり、長期に及ぶと失明の恐れもある(6)。
放射線学的検査では、単純CTでは一般的に低吸収域を示し、造影CTでは壁在結節を有するものは結節のみが造影され、腫瘍内に嚢胞を有するものは壁全体が造影され、充実性のものは腫瘍全体が造影される。血管造影ではほとんどが無血管性の占拠性病変像を呈する。MRIでは一般にT1強調画像にて嚢胞は低吸収域を、壁在結節や実質性腫瘍はやや低〜等信号域を示し、T2強調画像にていずれも高信号域を呈する。pilocytic astrocytomaの腫瘍実質はGd-DTPAにて造影される(6)。
小脳星細胞腫の分類および予後については様々な発表がされている。
術前のCT所見にて58例を分類した安江らの報告(7)によると、約32%が壁在結節を持つ嚢胞を形成するもの( cyst with solid type、M type)、約39%が嚢包壁がすべて造影CTにて増強されるもの(cyst within tumor type、C type)、約29%が嚢包を含まないもの(solid type、S type)であったとし、これらの機能予後を比較すると、Good(正常)+Fair(日常生活に困らない程度の障害)の割合は、M typeが100%、C typeで93.3%、S typeで 70%と報告している。また嚢包の有無と機能予後の関連を見ると、正中部充実性腫瘍の45.5%が転機良好であり、他の群の予後良好率(92.2ー100%)に比べ明らかな差が見られたとしている。
また、Russell and Rubinstein(8)は顕微鏡的病理所見にて3typeに分類し、第3脳室の小児pilocytic astrocytomaと区別のつかないもの、classic juvenile cerebellar astrocytomaと呼ばれる細長い紡錘形の”piloid”, ”hair like”な細胞が一部密に、一部は疎に織り交ざるように配列する2相性を示すpilocytic astrocytoma、このなかにはRosenthal fiberと呼ばれるエオシンに染まる物質でastrocyteの突起または胞体に見られるものが豊富に認められる。もう一つはdiffuseなものに分けられ、これはより浸潤性で、anaplasticな変化を伴う頻度も高いとされている。この分類を踏まえたGjerris and Klinken(1978)の44例の報告(9)によるとjuvenile typeは 70%でありdiffuse typeは 30%にみられ、diffuse typeは10〜14歳の年長組に多い傾向があったという。これらの25年生存率を比較するとjuvenile typeは94%であるのに対しdiffuse typeは38%と低いものであった。また肉眼的所見(cystic or solid)は生存率に影響しないとも報告している。
Gillesら (1977)の報告(10)ではastrocytomaに限らずすべての小脳gliomaについてGlioma Aをmicrocyst , lepto-meningial deposits(軟膜沈着), Rosenthal fibers, oligodendrogliaが見られるものとし、Glioma B をperivascular pseudo-rosettes, 次のうち何個か(high cell density, necrosis, mitosis、 calcification)が見られるものと分類した場合、Glioma Aの10年生存率94%でありGlioma Bの10年生存率は29%であった。また、Cystはglioma Aの69.6%、glioma Bの23%のみられ、cystを持つ患者の10年生存率は85%と高いものであったとしている。
Hayostekら (1993)(11)は132例の成人も含めた小脳astrocytomaの予後を見る上で、様々な指標に基づき試みているが、最も重要なものはpilocyticかdiffuseかということで、一度pilocyticと診断されると、その他の分類は予後と関係せず、diffuse astrocytomaと診断された場合、KernohanやSt.Anne-MayoやGilles-WinstonらのGrading system に基づいた分類が重要になり、low-gradeであれば、長期生存する可能性があるが、high-gradeであった場合、予後は不良で、テント上のhigh-grade astrocytomaと似た様な転機をとると報告している。また、pilocytic astrocytomaにて肉眼的全摘できれば90%近くが長期生存可能であるが、できなかった場合の予後は不良であったとも述べている。
本症例をこれらの分類に当てはめると、図5のようになり、症例2以外の予後は良好なものと推測される。症例1については発症年齢が24才とやや成人に属するが、この分類に当てはまりうると考えた。
図7
本腫瘍の治療法は、CT導入以来、嚢胞を有する場合、嚢胞壁が増強される例は嚢胞壁を含めて、されない例は壁在結節のみを切除する事により良好な経過を得ることができるとされている。しかしながら壁在結節を有する例が約1/3程度であり、またこの結節が嚢胞の背側に存在するとは限らず、C type,S type同様小脳脚、第四脳室に隣接するものであれば、亜全摘にとどまる症例も少なからず存在する。全摘した場合と亜全摘にとどめた場合に再発率が10%と53%と差が出るため、積極的に全摘すべきとする報告7)もあるが、亜全摘にても再発しない例や、長期生存する例があるため、機能予後を悪化させるような全摘は無理をすべきでないとする意見もある(2)。
本腫瘍の予後についてAustinら(1988)(13)はその他のほとんどの頭蓋内新生物が従うCollins' Lowに従わないとしている。Collins' Lowとは診断時の年齢に9ヵ月加えた期間を再発の兆候なしに生きた場合、その新生物は治ったとみなすことが出来るというものであるが、cerebellar astrocytomaはoptic gliomaとともに、この期間以後も再発を認めたと報告している。
放射線療法であるが、放射線抵抗性であるという報告もあるが、部分摘出例に対し、再発率を低下させるという報告もある。しかしながら照射を行っても再発する例もあり、再発腫瘍に対しても再手術を第一選択とすべきとする報告(6,13)が多く、一般的には行われない。しかし、初発より悪性の所見を有する例(14)や、20数年後に悪性化し再発する例もわずかながら報告されており、このような例では可及的全摘、放射線、化学療法が必要となるであろう。
4.文献
1)脳腫瘍全国統計委員会: 脳腫瘍全国集計調査報告. 1992
2)Bucy P ,Thieman P: Astrocytomas of the cerebellum. Arch Neurol, 18:14-19, 1986
3)Budaka H: Partially resected and irradiated cerebellar
astrocytoma of childhood:Malignant evolution after 28 years. Acta Neurochir, 32:139-145, 1975
4)Bailey P ,Cushing H: A Classification of the Tumors of the Glioma Group. 1926
5)Cohen ME ,Duffner PK: Cerebellar astrocytoma. Brain Tumors in Children, Principles of Diagnosis and Treatment, Raven, New York 1984 pp122-135
6)西本詮 ,古田知久: 星細胞腫. Clin Neurosci, 8:46-49, 1990
7)安江正治, 富田忠則 , McLone DG: 小児小脳Astrocytomaの臨床的研究. 脳神経外科 ,16:165-170, 1988
8)Russell DS ,Rubinstein LJ: Pathology of Tumors of the Nervous System(2nd ed).AFIP, Washington, 1972,pp 135-142
9)Gjerris F ,Klinken L: Long-term prognosis in children with benign cerebellar astrocytoma. J. Neurosurg, 49:179-184, 1978
10)Gilles FH, Winston K, Fulchiero A, et al.: Histologic features and observational variation in cerebellar gliomas in children. J. Natl Cancer Inst., 58:175-181, 1977
11)Hayostek CJ, Shaw EG, Scheithauer B, et al.: Astrocytomas of the cerebellum. A comparative clinicopathologic study of pilocytic and diffuse astrocytomas. Cancer, 72:856-69, 1993
12)Lapras C, Patet JD, Jr. CL, et al.: Cerebellar astrocytoma in childhood. Child's Nerv Syst 2:55-59, 1986
13)Austin EJ ,Alvord EC: Recurrences of cerebellar astrocytoma;a violation of Collins' Law. J. Neurosurg ,68:41-47, 1988
14)西岡宏 ,斎藤文男: 出血で発症し髄腔内播種性転移の見られた小脳Glioblastomaの1剖検例. 脳神経外科, 19:547-552, 1991
GO TO HOME PAGE