老成都公館慧園大酒樓 

老成都公館慧園大酒樓


巴金の小説「家」から題材をとったと言うこの店は、上海の郊外、嘉定区の近くにあります。 車の込み合う夕刻などは市の中心部から車で一時間近くはかかるでしょうか。 料理はかって成都に多数存在したという、公館のものが主体のようですが、そのほかに農村風味とか家常菜なども含まれているようです。

メニューを見ると料理名と値段のほかにも色々な情報が載っていてあきさせません。 たとえば、品名:公館泡花仁、主料・作法:花生仁泡制、味型:泡菜味・鹹鮮、特色:似生非生、口感清爽淡遠、伝聞:小城小公館的佐酒佳品由成都聚豊園餐廰李九如大師創製・・・ といったぐあいです。

四川料理の宴席の組み方はきわめて論理的で、ここのメニューのような各種の情報をマトリックスにして、バランスを見ながら組みたてるのです。 次に、魚翅席の事例をあげておきます。

類型:魚翅席、等級:高級、風味:川菜、季節:冬季
格式類別菜品名称配食主料烹法口味色沢造型
冷菜彩盆孔雀開屏 鶏、火腿等彫塑鹹鮮彩色立体
六単喋灯影牛肉 牛肉[月奄]、[火共]、蒸、炒麻辣紅亮方片形
紅由鶏片 鶏肉煮、拌微辣白中透紅長片形
葱由魚条 魚肉炸、●鮮香棕紅色条状
椒麻肚絲 猪肚煮、拌麻香白中帯青絲状
糖醋菜巻 蓮白[月奄]、拌甜酸白中有緑巻状
魚香鳳尾 笋尖沮、拌清鮮緑色条状
正菜頭菜紅焼魚翅 魚翅紅焼醇鮮琥珀色排翅状
[火考]菜叉焼酥方双麻酥、葱醤猪肉[火考]香酥黄金色四方形
二湯推紗望月龍珠餃竹孫、鴿蛋清鮮棕白相間圓珠
熱葷干焼岩鯉 岩鯉干焼醇鮮紅亮全魚
熱葷鮮[火留]鶏絲 鶏肉[火留]鮮嫩玉白絲状
煮菜[女乃]湯菜頭 青葉頭素[火会]清鮮白緑相対条状
甜菜冰汁銀茸鳳尾酥銀茸純甜玉白花朶状
座湯虫草蒸鴨金絲麺虫草、鴨醇鮮桔黄全鴨
飯菜四素菜素炒豆尖 豌豆尖[火倉]鮮香青緑網状
魚香紫菜 油菜頭微辣紫紅条状
跳水豆芽 緑豆芽脆嫩玉白針状
[火因]脂蘿蔔 紅蘿蔔脆嫩白中帯紅[石它]状
水菓江津廣柑      

更に、これに盛器の形状も考慮する場合もあるようです。 配食は料理にあわせて供される麺点類のことです。 四川料理では、宴席のところどころに見え隠れする、これら麺点類が多いほど、高級宴席の扱いになるようです。 なお、表の中の口味は味型と同じ意味と考えてよいでしょう。

ところでここの老板に四川料理のなんたるかを問いただしたところ、 彼は即座に「辣不能辣到心底、麻不能麻到舌根、用比来区別湘菜和雲南菜」と答えてくれました。 本当に心に沁みるお言葉だと思います。 なお「湘菜」は湖南料理で辛い(辣)のが特徴、「雲南菜」はもちろん雲南料理で山椒の痺れるからさ(麻)が特徴です。



さて、老成都公館の門をくぐると、燃え上がるような緋色のコートを着た川妹子が席まで案内してくれます。 花びらを浮かべた洗盆で手を洗い、サービスの薬酒を飲み干すと、宴の始まりです。

今回は、合計4回ここで食事をしましたが、まず最初は12月28日の夜になります。 この日食したものは夫妻肺片 25元、小姐魚凍 25元、鶏絲魚肚 38元、鍋貼豆腐 25元、開水白菜 48元、坦坦麺 3元×2、蕃茄餅 3元といったところです。

夫妻肺片は牛の肉と臓物で作った冷菜です。 成都の郭朝華夫妻が革命前に作り出して名声を博した料理なので、夫妻の名前が着いています。 12年前に私が成都を訪れた当時、まだ奥さんの方はご存命だったようです。 味の特徴は麻辣香です。

小姐魚凍は鮒の煮こごりです。 鮒を使っているのにまるで臭みを感じさせないばかりか、きわめて複雑な広がりのある味がします。

鶏絲魚肚は魚の浮き袋の乾物を戻したものと鶏肉の細切りの炒めです。

鍋貼豆腐は豆腐、魚、卵白等を混ぜて焼いたものですがなんとも不思議なお味がします。 いうならば、もんじゃ風味のお好み焼きといったところでしょうか。

開水白菜は四川料理で有りながら、実は北京で作り出された料理なのです。 四川名厨黄敬臨が清朝の宮廷に招聘されたおり、作り出したものだといわれています。 その後、彼が四川にこの料理を広めたのですが、30数年前川菜大師羅国栄が北京飯店の厨師長に就任して、再びこの料理は北京へと里帰りしたそうです。 まるで、お湯(開水)のように澄んだ清湯の中に白菜が沈んでいるすがたは、美しいだけではなく淡白でシンプルなその味は心打つものがあります。 四川料理の白眉と言われる所以でしょうか。

坦坦麺は、日本の芝麻醤に辛みを足しただけのような単純な味ではなくてきわめて複雑な味がいたします。 四川の漬物芽菜なども使われているのでしょうか。 〆に一杯注文すると、たまらずもう一杯注文してしまいます。 ほとんど、毎回これを注文しているのですが、細い素麺状の麺にもかかわらず、麺がのびていたことがありません。 注意して見ていると、小姐が調理場まで行って出来あがりを待って、出来るとすぐに小走りで持ってきてくれているようです。

蕃茄餅は肉入りの揚げパン状のものにトマトのソースをかけたものです。



二回目は12月30日の夜になりますが、この日食したものは 鉢鉢鶏 28元、水豆[豆支] 8元、麻婆豆腐 18元、回鍋土豆 15元、五味豆花 22元、月影江団 68元、酥炸麻圓 3元 といったところです。

鉢鉢鶏は最初バンバンジー(棒棒鶏)のことかなとも思ったのですが、違うようですね。 とてもめづらしい作り方をしています。 メニューによると主料・作法:嫩公鶏凉拌、味型:紅油、特色:彷農村風味、伝聞:玉沙街公館菜となっています。

水豆[豆支]は大豆を醗酵させたものに蘿蔔干を混ぜて着けこんだ四川の家庭の常備菜といったところです。 うまいですね。 まるで高知の酒盗のようにこれがあれば何杯でも白酒が飲めてしまいそうです。

麻婆豆腐は本場で何度も食しているのでそれほどの感動はありませんが、麻辣の味いいですね。 豆花のようにとても軟らかい豆腐が使われているところも好感が持てます。

回鍋土豆はジャガイモで作った精進の回鍋肉です。 細い葱のような蒜苗が使われているところがいいですね。 一般的に上海では日本と同じで蒜苗(ニンニクの芽)というと茎の部分がでてきます。 茎の部分よりやはり、この細い葱のような本物の蒜苗の方が私は好きです。

五味豆花は豆花の上に五種類の味の醤がのっています。 麻婆豆腐の後では大分部が悪かったですけど、醤の味はそれぞれ深い味わいがあり感銘を受けました。

月影江団は郭抹若(四川楽山人)家の伝家菜だそうですが、軟らかい魚肉のすり流しの浮かぶ清湯の中に江団が魚影を横たえているところはなかなかに風情があります。 江団は回魚と同じかと思っていたのですが、顔つきが扁平なので同属異種といったところです。 これらの魚は一時絶滅の危機に瀕していたことがあり、値段も高騰していたのですが最近養殖されるようになってからはまた値段が下がったようです。

酥炸麻圓はいわゆる胡麻団子です。



12月31日は20世紀最後の日のため相当に込み合っていましたが、この日にふさわしい色々な出し物などもあって結構楽しめました。 この日食したものは蒜泥白肉 18元、魚鱗涼粉 25元、水煮牛肉 28元、叫化子魚 68元、劍南火腿魚[米羔] 28元といったところです。

蒜泥白肉はいわゆる雲白肉で日本でもおなじみの四川です。 真中にキュウリの薄きりを配し回りに豚の腿肉の薄切りを円を描くように綺麗に並べるのは陳健民氏の発明のようです。 もちろんこれも、食す前にはグジャグジャにまぜるのが作法ですが日本でそれをやると顰蹙を買うことが多いので注意が必要です。

魚鱗涼粉これは名前だけかと思ったのですが、本当に魚の鱗から作るようです。 大魚の鱗を高熱で処理(熬)して抽出したゼラチンを煮こごりにするそうです。 まことに玄妙な味がいたしますが、効能は美容健脳だそうです。 ありがたいことでございます。 はい。

水煮牛肉は最近日本でも市民権を得つつありますが、麻婆豆腐と並ぶ四川大衆料理のチャンピオンです。 牛肉と野菜が唐辛子と山椒の沢山入った汁の中に沈んでいます。 この味も素晴らしい。 今まで食したものの内でも最高の部類です。

叫化子魚は文字通り訳せば乞食魚です。 ようするに、魚を食用の牛皮紙に包んで調理する、乞食鶏の魚版といったところです。 調理後の魚肉はほくほくとして、やわらかい口触りが嬉しい一品です。

劍南火腿魚[米羔]は廣東料理の影響のもとに考えられた料理で魚の薄切りの中に火腿が挟まれています。



最後は2001年の元旦(夜)です。 この日食したものは七色素鑵 13元、一叶茄船15元、蟹黄芋絲 18元、劉公雅魚 180元、国宴香酥鴨 38元 といったところです。

七色素鑵は七種類の野菜の湯引きの飾り盛りで見た目にも美しい一品です。 もともとは中国の寺院の素菜で、さっぱりとした口当たりが嬉しいです。

一叶茄船は大型の茄子をくりぬいた外側を容器につかった、ちょっと粋な料理です。

蟹黄芋絲は蟹味噌と鹹蛋の黄身を混ぜて作ったソースでジャガイモの細切りを爆炒した江淅風味の料理です。 鹹蛋の黄身は澱粉質と相性がよいようですね。

劉公雅魚は鮭科の魚雅魚を使った鍋料理です。 言い伝えによると、この魚の頭には諸葛亮の宝剣が隠されているそうです。 この店の川妹子が頭骨を割り、この宝剣を取り出してリボンを結びこれはお守りになるのですといって渡してくれました。 翌朝浦東空港へ行ったら私の乗る飛行機はキャンセルになっているとのこと。 指定された別の飛行機会社へいったらスタンバイでしたが、ビジネスクラスへ乗せてくれました。 川姉子に感謝感謝です。

国宴香酥鴨は北京ダックと四川の神仙鴨子から作られた料理で、朱徳元帥がことのほか愛した料理だそうです。 北京ダックのように甜麺醤をつけてレタスに挟んで食します。



まず、花びらを浮かべた洗盆で手を洗うと、さー宴の始まりだ!!

左から夫妻肺片と小姐魚凍(左)、左手前から時計回りに鶏絲魚肚、鍋貼豆腐、開水白菜(右)

坦坦麺(左)、蕃茄餅(右)



鉢鉢鶏(左)、水豆[豆支](右)

麻婆豆腐

回鍋土豆(左)、五味豆花(右)

月影江団



20世紀最後の夜は川妹子のショーとともにふけていく

左から蒜泥白肉と魚鱗涼粉(左)、水煮牛肉(右)

叫化子魚(左)、香菜をのせて蒸らしてから食します(右)

劍南火腿魚[米羔]



七色素鑵

一叶茄船(左)、蟹黄芋絲(右)

劉公雅魚

重慶からきた川妹子(左)、雅魚の頭には諸葛亮の宝剣が隠されていると言う(右)

国宴香酥鴨


基礎データ
住所大渡河路1830号(市体育宮)
電話6264−9759
営業時間10:30〜24:00
お勧め料理水煮牛肉、小姐魚凍、開水白菜、鉢鉢鶏、水豆[豆支]、麻婆豆腐、月影江団、魚鱗涼粉、叫化子魚、七色素鑵、一叶茄船、蟹黄芋絲、劉公雅魚、国宴香素鴨、坦坦麺など
取材日時2000年12月28,30,31日、2001年1月1日




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