上海 Old Hotels |
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ここ和平飯店では二つの贅沢が許されているのです。 その一つがホテルの窓から眺める外灘の観景ともう一つは遠くハルピンから運ばれてくるキャビアを食べることです。
その昔、このホテルがキャセイホテルと呼ばれていたころ、この二つの贅沢を独り占めにしていた男がいるのです。 この男サッスーンはキャセイホテルの三角帽子の中に有る特別室で毎朝外灘の景色を眺めながらキャビアを食べることを習慣にしていたといいます。
しかし、バビロンの栄華は久しからずといいます。 ここ上海を訪れたバビロンの栄華も終わりの時がやって来て、キャセイホテルの回廊にも、 中華の土地に貧困のユートピアを打ち立てた新しい帝王たちの靴音が谺する時がやって来るのです。
「四九年の春にやっと上海を開放し、第七艦隊の艦影が黄浦江を去って黄いろい水平線にとけていくのを見送ったあと、 このイギリス人の牙城「サッスーン・ホテル(注:キャセイホテルのこと)」の薄暗くて俗悪豪奢な玄関へ靴音高く垢まみれの綿服を着て入ってきた毛沢東や周恩来や、 朱徳、郭沫若、芽盾、田漢、欧陽予倩といった人たちの姿を想像してみると、名状しがたい酔いが起こってくる。 気の狂いそうな歓喜で全身燃え上がったことだろう。」