曼珠沙華
GONSHAN.GONSHAN.何處へゆく。 赤い、御墓の曼珠沙華、 曼珠沙華、 けふも手折りに來たわいな。
GONSHAN.GONSHAN.何本か。 地には七本、血のやうに、 血のやうに、 ちゃうど、あの兒の年の數。
GONSHAN.GONSHAN.氣をつけな。 ひとつ摘んでも、日は眞晝、 日は眞晝、 ひとつあとからまたひらく。
GONSHAN.GONSHAN.何故泣くろ。 何時まで取っても、曼珠沙華、 曼珠沙華、 恐や赤しや、まだ七つ。
北原白秋「思ひ出」収
<全草、とくに鱗茎> リコリン、ガランタミン。 同じ仲間のスイセン、タマスダレ、ハマユウにも同じ毒がある。
症状:吐き気、嘔吐、下痢、中枢神経の麻痺、脱水ショック。お彼岸のころに咲くのでこの名があるが、この花が赤く大きくて美しいのを表現したものとして曼珠沙華という言い方がある。
大盗賊アフマド・カマーキムは、(略)この世の生きとし生けるものがすべて眠りにつき、造物主がそれらの上に闇の帳を蔽いかけたもうころまでじっと待ちかまえておりました。
それからやおら剣をぬいて右手にもち、左手には鉤縄ををもってカリフさまの御座の間へと近寄っていきました。まず縄ばしごをかけ、次に鉤縄を御座の間の屋根に投げてしっかりと固定してから、縄ばしごを伝わって平屋根に登りました。それから御座の間に通ずる揚げ戸を持ち上げると、内側におりていきました。
宦官どもが眠りこけているのをみるとバンジを嗅がせておいて、カリフさまのご衣装や数珠、短剣、手巾、印章指輪、宝石つきのランプなどを掠めとりました。
アラビアンナイト「ほくろのアラディン物語」
------------------------------ われわれの感覚でいう“クロロフォルム”が、このバンジで、アラビアンナイトの世界では、人を意図的に眠らせるのに頻繁に登場する。
<全草> ヒヨスチアミン、スコポラミン。ヨーロッパでは『魔女の草』と恐れられてきた。魔女が空を飛ぶというのはこの幻覚作用によるものか。→モーリュの項、参
**** その実はザクロの花蕾のような形状で内部にたくさんのケシの種に似た種子がついている。3種類あって、
1、花が紫色で種子が黒いもの 2、花が黄色(りんご色)で、種子は赤っぽいもの 3、花も種子も白っぽいもの
もっともよいものは3のもので、これが手にはいらなければ2を用いる。1のものは危険で、服用すると死ぬか発狂するという。3のものは薬用にもちいられ、血を濃くし、身体を肥らせるし、焼いてその煙を吸えば歯痛その他の痛みを和らげる。2のものはアルカロイドを多く含み痲酔の作用をもつ。
ハシーシュ(大麻)、アユフン(阿片)、そしてこのバンジの3種類はアラブ世界でも麻薬としてもっともよく用いられる。
前嶋信次/訳「アラビアンナイト索引」
↑2、の黄色のヒヨス