読書録

シリアル番号 632

書名

なぜ国家は衰亡するのか

著者

中西輝政

出版社

PHP研究所

ジャンル

歴史

発行日

1998/11/4第1刷
1998/12/1第2刷

購入日

2004/06/07

評価

鎌倉図書館蔵

衰亡論をペシミスティックと批判し退ける社会は衰退する。

ギボンが「ローマ帝国衰亡論」を書いた時、英国は興隆期にある日本でギボンが読まれた時期も日本の興隆期であった。

トインビー著「歴史の研究」社会衰退の最大の要因は「自己決定能力の喪失」である。またはメレディスのいう「自らの内なる虚ろなるもの」によるとも言っている。

「文明の成長はつねに”創造的な少数者”によってなされる」従って少数のリーダーが膨大な数の人々を引率すれば成功するが、一方、この少数のリーダーが"ハーメルンの笛吹き男"にもなりうる。故に「成長と衰退は裏腹である」ともいえる。

創造的な指導者達が、追従者達にかけた催眠術に新米の指導者がみずからかかり自己決定能力を失うと社会の衰退がはじまる。明治期の指導者が大衆を唱道した言葉を信じた昭和期の新米指導者が状況に応じた判断をくだせなくなる。ミメーシス(模倣)によるネメシス(復讐)

興隆期に設定された価値観をいつまでも追い求めると、成熟期には障害となる。

必要なのは事実をありのままに直視する「心の活力」である。英国人のマドリング・スルーの精神が参考になる。これはプロセスを楽しむ精神。「精神的自己規律」

「成者必衰」は似て非なる概念。

ローマの衰退はハンニバルや、ゲルマン族などの外敵ではなくギリシア文明を受け入れたことによって滅びた。カトーはギリシアから入って来るヘレニズ ム文化があまりにも高級で洗練されたものであることを恐れた。一定限度を越え洗練された文化は、それが生まれた地域においてはそれほどの害を流すことはな いが、それが、どの国にもあてはまる普遍性を売り物にしていれば、それを外来のものとして受け取る側には悪影響が大きい。普遍的な文化はその中に必ず一定 の毒を含んでいるからである。丁度素朴な村人が都会の悪習に染まるように、免疫のない人々には致命傷になる。

ローマ皇帝の正統性は、民衆の支持によって成立する。

内部からの崩壊防止として儀式化が有効な例としてニカの叛乱がある。この市民の叛乱以後、ビザンチンでは皇帝の言葉に”歓呼の声”をあげるデモスと呼ばれる役職が作られた。いわば仮想市民、バーチャル・ピープルである。こうした儀式化によってビザンチンは1000年の寿命をもった。

中国は石の文明で、西洋と類似の論理性と普遍性が見られる。天の思想も一神教に近い。

ローマを越えようと過度の抽象化に走って機械的なドグマ一辺倒になったのが西洋の啓蒙思想であり、近代ヨーロッパである。アメリカ文明は歴史を喜捨 して純化した高みから出発した更地文明である。中国も王朝が交代するたびに、前の王朝の人はすべて殺されるので更地文明といえる。

普遍主義はダブル・スタンダードに陥る。現実から乖離する部分が生じるからである。

江戸時代には60-70年間隔で庶民が奉公先から抜け出て伊勢参りをするお陰参りが自然発生した。参加人数は総人口の15%に達した。このお陰参り現象もバブル現象。

外来の神、すなわち他者の価値観や思想に対する無批判な受容が現在の日本衰退の原因としている。


トップ ページヘ