* ドイツ人の食卓*


* ドイツ在住中のれぽ〜と 98年7月 *

 友達に、ドイツ人は何を食べるの?とよく聞かれる。日本人は何を食べるの?と聞かれるより難しい質問だ。
 ある日、フラメンコ仲間(趣味で習っている)のパトリシアが、フランクフルトの北 に位置するヴェストハイムの彼女の祖母の家に、泊まり掛けで遊びに行こうと招待してくれた。

 彼女の車でヴェストハイムに向けてドライブしていると、 「おばあちゃんがね、日本人のお客さんが来るからご馳走をつくろうって、はりきって るみたい。楽しみにしてて
ね。」 この言葉にグルメな私はウキウキした。(ご馳走ってなんだろう〜?)  お互いの趣味であるフラメンコの話題に花を咲かせながら、出発してから約3時間半 後にパトリシアの祖母の家に到着した。
 家の横に車を駐車すると、大学生で居候しているパトリシアの弟トーマスが出迎えてくれた。ドイツ人らしい背の高い好青年だ。家の中に案内されると、ヨーロッパの紳士らし
く、さりげなくコートを脱がせてくれて、それをハンガーに 掛けてくれた。
 居間に通されると、パトリシアのおばあちゃんが台所から出てきて静かに歓迎してくれた。過去にスペインに留学した経験があるが、その時は初対面の人でも抱擁(抱きかかえるようにして愛撫すること)して熱烈な挨拶をしてくれたが、ドイツではあっさり と握手をするだけで、初対面の人に抱擁するなんてことはまずない。なんだか物足りなく感じる。 同じヨーロッパ内でも国によって国民性が全然違うから驚きである。 まぁ、そんなことはどうでもいい。
 居間でしばらく自己紹介などしながら会話を楽しみ、1時ごろやっと昼食を食べることになった。

 台所からは肉の焼けたいい香りが漂ってくる。パトリシアと食卓で座って待っているとトーマスとパトリシアのおばあちゃんが、じゃがいもを丸めた団子とザウワークラウト

(キャベツの酢漬け)、それとリントブラーテン(牛肉のロースト)の3皿を運んできた。ただお皿に盛った飾り気のない料理だ。 (えっ、ご馳走ってこれだけ?) 私はもっと豪華な料理を想像していたので少しがっかりした。 (でもドイツは最近、夕食がメインだっていうし、昼は簡単に済ますのね。)
「マリコ、ワインは白でいいかな?」 私がうなずくと、トーマスがワインを注いでくれた。
「ようこそヴェストハイムに。乾杯!」 料理を食べてみると、どれも見た目より美味しかった。う〜ん、まんぞく。 食べながら話をしていると、ザウワークラウトは千切りしたキャベツを鍋で十何時間も 煮込む料理で、普段はお店に売っているものを買うが、今日は私の為に一からおばあちゃんがつくってくれたと言う。 うっ、おばあちゃんに
感謝、感激。

 昼食後、トーマスが車で隣町のお祭りに連れていってくれた。ドイツはどこにいって も街並みが美しく溜息がで
る。雪がパラパラと降っていて、街がいっそうロマンチック にみえる。露店を見ながら写真を撮ったり、ホットワイン(スパイスが入った温かい赤 ワイン)を飲んだりして楽しんだ。

 さあ、もうすぐメインの夕食だわ。何がでるのかな〜?  夜の7時をまわったころ、昼食の時と同じように、パトリシアと食卓で座って待って いると、数種類のチーズとハムがのったお皿とトマトサラダ、パンとバターが運ばれて きた。 (美味しそうなオードブル!でも、あんまり食べたら次の料理が食べれなくなるから少しだけにしとこっと。) 白ワインで乾杯し、こっちに来てから好きになったチーズを食べながら、次の料理が運ばれてくるのを心待ちした。 しかし、いつまで待っても次の料理を用意する気配も感じられない。 「次の料理は何ですか?」なんて口がさけても聞けないし、おとなしく待っているしかない。そういえば以前、誰かがドイツ人は日に一度しか(主に昼食)暖かい料理を食べ ないのよ、と言っていたのを思い出した。いやな予感、、、、、、
「さて、そろそろ居間に移ろうか。」 トーマスのこの一言で、料理は終わりを告げた。 (あ〜、こんなことならもうちょっと食べとけばよかった、、、、)後の祭りである。 夕食後はデザートもなければ、コーヒーもなかった。 バカな私は、これがドイツのカルテスエッセン(=冷たい食
事)だということを身を持って知ったのである。

 ちなみに翌日の朝食は、前日の残りのチーズとパン、
コーヒー。  
昼食は、コンソメスープにシュヴァイネブラーテン(豚肉のロースト)、紫キャベツ の煮物、デザートにトーマス特製デザート(カスタードクリームのムース)。 今までの中で、一番豪華だった。その後招待された他の家でも、ほとんど同じ様な料理がだされた。これが典型的なドイツ料理らしい。
 しかし、普段は本当に「粗食」なんだろうな、と心配してしまう。逆に「粗食」でありながら、どうしたらあんなにデカくなるのか(ドイツ人は皆デカい)不思議である。

 ドイツの食生活を身を持って体験した私は、ドイツ人の家に夜招待されたら、行く前 に少し食べるか、または食べ物を持参することにしている。 それが、ドイツで生きながらえる術である。



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