語学学校はフランクフルト市の中心にあり、家から電車で約20分かかる。
授業は9時から始まり、途中休憩が20分ほどあって、12時15分に終わる。今のクラスは全部で7人で、先生も含めて全員女性だ。私の他に日本人の女性があと1人、
アメリカ人が2人、韓国人が2人、ギリシャ人が1人。
授業の初めは世間話から始まる。「最近見た映画について」「最近読んだ本の紹 介」「休暇は何をして過ごすか」「車のマナーについて」など、ごく一般的な内容からゴシップ的内容(例えばクリントン大統領の不倫疑惑について)まで幅が広く、
個々の意見を聞いていると国民性がみえてくるから興味深い。
世間話が落ち着くと、本来の目的である授業が始まる。教科書にそって、文法の勉強をしたり、発音の練習をしたり、討論したり、おもしろい日もあれば、つまらない
日もあ
る。
授業が終わると全員すぐ帰る。約束なしの「ちょっとこれから昼食でも」はほとんどないので、昼食は休憩時間の11時頃に軽くすませてしまう。この日は、パンをかじっている友達の横で、自分でつくったお弁当を食べた。
午後の予定は特に決まっていない。すぐ帰宅してまじめにドイツ語の勉強をする日もあれば、友達と買い物に行った
り、美術館に行ったり、ティーパーティーに招待されたり、招待したり、フラメンコのレッスンに行ったりする。
語学上達の鍵を握っているのが、この午後の行動にあると思う。午前中、学校で習ったことを、実際外でつかってみないとモノにならないからだ。だから私は積極的
に人のいるところに出掛けるよう心掛けている。
頻繁に会うのはイタリア人の友達、モニカだ。いつも同じ場所で同じ時間に待ち合 わせをする。
「ハローマリコ!!!!」
「ハローモニカ!!!!」
普通の人より少し大きな声で叫びながら抱き合い、両頬にキスをする。 「さて、今日は何がしたい、マリコ?私は行きたい美術館があるの。マイン川沿いに
あるシュテーデル美術館よ。行ったことある?入場料はそんなにしないと思う
わ。」 「おもしろそうね。是非いきましょう!」
いつも感心するのは、彼女はお金の使い方がじつに上手
く、お金をかけない遊びをじつによく知っている。無料の展覧会やコンサートを見つけるのは達人の域に達しているし、有料でも芸術レベルの高い展覧会を見つけては足を運ぶ。
彼女は日本人のように楽をするための余計なお金を使わない。 「フランクフルトの地下鉄は高いし、歩く方が健康にいいからシュテーデル美術館まで歩いて行きましょう。」といって、4駅くらい平気で歩く。これは、モニカに限ら
ずヨーロッパの人は本当によく歩く。基礎体力が違う。買い物に行って、ちょっと疲れたからといって喫茶店には入らない。街中のいたるところにあるベンチに座って疲れを取る。
また、付き合いや見栄でお金を使うこともない。 「モニカ、今日は甘いものが食べたいわ。どっかに食べに行かない?」 「そこで売ってるクレープでも買って食べたら?」
「今日はちゃんと座って食べたいの。マクドナルドのアップルパイでもいいから、付き合ってよ。」 「そこまで言うんだったらいいわよ。行きましょう。」
と言って一緒に来てはくれるものの、彼女はなにも注文しないで、アップルパイを食 べている私の前に座っておしゃべりをしながら、私の食べ終わるのをただ待つのである。
きっと逆の立場だったら、付き合いで「私もアップルパイを食べようかな。」と思う。でも「アップルパイだけじゃ格好悪いしコーヒーも注文しちゃおう。」と見栄もはると思う。しかし、彼女は「いらない」と思ったら、160円のコーヒーでも付き合
わない。じつにあっさりとしている。
かといって彼女は貧乏でもなければケチでもない。家の中はブランドの家具できれいに埋め尽くされているし(ヨーロッパの人は家に一番お金をかける)、月に一度は
ケーキを焼いたりパスタをつくって、友達をもてなす。
節約できるところは徹底して節約し、使うべきところには惜しみなくバンと使う。 彼女を見ていると、とてもすがすがしい気持ちになる。
モニカと一緒にいると楽しくて時間はあっという間に過ぎていく。彼女も既婚者なので、夕方の5時頃には夕食をつくりに帰路に着く。
帰宅してから夕食の支度にかかる。この日の夕食のメニューは、鳥肉の味噌焼き、 ブロッコリーとホタテの中華風炒め、味噌汁、野菜サラダ。
えっ、ただの和食じゃない、と思われるかもしれない。もちろんソーセージやチー ズを食べる日もあれば、パエーリャなどのスペイン料理や、パスタなどのイタリア料
理をつくる日もある。しかし、和食をつくる日が圧倒的に多い。
その理由の一つは、外食をすると必然的に洋食になってしまうので、せめて家では和食を食べたくなるからだ。疲れたときにはなおさらだ。しかも、大方のレストラン
での食事はドイツ人向けの味付けにはなっている。脂っこくて一皿の量が多すぎるので、そう頻繁には食べられない。
二つ目の理由は、お客さんを食事に招待すると和食が期待されるからだ。以前、学校の友達を家に招待した時、スペイン料理をつくってもてなしたことがあった。友達の何人かが「今日は日本料理じゃないのね」とがっかりした顔をしていた。
だからドイツに来てからは、日本にいた時以上に和食をつくるようになってしまっ たのだ。
夫が帰宅してから、ドイツのラジオを聞きながら夕食を食べ、その日あったことを 報告し合う。夕食が終わると、夫はテレビを見ながらお菓子を食べたり、たまにイタリア語の勉強をしたりしている。私はドイツ語を勉強したり、本を読んだり、電子メールをおくったりする。エキサイティングで楽しい日もあれば、何の収穫もない平
凡な日もある。
ただ、日本では味わえなかった心地よい時間が私を包み込んでくれる。
後日附記(日本帰国後)
日本にいると、なぜかテレビを見てしまう。時間の浪費のような、そうじゃないような。。。
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