聞こえますか(2)


4月12日加筆:以下の項、思った通り筆者の間違いがあったのであります。この測定はプレーヤーのボリュームを28(最大は40)にして行ったのでありますが、そもそもS/N比の仕様は最大値で定義されているのであって、それは(おおざっぱに言うと)ボリュームを最大にしたときの値なのであります。そんなわけで、電池およびその接続方法によってノイズの出方が変わるという部分は本文の通りなのでありますが、ノイズの絶対値は間違っているのであります。以上、お詫びして訂正させていただきます。


しつこくフラッシュメモリ音楽プレーヤー、ケンウッド製M1GA3の話が続くのであります。

このプレーヤーでは MP3 と WMA が再生出来るのであります。ただし私が試した範囲では、WMA よりも MP3 再生時の方が、ノイズが少ないのであります。どうせ音楽を聴くのであれば、少しでもいい音で聞きたいと思うのが人情だと思うのでありますが、この場合は「いい音」イコール「少しでもノイズが少ない方」なのであります。問題のノイズがホワイトノイズであれば、もしかしたら「ノイズはあるが、音楽はいい音で聴ける」と言うことがあるかもしれないのでありますが、今問題にしているのは特定の周波数、それも人間の声の周波数帯の中のノイズなのであります。そういうノイズは、音楽にとって邪魔以外の何者でもないのであります。

しかし、ここでふと思ったのであります。「なぜ、WMA 再生の方が MP3 再生よりもノイズが多いのだろう」と。

おそらく圧縮の仕方は違うのでありますが、MP3 は公開規格であっても WMA は非公開(少なくとも消費者にとっては)なので、どこがどう違うかはわからないのであります。わからないことを考えても仕方ないのでわかる範囲で考えたのでありますが、どうやらデコードに必要な電力の量が、WMA の方が多いような気がするのであります。というのは、プレーヤーの仕様を見ると、128kbps の MP3 再生で電池持続時間が 12時間とあるのに、64kbps の WMA 再生では 10時間しか持たないとなっているからであります。ビットレートが違うのが気になるのでありますが、ビットレートが下がると消費電力が減るのが普通であるようでありますから、消費電力は (64kbpsのMP3) < (64kbpsのWMA) だと思うのであります。そこで、以下のような仮説を考えたのであります。

仮説:WMA 再生時は電池からの電力供給が十分でないため、MP3 再生時よりも多くノイズが発生する。MP3 再生時も電力供給が十分ではないためノイズが発生するが、不足の度合いが WMA 再生時よりも少ないため、発生するノイズも少なくて済んでいる。

この仮説が正しいとすると、電池からの電力供給を増やすことでノイズを減らせるかもしれないのであります。このプレーヤーは分解不可能でありますから、電池交換で音質改善できるのであれば、非常に好都合なのであります。そこで、いろいろな電池を試してみたのであります。

使用した電池

上の写真が使用した電池であります。一番上から通常のアルカリ乾電池(単四、東芝)、オキシライド(単四、パナソニック)、ニッケル水素充電池(単四、サンヨー)、同(単三、パナソニック)、同(単三、サンヨー)であります。普通のアルカリは普段ならばパナソニック(金パナ)を使っているのですが、今回は実験予算の都合で東芝なのであります。もちろん、過去の実験と照らし合わせた結果、そんなには違わないことを確認しているのであります。

このプレーヤーは単四電池を使うようになっているので、単三電池は電池ボックスに入らないのであります。しかし、電力供給容量の実験でありますから、供給余力の大きい単三電池はぜひ試したいところなのであります。そこで、電池ボックスとワニグチ付きの電線を駆使して、ムリヤリ使うのであります。

単三電池の接続

電線がやたら細いのでどう考えても抵抗が問題になると思うのでありますが、そういうことは都合良く忘れるのであります。ところで、上の写真で接続が変に見えるかもしれないのでありますが、実はそうではないのであります。というのは、電池ボックスには電池が並列に入れてあるのであります。緑のワニグチは、プラス側をショートするために使っているのでありまして、これでプレーヤーには1.2Vを供給しているのであります。

さて、まずは普通のアルカリ乾電池なのであります。

アルカリ乾電池(単四、東芝)

ノイズ出まくりなのであります。前回測ったときはもう少しノイズレベルが低く出ていたのでありますが、こちらの方が正しいのであります。そういえば最近気が付いたのでありますが、この周波数(2756.3Hz)は、測定時に再生していた MP3 ファイルのサンプリング周波数 44.1kHz のちょうど 16分の1 なのであります。つまり、原振がこれで、16倍して 44.1kHz を作っているのではないかと、疑っているのであります。

次はパナソニック一押しのオキシライド乾電池(ただし旧型)なのであります。一応言っておかなければならないのでありますが、オキシライド乾電池は従来のアルカリ乾電池よりも電圧が高いのであります。なので、下手をすると機器を破壊する可能性がありますし、壊れても機器のメーカーは保証しないと思われるのであります。もちろんパナソニックが保証するとも思えないのでありますから、結論としては自己責任で使うしかないのであります。追試をされる方におかれましては、以上の点をお含み置きの上、自己責任にてご使用いただけますよう、お願い申し上げる次第であります。

オキシライド(単四、パナソニック)

2756.3Hz のノイズは消えて、ピークは 11714.1Hz に移動しているのであります。この周波数は 44.1kHz の 4分の1…にかなり近いのではありますが、微妙に違っているのでありますから、両者を関係付けるのは少々無理かと思うのであります。ともあれ、大変興味深い結果であります。

オキシライドを使った再生を実際に耳で聞いてみると、やはりノイズは少し減っているようでありますが、決して無くなってはいないのであります。しかも、再生音全体がどことなくチリチリ、あるいはギスギスとしているのでありまして、嫌でも電圧の違いを意識させられるのであります。つまり、メーカー保証を犠牲にしてまで聞くような音ではないのであります。すなわち、私としては、オキシライドのことは忘れることにしたのであります。

次はサンヨーが会社の命運をかけて発売したエネループ(単四)であります。私は電池についてはパナソニック党でありますから、電器屋でパナソニックのニッケル水素電池の新作を探したのであります。これはエネループ同様、自然放電が少ない優れものと言うことなのでありますが、なぜかヤマダとコジマにしかなく、ケーズと石丸には置いてなかったのであります。個人的にヤマダもコジマも取引がないので、今回はエネループを使ってみることにしたのであります。決して、サンヨー救済が目的ではないのであります。

エネループ(単四、サンヨー)

ニッケル水素電池はアルカリ乾電池よりも余計に電流がとれるはずなのでありますが、結果を見る限り誤差程度の違いしかなかったのであります。聴感上も、違いは認識できない程度だったのであります。

次が単三電池であります。測定結果はパナソニックニッケル水素電池の並列でありますが、1本でも、あるいはエネループ(単三)でも傾向は全く同じであります。

ニッケル水素(単三、パナソニック、並列)

ノイズがかなり押さえられているのであります。すなわち、私の部屋で私が聞く限りで、聞き取れない音量なのであります。無響室で聞こえるかどうかはよくわからないのでありますが、私の部屋もずいぶん静かな方でありますから、これだけ聞こえなければ十分ではないかと思うのであります。この状態で通常の音楽を聴いてみると、なかなかいい音に聞こえるのであります。ちなみに A8 (B&O) よりは付属イヤホン(一説にはオーディオテクニカの ATH-C601 同等品)の方が少しだけこってりとした音で、楽しめるような気がするのであります。普通にアルカリ乾電池を使ったときは A8 のあっさり味の方が好ましく聞こえ、付属イヤホンは低音がぼわぼわして聞いていられないのであります。不思議な話であります。


ここまでの結果だけで考えると「単三乾電池、最強っ」と言う結論になるのですが、それは少し早いのであります。つまり、単四電池と単三電池で、測定系が違っているのであります。具体的に言うとワニグチ付き電線であります。上の方でワニグチ付き電線の抵抗については「都合良く忘れる」と言ったのですが、忘れるためには単四電池+電池ボックス+ワニグチ付き電線で測定してみて、直接単四電池を本体に入れたときと結果が同じ(少なくとも傾向は)であることを示さなければならないのであります。

すなわち、実際にやってみたのであります。

エネループ(単四、サンヨー、ワニグチ使用)

上の単三の図をコピペしたのでは無いのであります。実際に耳で聞いても、ノイズは全く聞こえなくなっているのであります。もちろんこれは単四1本で測定しているのでありますから、上の方のエネループ単四の結果とは、電池ボックスとワニグチしか違わないのであります。ワニグチにしろ細い電線にしろ、電流を制限する方向にしか働かないのでありますから、これを使うと本体が使える電力は少なくなるはずなのであります。

つまり結論としては「ノイズが発生するのは、電力が足りないからではない」のであります。ワニグチと電線には抵抗とインダクタンス(コイルの成分)があるのでありますが、いくらインダクタンスは高周波に効くと言ってもこの場合それが効いているとはとても思えないわけでありますから、結局抵抗が効いているという結論にしかならないのであります。

もう一つ、このプレーヤーでの音楽再生中のノイズについて、ケンウッドと私の見解が分かれている件でありますが、これについても、「ケンウッドでは本当にノイズが聞こえていない」可能性が出てきたのであります。すなわち、ケンウッド側でテスト時に使用している電源が今回の電池ボックス+ワニグチ相当であるならば、「2756.3Hz のノイズは存在するが通常は認識できない」という同社の見解は全くその通りであると思うのであります。「相当」というのは、つまりワニグチではなく、もう少しましな接続方法を使っているであろうと言うことでありますが、ともかくそういうテスト方法で異常なしと言っているのであれば、「頼むからユーザーが使う状態でテストしてくれ」と思うわけであります。しかし今更面倒でありますので、ケンウッドに問い合わせはせずに、ここは謎のまま残しておこうと思うのであります。

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