聞こえますか


4月12日加筆:以下の項、思った通り筆者の間違いがあった。この測定はプレーヤーの音量を28(最大は40)にして行ったが、S/N比の測定では音量を最大(40)にすべきであると思われる。以下に掲げる図は、プレーヤーの音量を37にしたときの、10kHz0dBのサイン波の再生波形のFFT結果である。しぶとく音量が最大でないのは、パソコンの都合で入力があふれてしまうためである。もっとも、音量37の時でもS/Nはおよそ90dB程度はありそうであるから、音量40ではもう少し結果が良く出ると思われる。

ノイズ測定結果改訂版1

と言うわけで筆者は誤りは誤りとして認めるのであるが、しかしここでもう一つ指摘しておきたいことがある。このプレーヤーは出力が10.5mW+10.5mW(16Ω)と最近の製品としては比較的大きく、また付属のイヤホンも感度はそれほど悪くないため、音量を最大にして使うと耳が壊れる(笑)。筆者の場合、寝る前に寝室で使うことが多いのだが、その時の音量は7、大きくてもせいぜい10程度である。そこで、音量10の時の10kHz0dBのサイン波とノイズの関係を調べてみた。パソコンの入力感度をいじって10kHzの信号を(見かけ上)0dBになるようにしたかったが、-30dB位にしかなっていない。

ノイズ測定結果改訂版2

図からわかるように、この場合のS/Nは45dB程度であろう。もちろん、この数字の解釈はヒトによって違うだろう。しかし、ホワイトノイズではない、ある特定の周波数のノイズがこの大きさで出てくるのは、音楽プレーヤーとしてはあまりに寂しい話だと、個人的には思う。


サイバースペースを徘徊していると、妙な日記サイトやブログにぶち当たることが増えた。つまり、なにやら流行の製品の名前が挙げられているだけで、内容がほとんど無いか、あるいは全く無いのに、その製品の販売サイトへのリンクはしっかりと貼ってあるような、そんなサイトのことである。もちろん「アフィリエイトでおこづかい稼ぎ」なサイトである。おこづかい稼ぎ自体に文句を言う筋合いは全くないが、筆者の頭の中にはそれしかないのだろうか。自分や、自分自身の言葉や、自分のうたや、そういうものは持っていないのだろうか。

おこづかい稼ぎしか興味のないヒトというのは、しかし、メーカーや販売店にとっては大変に都合の良いヒトであろう。その点、当サイトの筆者は大変に不都合な人物である(笑)。今回血祭りにあげられるのはケンウッドの音楽プレーヤー M1GA3 であるが、先に一つ断っておくと、実はこの製品自体はデジタル音楽プレーヤーとしては標準的な出来であるらしい。また、ケンウッドのサポートセンターの担当者には、今回たいへん親切にしていただいており、会社としてのケンウッドについても、筆者は悪い印象を持っていない。なので、表面的に血祭りにあげたいのは同社音質マイスターの不用意な発言と、それを許してしまった広報担当者である。本当の意図が別のところにあるのは、言うまでもない。

さて。
問題の発言は、ケンウッド音質マイスター荻原光男氏へのインタビュー記事の、荻原氏のこの発言である。

――2月には初めての圧縮オーディオ製品「M512A3」を発売しています
「あれはうまく製品化できたと思っていまして、新製品を開発する前には“あれよりいい音の製品を作るのは難しいのでは”と思うほどでした。ですが、開発を進めるうちに、ある時期から“超えてるんじゃないか?”と感じ始めたのです。そう感じさせた理由は2つあって、ひとつは大容量の電源を搭載したこと、もうひとつはデジタルアンプの搭載です」

少し補足が必要であろう。このインタビューはケンウッドのHDDプレーヤー HD20GA7 についての質問が主であり、「新製品」とあるのはそれのことである。M512A3はケンウッドフラッシュメモリープレーヤーで、今回のネタの M1GA3 とは、表面上はメモリ容量のみが異なる製品である(M512A3 が 512MB、M1GA3 が 1GB)。ちなみに HD20GA7 は、たいがいのレビューで「音質がよい」とされている機種である。なので、この記事を読んだ筆者の頭の中には「HD20GA7は音質がよい→M512A3もかなり健闘していた→M1GA3もたぶん…」という回路が形成されてしまった。「M512A3はクリエイティブ社からのOEMで、ケンウッドはイヤホンを選んだのと検品をしているだけ」というネガティブな情報もあったが、まともな製品であるならば、そういうことはどうでも良いと思う。

ちょうど後継機種が発売されて値段が下がったので、石丸電気で M1GA3 を購入した。しばらく使っていて気が付いたのだが、曲間に小さなノイズが聞こえている。いや、実は曲間だけではなく、再生中は曲が切り替わる一瞬を除いて、ずっとノイズが発生しているようである。ノイズのレベルが小さいので、にぎやかな曲になると聞こえないだけのようである。バックライトが点灯していても消えていても関係なく聞こえており、再生ボリュームを下げるとノイズの音量も下がる。とすると、マイコンかデコーダーから出たノイズが、アンプの前段に紛れ込んでいるのだろうか。

ノイズ測定結果1

そこでパソコンを使って測ってみた結果が上の図である。本当は無音の MP3 ファイルを作って再生したかったのだが、やり方がわからなかったので 10kHz -90dB のサイン波の WAV ファイルを作り、LAME3.96.1 で 320kbps CBR の MP3 にした。緑の線がリアルタイムの測定値、赤線がピーク値であるが、そんなわけで 10kHz のピークは嘘である。が、2.7kHz のピークは本物で、これが問題のノイズらしい。良く見ると2倍(5.4kHz)、3倍(8.1kHz)のあたりにピークが見えるが、これが本物なのか、それとも測定系の問題なのかはよくわからない。

ノイズ測定結果2

ノイズがあるのは良いとして、問題はノイズの音量である。それを測ってみたのが上の図で、10KHz 0dB のサイン波を再生したときに M1GA3 から出てきた音の FFT 結果である。10kHz のところがほぼ 0dB になっているのは良いとして、その2倍の 20kHz のところにピークがある。MP3 ファイル自体にこのピークが無いことは、MP3 を LAME で WAV に戻して WaveSpectra で確認済みである。なので、これもまた測定系の問題かもしれないし、まぁ、もちろん、M1GA3 での再生波形が歪んでいるだけかもしれない。とりあえずこれについては目をつぶることにして、問題の 2.7kHz のノイズは -80dB ぐらいであった。CD のダイナミックレンジが 90dB 以上あるのだから、デジタルプレーヤーの S/N もそれ以上なければならないような気がしていたのだが、そうではないのだろうか。

ケンウッドに問い合わせたところ、そのノイズは確かに製品に存在するが、通常は気が付かないレベルであるとのことであった。そして、サービスセンターに送っていただければ検査するし、その時点で故障と判断すれば交換する、との申し出をいただいた。ここまで来たら、送らなければならない。結果は「性能を満たしており、正常に動作している」ということであった。

ここから先は理念の問題なのであろう。先にも書いたが、CD のダイナミックレンジは 90dB 以上あるのだから、それを再生する機械は 90dB 以上の S/N を持っていないとまずいのではないかと、筆者は考えている。ポータブルプレーヤーは CD プレーヤーではないが、CD をリッピングするのだから、同じくらいの性能は持っていて欲しいとも思う。しかし、世間一般でポータブルプレーヤーはだいたいうるさい場所で使用されるし、中に入る曲は JPOP かロックかジャズかフュージョンか、とにかく景気のいい曲が多いだろうとは思う。なので、カセット時代に S/N が 50dB ぐらいしかなかったのにみんな満足していたんだから、80dB もあれば十分だろうという主張もわからないではない。なので、冒頭の荻原氏の発言についても、「ポータブルプレーヤーとしては」という限定詞がついているのであれば、全くその通りなのだろうと思う。それが付いていなかったことが、筆者の勘違いにつながったのであろう。

註:もちろん、筆者のパソコンがヘボで、測定が不正確である可能性もある。

ノイズ以外の点で M1GA3 を評価した場合、確かにそれほど悪い音がするわけでもない。他のプレーヤーと比較して優れているかどうかはよくわからないが、1GB の USB メモリが(制限付きだが)MP3 を再生出来ると考えれば、筆者が購入した価格分の価値はあるだろうと思う。

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