夏休み探検隊

―魔宮の伝説―

まえがき

靴 (ナイキ製アウトドアシューズ) O・ヘンリーの短編に, 若い男女がニューヨークの高級ホテルに避暑に行くという話がある.
これは考えてみると, なかなか魅力的なプランである. 夏の大都会は普段よりはずっと空いているし, 空調完備のホテル内に引きこもっている限りは, 十分涼しいはずである.
しかし, ここで一つ問題がある. 筆者は高級ホテルには泊まったことが無いから, 中がどうなっているのかさっぱりわからない. 一体全体, ああいうところはスニーカーで行っても良いものなんだろうか (笑).
興味はあるけれども気後れもある. それは筆者だけではないということがわかったので, 今回探検隊を組織して調査することにした. このサイト的には「サーキットに行こう」シリーズと似たところがあるような気もするが, こちらはそれほど高尚な志があるわけでもない. 実態は, 会社が契約している保養施設運営会社のプランで, 某高級ホテルに激安価格で泊まれることに気づいただけである. 東京都のホテル税の対象にならない金額で, といえば, どのくらいお得な話かお分かりいただけると思う.
装備 今回の探検隊は隊長と隊員1名の, きわめて少人数の構成である. 装備は色々と考えたのだが, 背伸びしても始まらないので, きわめて探検隊的な装備とした. 本当にこんなのでよいのかどうかは良くわからないが, これで追い返されるようだったら最初から縁が無いということなので, まぁ良かろう.

第一日目 (8/16)

14:00
江戸川橋駅から, 歩いて目的地を目指す. 今回の目的地は住宅街の中の坂道を登っていった先にある. 夏の日差しが照りつける中, 大汗をかきながら黙々と目的地を目指す.
門柱 14:10
ゲートを発見. この先は, 我が探検隊にとって未知の領域となる. 果たして無事に潜入し, 生還することができるのであろうか. 身が引き締まる思いでゲートをくぐる.
すぐ先に入り口を発見. しかし, 自動扉が開くよりも先に, 四角い帽子をかぶった男性に声をかけられる. どうやら警備の兵士らしい. 重装備の探検隊の場合, 通常ここで装備を奪われるそうだが, 我が探検隊はそれを見越して軽装であったため, そのようなことはなかった. しかし, 相手もそれであきらめるわけではない. 我々は兵士によって扉の内側の広間に誘導され, 名前を訊ねられた上で, その場にて待つように言い渡された. 終始友好的な態度であったことは, 言うまでも無いであろう.
14:15
女性が 2人現れたが, これがどうやら案内係らしい. 1人は間違い無く正規の案内係のようである. もう 1人は何も話さないし案内中も妙な位置を歩いているあたり, 見習い中であろうか. ともかく, 12階の登録所に案内される. 通常の登録所は 3階の広間にあるのだが, 今回のプランは特別であるらしい.
昇降機の中で, 「駅から歩いていらしたのですか」と訊ねられる. 一瞬身構えたが, 「昨日は涼しかったのに, 今日はとても暑いですね」と続いたので, 単なる世間話と判明する. 筆者はやや神経過敏になっているようである.
14:20
12階の登録所で, 住所と名前を登録する. 応対しているのは先ほどとは違う女性で, 女官のようであるが, もしかしたら巫女かもしれない. 我が探検隊は本来 City Vew なる側に収容される予定であったが, 今回は Garden View なる側に「アップグレード」されたと通告される. また, 宮殿内の食堂で夕食をとるのであれば, 予約するから早めに言ってくれと言われる. 皆, 驚くほど親切である.
客室 14:25
案内された部屋は公称 46平米 (約 28 畳) ということだが, とにかく我が探検隊がこれまで見たことも無いほど大きな部屋であった. 通常, ベッドの足元側は壁が迫ってきていてぎりぎり通り抜けられる程度であるが, ここは机をもう一つおけるほどである. きちんと測定したわけではないが, バス・トイレ・通路を除いた部分で, 18畳ぐらいはある.
バス部分の壁は石膏ボードかベニヤ板の「一見壁風」のようであるが, 客室間の壁はきっちりコンクリートの, 本物の壁のようであった.
お菓子籠 14:40
かごの中におかしが入っているのを発見. しかし, これはもちろんである. かごの中に一緒に入っていた書付に, 以下のような記述があった.
   品名     単価   品名        単価
   ------------- ----   ---------------- -----
      フリスク    320      トランプ      1,270
      ポッキー    530      ポケットカメラ   1,700
      キットカット  320      コルクスクリュー   740
トランプや写るんですはともかく, コルクスクリューまで売り物だとは知らなかった. 惜しいことをした. というのは, この間ウチで使っていた木屋のコルクスクリューが壊れてしまい, 今はスイスアーミーを使っているのである. 売り物だと知っていたら, 買っていたかも知れない.
午後の紅茶セット 16:00
部屋の調査がほぼ終了したので, 午後の紅茶を楽しむことにした. これもプランに含まれているのであり, つまり恐ろしいほどお得なプランといえよう.
もう1人の隊員は昼寝してしまったので, 午後の紅茶は筆者1人で楽しむことになった. 1人でも2人でも供される菓子は左の写真のもの1つと思われるが, 2人でも十分な量であろう. もしかしたら, おかわりも可能かもしれない. また, 筆者の後から1人で来た人物は「真ん中の, お菓子のところだけくれ」と言っており, そういう頼みかたもあるのかと, 少し感心した.
庭全景 (客室より) 16:30
食後の腹ごなしに, 庭を散歩する. 公称 2万坪の敷地には木が生い茂り, 蝉の声が満ち溢れていた. あまりにも言い古された表現ではあるが, ここが東京だとはとても信じられない.
宮殿内に戻ってなおも探索を続けていると, 食堂前で他の複数の探検隊に遭遇した. どういうわけか, どの探検隊も食堂前に置かれている文書の調査を行っていた. もちろん我が探検隊の目的の一つにも, その文書の調査は含まれているのである. 調査の結果, 宮殿内の食堂 4箇所のうち, 3箇所では夕食には 1人あたり 5桁円の費用が必要なことが判明した. 残り 1箇所も, 2人で 5桁円の費用が必要であった. 今回のお得プランには残念ながら夕食は含まれていない. そのため, 夕食は一時宮殿から脱走してとることに決した (笑).
19:00
寝ていた隊員を起こし, 宮殿を抜け出して音羽通りのロイヤルホストにて夕食.
風呂桶と水浴び部屋 21:00
部屋に戻ってみると, ベッドの上に放り出してあった荷物は荷物置きの上に片付けられ, ベッドカバーが畳まれて袋に収められていた. どうやら, いない間に女中が入ったらしい. 確かに, 接客案内には「メイドは 1日 2回」と書かれていたが, まさかこのタイミングで来るとは思っていなかった. もちろん, 他のどんなタイミングで来るとも思っていたわけではない.
気を取り直して入浴する. 風呂桶は特に変わったところは無いように見えたが, よく見るとガラス張りのシャワーブースが横にあり, 風呂桶側にはシャワーカーテンはついていなかった. 洋式に風呂桶の中で石鹸を使ったとして, 石鹸を流すのは風呂桶の中で座って行うのであろうか. あるいは, 石鹸をつけたままシャワーブースに移動するのであろうか. この点については, ぜひ識者のご意見を賜りたい.
風呂桶にお湯をためようとして水栓をひねると, 恐るべき勢いでお湯がほとばしった. 驚いてよく見ると, 5センチぐらいあるような, ぶっとい蛇口が付いていた.
22:00
就寝. 掛け布団は羽毛のようだが, 寝返りを打つ度に袋がばさばさいってうるさい.

第二日目 (8/17)

洗面台 07:00
起床. 新聞は木綿の袋に入れられて, ドアノブに掛けられていた.
洗面台にはソニーのテレビが設置されているが, これは良いことなのか悪いことなのか, ちょっと判断に迷うところである. リゾートホテルであれば, 電話とテレビは無い方が良い場合の方が多いだろう. しかし, ここは一応シティホテルであるから, 情報収集用にテレビは必要なのかもしれない. そういえば, ベッドの足元のキャビネットにもっとずっと大きいテレビが収められていたが, そちらではペイパービューで映画も見られるようであった. このテレビではそれは無いようである.
大陸風朝食 07:30
大陸風朝食なる食事をとる. もちろんプランの内である.
プランにこだわらなければ, これ以外に宮殿内の食堂で朝食をとることもできるし, ルームサービスも可能であるという. ルームサービスにしても内容と値段はあまり違わないような気がするので, そちらを試してみるのも良いかもしれない.
08:30
ふたたび腹ごなしの散歩をする. 売店を発見し, 調査. クッキーやチョコレートの詰め合わせを発見するが, いずれも手を出しにくい価格である (笑). 部屋のバスルームにあった, ずいぶんと分厚いバスローブも売られていたが, これも 5桁の値札がついていて, 調査資料としてサンプルするのは難しい.
10:40
時間の制約から, ここで調査を打ち切ることになった. 今回のプランには夜のカクテルのサービスが含まれていたが, この調査は次回に持ち越しである. また, 宮殿内にはプールと温泉 (のお湯を使った風呂) があるらしいが, これらの調査も次回に持ち越しである.
12階の登録所で出発手続きをする. 女官に「ごゆっくりおくつろぎいただけましたでしょうか」と訊ねられたので, もちろんと答えた. というのも, 世間の波風を, つまり仕事のことやイラクのこと, オリンピックのことや崩壊しつつある (してしまった?) 年金制度のこと, そういったことを一切忘れて調査に没頭できたからである. じつのところ, 滞在中はろくにテレビも見ていない. 不適切な言い方かもしれないが, 引きこもるには最高の場所だと思う.
11:00
警備の兵士に見送られて, 宮殿を後にした.

あとがき

ホテル全景 2, 3日たって, Oz マガジンのシティホテル特集でこのホテルの記事を読んだ. 内容的に今回の調査記録とかなり重複したところがある上に, 写真の品質はあちらの方がずっと上で (涙), しかもそれが見開き2ページに要領よくまとめられている. 本記録には, しかし, 雑誌記事には無い視点を一つ, 入れてあるつもりである. マフラーや車高調の記述しかないクルマ雑誌に意味が無いのと同様に, 設備やメシの記述しかないホテル記事にも意味は無いんじゃないかと, 思う.

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