クルマに乗らない休日

何年に一度か,クルマに乗るのがいやになることがある.

そういう時は,クルマに乗ることだけではなく,物を買うこともいやになっていることが多い.だから出かける目的も無く,そもそも出かけるつもりも最初から無い.テレビぐらいは見てもいいのだけれど,普段から面白いとは思えないテレビを見ても仕方ない.

そこで,庭の草取りをする.と,庭の隅にあるローズマリーがずいぶんと育っていた.これはハーブの一種で,豚肉のローストやジャガイモのいためにいれると美味い.しかし家族の人数に対して,これはちょっと育ちすぎのようだ.

庭のローズマリー.スコップのサイズと比較してほしい.

もちろん刈り込めばよいのだが,刈った枝を捨ててしまうのはもったいない.なんとかして,においだけでも取り出して保存できないだろうか.

おしゃれな雑貨屋に行くと,ローズマリーやその他のハーブの「エッセンシャルオイル」なるものを売っている.これは,ハーブの香りの素を蒸留装置(正確には蒸気抽出装置)で取り出したもので,大量のハーブからほんのちょっぴりしか取れないらしい.しかし,そのとき副産物として,エッセンスが溶け込んでいる水(ハーブウォーター)が取れるという.

高級な蒸留装置はガラス製で,写真で見る限り完全に化学実験室の世界である.高級でない蒸留装置は陶器製の物が多いようだ.高級なものはエッセンシャルオイルまで取れるが,そうでないものはハーブウォーターしか取れないという.オイルの方が水より沸点が低いらしい.値段を見ると,高級な方は 10万円以上,そうでないものも 1万円以上と,「ちょっと試しに買ってみる」というわけにはいかない.しかし,安いほうの装置を眺めていてひらめくものがあった.

蒸留装置の概略図

蒸留装置の構造をよく見ると,高いのも安いのも動作は一緒である.

  1. お湯を沸かして水蒸気を作る.
  2. ハーブ(この場合はローズマリー)に水蒸気を通す.
  3. ハーブを通過した水蒸気を冷やして,水(とエッセンシャルオイル)に戻す.

安い装置の場合はこの3つが縦に行われるようになっている.まず,一番下でお湯を沸かし,蒸気を中段にあるハーブに通す.一番上には冷たい水(または氷)を入れた器があって,ここに蒸気が触れると水滴になり,下(ハーブの上)にある,回収用の器に落ちる.この構造だと回収用の器の温度が高くなってしまうので,エッセンスの回収率はそれほど良くないだろう.しかし,単純な構造なので簡単に作れそうだ.

そこで,蒸留装置の材料を調達しに行く.行き先は台所だ.

蒸留装置の材料.右上から時計回りに寸胴なべ,ざる,ボール,万能蒸し器,中華なべ.寸胴なべと中華なべは普通の家庭には無いかもしれないが,あってもそれほど不思議ではないだろう.
ローズマリーを採集する.
寸胴なべに水(ぬるま湯の方が良いかも)を入れ,万能蒸し器を置き,その上からローズマリーを入れる.中に銀色に見えているのは上下逆においたざるで,この上に回収用の器としてボールをおく.
中華なべに水(または氷)をいれて,寸胴なべのふたにし,ガスにかけて蒸留開始,中華なべの中身は常に冷えた状態に保っておくこと.筆者は水+保冷材を使用したが,氷のほうが使いやすいかもしれない.
註:回収用の器として,実際にはボールではなくスープ皿を使用した.これは,ボールの背が高くて中華なべにあたりそうだったため.

蒸気を冷やす部分に中華なべを使うところがミソだが,これは筆者のオリジナルではない.記憶が定かではないが,確かにどこかでこれに似た装置を見た記憶がある.ともあれ,3時間ぐらい蒸留して,250ml ぐらいのハーブウォーターがとれた.

250ml ぐらいとれた

無色透明なので,この写真では「単なるミネラルウォーターじゃないのか?」と言われそうだが,ちゃんとローズマリーの香りがついている.疑念をお持ちの方は追試してほしい.半日ぐらいの暇つぶしには悪くない作業だし,寸胴なべや中華なべが無い家庭では,頭の体操にもなるだろう.ちなみにこれをやっても投入したローズマリーのかさは減らないので,刈り込んだローズマリーの捨て場に困っている人にとっては,あまり助けにはならないかもしれない(笑)

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