ふたたびスピーカーの話

誰も誉めてない製品を誉めるのは, かなり勇気がいる.

今回取り上げるのはソニーの SS-86E というスピーカー. 今はオープン価格になってしまっているのだけれど, 以前のカタログ価格は 3万 3千円 (ペアで). 同じようなサイズ/構成のタンノイの Mercury mX2 がペアでカタログ価格 3万 8千円. ボーズの 120 はフルレンジ 1発だけどたぶん箱にお金がかかっていて (と思いたい), カタログ価格は 39,800円.
つまり, このソニーのスピーカーは初心者/入門者用の量産モデル. 同じサイズ/構成でこれより安いスピーカーを探すのは結構大変という, 言ってみれば「底辺スピーカー」.

昔, 友人がソニーの CD プレーヤー, ソニーのアンプ, ソニーのスピーカーと, ソニーづくしのシステムを持っていた. CD プレーヤーとアンプは 333 だか 555 だかというような名前だったハズ (スピーカーは忘れた). これの音はカチカチ, バキバキといった感じで, 正確かも知れないけれどもあまり楽しくは感じなかった. 方形波が来たら何が何でも方形波のまま出してやるぞ, という決意が見える感じ. この頃のソニーは超高級機からラジカセまで全部そんな感じだったから, もうちょっと柔らかい音のするアイワの方が好きだった. グループ会社なんだけど.

そのイメージがあったから, スピーカーを買おうと思った時もソニーは考えていなかった. オーディオ雑誌を見てもソニーのスピーカーの話なんかほとんど無いし, Web で検索してもほとんどヒットしないから, 店先で最初にモノを見た時「あー, ソニーって, まだスピーカー作ってたんだ」 と思ったくらい (笑).
Web の場合, タンノイとか B&W とか, JBL とか LINN とかは 良く当たるんですけどね. オンキヨーとデンオンは賛否半々ぐらい. ボーズはどういう訳か悪評の方が多いけれど, 良く見ると根拠はかなり薄弱. 有名メーカーをケナすと恰好良いのかね.

で, 最初はヤマハか B&W (LM1) かタンノイか, 内外価格差には目をつぶって涙を飲んで BOSE (301) か, 涙を嚥まなくても良い国内専用モデル BOSE 120 あたりにしようと思っていました. あんまり脈絡はありません (笑).

近所のケーズデンキに行ってみるとタンノイは無く, ヤマハの NS-1000MM と INFINITY のちっちゃいのはアンプに繋がってない. ボーズの 120 は, ふーん, なるほど. 音の広がりがいいなぁ. 101 は 120 よりだいぶ普通のスピーカー (意味不明).
お, 301がある... おおっ, これはスゴい (笑). こんなに音が広がっていいのか? 周りに壁があったら反響しまくって大変だろうなぁ.
オンキヨーの D-66RX. 歯切れはいいけど聞いてて疲れそう. ハイファイってこういうモノなんですか? まぁ完全に予算外なんで, どうでもいいんですが.
ヤマハ NS-90. ちょっと軽い音. 特徴あまり無し.
B&W LM1. 薄っぺらい感じの音. 好きになれそうにない.

SONY の SS-86E は BOSE 120 よりも音の広がり感は無いけど高音は伸びる. D-66RX のような締まった音は絶対的に出ないけれど, 音の解像度自体は悪くない. LM1 よりは音に厚みがある. 密閉型なので低音は出にくい筈なんだけど, NS-90 程度には出ているようだ. そして売り値がペアで 2万円. 2万円でこの音なら安いだろう.
得した気分でお買い上げ〜.

[INLINE]SONY SS-86E

家に持って帰って AV アンプと IBM のノートパソコン用 CD-ROM を継いで, 「さよなら銀河鉄道 999」のサントラを聴いていたら, 8曲目の「大宇宙の涯へ 〜光と影の帯オブジェ〜」でのけぞってしまった. これはシンセサイザー曲で, 元々音の聞こえてくる方向を左右に大きく振っているのだけれども, このスピーカーだと下手をすると音が後ろから聞こえてくることがある. 自分だけかと思って妻にも聴かせてみたが, 最初「ふーん, 音がきれいね」と冷静だった妻も最後にはのけぞって絶句してしまった (笑).

普段クルマで聴いているビートルズのベスト版も, これで聴くとボーカルや楽器の音の位置が曲によって違うことがわかる. クルマで聴くと全部まんなかから聴こえるのに... もうカーオーディオには戻れません. 困ったモンだ.

色々聴いてみると, CD によってはスピーカーの向きを変えないとどうしようもなくなる場合があることに気づかされる. シンセサイザー曲はスピーカーをまっすぐ前に向けて音の広がりを強調しないとツマラナイ音場になるし, ボーカル曲 (ユーミンとか) は耳に正対するように少し内側に振らないとボーカルがぼやけてしまってニッチモサッチモ... しかし, 前出のビートルズのようにボーカルが中央に来ない場合には, 振らない方が良いようだ. 指向性が強すぎるのだろうか?
音色について語れちゃうほど自分の耳に自信はないけれど, やっぱり「小口径コーンスピーカーの音」ではあるようだ. が, これはこれで十分きれいだと思う. 少なくとも私は好きだ.

オーディオマニアな人達 −最近ではオーディオファイル (audiophile) と言うらしいが− に言わせると, オーディオ機器の中で一番完成度の低いのはスピーカーで, アンプは高いのでも安いのでもそう大きくは違わないけれど, スピーカーの高いのと安いのは大違いだそうだ. けれど良く考えてみると, 普通のヒトが安 CD プレーヤー, 安アンプ, 安スピーカー買って部屋にぽんと置いたら, オーディオ的に見て一番完成度の低いのが置き方, 次が部屋そのもので, スピーカーは 3番目だと思う (笑). だから, 初心者向け雑誌ではまず機器の置き方, 次が部屋の壁や天井をどうするかの話があって, 最後にどの機種を買うかという話だと思うのだけれど, それではもちろん雑誌にならない (というか, 広告が取れない) らしく, 実態はメーカー大本営発表のコピーと企画広告, それに根拠がはっきりしないランキング (ベストバイとか).

何となく, クルマ雑誌と似ているような気がしたので, 「クルマを持っているならまず走れ. アフターパーツを考えるのはその後」というポリシーの本ページとしては, 歪んだ高級品指向に一矢報いるべく (笑), 誰も誉めない安スピーカー, 言ってみれば

背伸びしない, 等身大のスピーカー

の記事を掲載することにしたので, あった.

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