そして疾きこと風の如く

世間には, 真実しか話さない人がいる.

話していることは真実なんだから, 聞く方としてはご説ごもっともと謹聴するしか無いのではあるけれども, それが「お前のやってることはオカシイ」というありがたーいご指摘の場合, 一体どれくらいの人が謹聴し続けられるだろうか.

そういうありがたーいご指摘を下さる方が, 知り合いに一人いる. いや, 本当はもっとおられるのだけれども, このお方の場合それをあまりにもストレート生一本におっしゃるので, お名前とお顔と謹聴しながらも感じる反発とが, 他の誰よりも鮮明に思い出されるのである. どういう訳かご指摘の中身の方はすっかり忘れてしまうのだけれども.

しかしすっかり忘れてしまう中でもかろうじて思い出せるご指摘に, 「スポーツ走行するんだったらいい加減もうちょっと力のあるクルマに乗んなさいよ」 というのがある. 表現はなかなか洒脱なところがあって,

アムロはまぁまぁなんだけど, ガンダムの方がアムロの反応速度について行けてないよねぇ

というおとなしいものから

ワタシが鼻くそほじくりながらオートマのパルサーで走ってトゥデイより 速いんですからね. その程度のレベルでモータースポーツなんて言えるんですかね.

とか

やっぱり遅いクルマに乗っていると言い訳ができて便利ですね

というような「ナニヲコノヤロー」レベルまで色々あるのだけれども, ともかく半分くらいアタっているところはある. スキーといっても山を駆け降りるやつ飛び降りるやつ, ボコボコの斜面を下るやつから平らなところ (とは限らないが) を走るやつまで色々あるのだから, モータースポーツといっても色々あっていいじゃないか, ヘロヘロ足の軽自動車でラインの研究をしててもいいじゃないかと思うのだけれども, タイムが出ていないという一点においては全くもっておっしゃる通りご高説ごもっともなのであるから, その部分は認めるしかない. そもそも成田で 50秒を切るという目標があって走っているのに, 達成できていないのだからますますうなだれるしかない.

そうしてしばらくありがたーいご指摘を謹聴していたのだけれども, ある日一念発起して,
よしそれならば言い訳抜きで自分との勝負をしてやろう
今まで 50秒を切れなかったのはガンダムじゃなくてアムロの方が悪いのであって, ガンダムはガンダムできっちり 50秒切れる能力はあると思うのだから, そいつを証明してやろう,
オートマのパルサーで鼻くそほじるのはいいけれど, それだったら 「オートマだし鼻くそほじっていたから」と言い訳していただこうと, 今まで溜まった鬱憤や憤懣を一切合切叩き返す決意を固めたのであった.
トゥデイで 50秒を切ったところで鬱憤なり憤懣を叩き返せるかどうか, 叩き返せるとしてもなぜそうなのか, そういうことはもう一つ良くわからないけれども, ともかく言い訳は抜きなのである.

さて.
今までの成田での記録が 50秒 59 (左回り) だから, 50秒まではあと 0.6秒もある. いくらなんでも 50秒 59 の時と全く同じ仕様で 0.6秒は... と, いきなり挫折しそうになったところ, 竹下さんから Enkei の Competition-S, 去年の 11月に純正足で 51秒37 を出した時に履いていた Competition-S, 13インチでリム幅 5インチもある (純正は 4インチ) のに純正ホイールよりも 1本 1.5キロも軽いアルミホイールの Competition-S をご提供頂いた. これに今まで履いていたネオバを入れてみるとさすがに軽く, 回転モーメントが減った分加速のパンチが効く. 成田は加速力勝負なところがあるから, これで一歩前進であろうか.

更に今回はガソリンをタンク半分強入っている程度にし, リアシートの背もたれ部分を外して降ろした. これをやるとリアの落ちつきがなくなるのであまり好きではないのだけれども, 言い訳抜きだから仕方ない. 座面の方は大して重くないし, 外すと後でシートベルトを通すのが面倒だから, 走ってみてダメだったら昼休みにでも外すことにしよう. タイヤ空気圧は 2.2kg/cm^2.

[コース図]いつものコース図

今回はとにかく言い訳抜きなのであるからして, 50秒を切るのが先かどこかで壁に刺さってクルマが終わるのが先か, きっちり覚悟を決めてやって来たので, 一走目の一コーナーはブレーキ無しで突っ込んでみることにする.

一応それでも 100パーセントの力で突っ込んで曲がり切れず一コーナー先の崖下に転落というパターンは避けたいので, それでも 80パーセントくらいにセーブして突っ込んで行ったのだけれども, 曲がりはじめて 0.5秒後にやっぱりダメだこりゃということに気付き, そこからブレーキを踏んだらいつもより 15キロくらい軽いリアがすぱーんと流れはじめ, 危うくステアリングで立て直す. やっぱりここはブレーキ踏むことにしよう.
アルミホイールのせいかロールがいつもより大きいせいか, アクセルを踏むと景気良くタイヤが空転して前に進まない. ちょっとタックインかけるとリアが外へ飛びたがり, 苦労はするけれどこれはこれで楽しい. まぁ小手調べだし, ちょっと楽しんで走るかな.

三周回ってゴール. タイムを見ると二周目に 50秒 02? なにこれどうしちゃったのあと 0.02秒じゃない?

一走目の結果が思いの他良かったので, 二走目は更に気合いを入れ, 目を三角にしてコースイン. が, 一コーナーでブレーキを掛けて進入するとずるずると外に流れていってどアンダー. その後も感じがあまり良くなくタイムも 50秒中盤. 気合いが空回りしたかとも思ったが, タイヤ空気圧を調べると, 他が 2.4kg/cm^2 なのに右前だけ 2.6kg/cm^2 ぐらいまで上がっている. ここは左回りだから FF の場合はこういうことは良く起こるのだけれど, 一走目はこれよりずっと空気圧が低かった筈だから, つまりは空気圧が上がったことでグリップが低下したのだろうと想像をつけ, 他のタイヤに合わせるように空気を抜く.

三走目. 一コーナーのどアンダーはおさまったけれど, 今度は車体が上下に揺れる. 今の足でも小さい入力に対してはちゃんとダンパーが効くのだけれど, 大きな入力が入るとぼよーんぼよーんと上下動して止まらないことがある. 今揺れているのはブレーキで前が大きく沈んで, それの揺れ返しがダンパーで吸収できていないのだろうか? ともあれクルマが転倒する気配は無いから, 今は気にしないことにする.

二周目.

一コーナー A 14R は減速しながら進入. いつになくフロントが上下動する. B 13R は例によって目一杯奥で向きをかえる. 8R の意識はあまり無く 13R の出口で外に飛び出さないように, かつ, ロールを減らしてなるべく早くアクセルを踏めるようにコントロール. C 10R は何も考えずに全開で抜けるが, 7R 手前のブレーキングではまだヨーが残っているのでリアが外に流れ, しかもクルマ全体が思ったより奥 (外) に行ってしまった. D 12R はアウト イン アウトで外に抜け, E から F で R (曲率半径) を大きくとって十分加速できるように. F 8R 前のブレーキをなるべく掛けないようにしてタイムを稼ぐ. G 15R でアクセルオフするとリアが盛大に流れ, アクセルオンしてフロントも前に流す. ドライでこんな動きをすることは今まで無かった. 7R で向きをかえ, 12R 8R から最終コーナー 15R に向けて全開.

コントロールラインを駆け抜け, 三周目の C 10R の手前で右側にある電光計時板を見る.
49秒 96. やった. 自分を追い越した. 全てを叩き返した.

もう, いつ降りてもいい.

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