はじめに
家庭用テレビゲーム機の登場以来、子どもの遊び集団は屋内で形成される小人数のものに変容していく傾向をますます強めてきた。これは、子どもにとって物理空間が意味のある空間として認識される代わりに、ゲーム内空間が意味のある空間として認識されつつあることを意味する。
このため、子どもの認識する「現実」は科学的に実在する物理空間内で起きていることばかりではなく、ゲーム空間内で体験したこともまた、等価の「現実」として認識されるようになる。このような環境下では、かつてのような異年齢の遊び集団はますますできにくくなるという悪循環が起きることになる。
ところが最近、かぎられた条件下ではあるが、異年齢の遊び集団が復活した例がある。それは、テレビゲームのダンスダンスレボリューションに関する情報をインターネット上で相互にやり取りする掲示板「DDR○○組」である。
ダンスダンスレボリューションの特徴
従来のテレビゲームは、「ゲーム空間内でしていること」と「物理空間内でしていること」に大きく隔たりがあるのが一般的であった。プレーヤーがしていると認識している行為が異性とのデートであったり、野球やサッカーであったとしても、現実にしている行為は、せいぜい指先の運動である。ところが、コナミのダンスダンスレボリューション(DDR)は、画面の指示にしたがってプレーヤーがダンスをするゲームであるが、プレーヤーがしていると認識していることと実際にしていることとが一致する、まれなゲームである。これは従来のゲームにはない、まさに革命的なできごとである。DDRの登場以来、ゲームセンターで踊る人が急増し、お互いの技を披露しあうということが盛んに行なわれるようになってきた。
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DDRを核とした集団の創造
ゲームセンターが新しいコミュニケーションの場として機能するように変貌しつつある背景には、インターネット上の掲示板の存在がある。元々インターネットのWWW上には数多くの掲示板があるが、DDR登場以来、DDRに関する全国各地域ごとの掲示板(例えば「DDR岡山組」のように地方名が入る場合が多い)が続々と作られ、現在その数は100〜200程度にのぼる。
これらの多くの地方DDR掲示板の特徴は、頻繁にネットワークの外でのコミュニケーション(OFF会)の場を設けていることである。自主的に開かれるDDRの競技大会をはじめ、「新しい技を見てもらいたいので」とか「教えてもらいたいので」とか「新しく参加したいので」という掲示板上の書き込みに応じて、近くのゲームセンターでの待ち合わせの約束が気軽に行なわれる。
このようにネットワークコミュニティの参加者が、ネットワーク外でも頻繁に交流をするようになったのは、DDRというゲームが、他人に見てもらうことで完結するという特徴をもっていることが大きく影響している。
新しい異年齢集団と居場所の創造
以上のようにして、OFF会とインターネット上の地方掲示板上で形成された集団が、体を使ったパフォーマンスを披露しあう姿には、かつての遊び集団と同様の性質がある。またOFF会や掲示板が、新しい居場所として機能している。一方では展開の仕方によっては深刻な事態に発展しかねない問題もはらんでいる。現段階では、地方DDR掲示板に参加している中高生は約1割程度と少ないが、今後のネットワークの整備に伴い、この数は確実に増加すると考えられる。
本研究は、OFF会と掲示板で形成された新しい異年齢集団の特徴と可能性をさぐり、OFF会と掲示板が新しい居場所を創造しうるか検討することを目的とする。
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