英国海兵隊(Royal Marines)
もしくは、「赤い服着た兵隊さん」


国王陛下の軍艦サプライズ号の甲板でひときわ目立つ赤い軍服の兵士は水兵ではなく、英国海兵隊員である。海兵隊員は上陸時は歩兵として戦い、海上の戦闘では砲手として艦砲を操作し、あるいは狙撃兵として活躍した。

海兵隊員は砲1門につき1名の割合で各艦に配属された。28門艦のサプライズ号の場合は28名となる。これに下級士官(中尉か少尉)1名、下士官(軍曹、伍長)おそらく2名ずつがついた(本来、中尉が配属されるはずのサプライズ号にハワード大尉が乗艦している理由は、筆者には不明である)。

海兵隊員の別名は「ロブスター」である。これはその軍服の色に由来している。海兵隊の軍服が赤いのは、もともとは英国陸軍の歩兵だからである。そのため、陸軍と同様に応募兵のみによって構成された。

ちなみに、ディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』に登場した赤い軍服の兵隊さんも、実は英国海兵隊員である。袖口や襟の色が白なのは時代が違うためである。

反乱の抑止
海兵隊員には水兵の反乱を抑止する役割があり、ナポレオン戦争中は特にこの能力が注目されていた。艦上の要所は必ず海兵隊員が歩哨に立って護衛していた。このために狭い艦内にあっても水兵と海兵隊員は居住区を別にしてあった。
海上の戦闘
軍艦が戦闘配置に入るとき、乗組員にこれを知らせるのが海兵隊の少年鼓手がたたく小太鼓である。海兵隊員の配置は以下の通りである。
1.砲列甲板の各大砲。体力を買われ、主に大砲のロープを引いて押し出す係である。
2.甲板上またはマスト見張り台の狙撃兵。マスケット銃と銃剣で武装して敵艦を狙撃する。切り込みの場合、銃剣は長すぎて取り回しが難しかった。
3.各昇降口。戦闘で恐慌をきたした者が安全な喫水線下へに逃げ込むことを防いだ。
上陸作戦
上陸作戦は海兵隊の存在が最も重要になる時である。陸軍と海軍が挙動で作戦に当たる場合、必ず指揮権や作戦で陸軍と海軍のどちらが優先されるべきかが問題となる。海兵隊は海軍の指揮下にあり、海上の作戦に慣れているため、陸軍より有用であった。

また、上陸作戦以外では味方の港湾で警備に当たるなどの陸上勤務があった。海兵隊員は原則として志願者なので、反乱や逃亡の恐れが水兵に比べて格段に低かったためである。
階級(1802〜10年の階級章)
大佐:Colonel (両肩の肩章に星3つ)
中佐:Lieutenant Colonel (両肩の肩章に星2つ)
少佐:Major (両肩の肩章に星1つ)
大尉:Captain (両肩に無地の肩章)
中尉:First Lieutenant (右肩のみに無地の肩章)
少尉:Second Lieutenant (右肩のみに無地の肩章)
軍曹:Sergeant (右袖のみに3本の袖章)
伍長:Corpotal (右袖のみに2本の袖章)
兵卒:Private
軍服
海兵隊下級士官 英国海兵隊の軍服は当時の英国陸軍のものに準拠し、士官は緋色のコート、下士官は緋色のジャケット、兵卒はやや暗い赤のジャケットである。

士官の緋色のコートは袖と襟の折り返し、スタンドカラーが紺色である(黒く見えますが)。士官は礼装と平服の少なくとも2種類の軍服を持っていた。礼装はダブルの胸と袖口に紺色の折り返し襟があり、ボタンホールの周囲に金色の縁取りがなされている。金色の肩章は士官の位を示す階級章である。首のすぐ下につけられた三日月型の金色の金属製の飾りも階級章で、「ゴーゲット」と呼ばれる。腰の赤いサッシュベルトや剣を吊っていることも士官の階級を示している。コートの下には白いウェストコートとシャツを着て、下半身は身体にぴったりとフィットするブリーチ(半ズボン)とストッキングをはく。当時のファッションは逆三角形のシルエットが強調されるものであった。帽子は二角帽である。

士官の平服はダブルの胸を完全に閉じた形で着用する。袖口には金の縁取りがない。平服の場合、紺色か白の長ズボンをはいた。帽子はラウンドハットである。

士官の階級は肩章で示される。大尉は無地の肩章を両肩に付ける。中尉と少尉は無地の肩章を右肩のみに着用する。大佐〜少佐は肩章に星が3〜1個つけられる。

下士官と兵卒のジャケットはやや暗い赤の地に紺色の袖口とスタンドカラーがついている。長ズボンは冬が紺、夏が白。これに黒いゲートル(レギンス)をつける。

下士官の階級を示すのは浅いV字型の袖章である。3本が軍曹、2本は伍長である。

参考文献
Haythornwaite, Philip "Nelson's Navy," London: Osprey, 1993.
McGreror, Tom "The Making of Master and Commander," London: HarperCollinsEntertainment, 2003.
 


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