英国軍艦銘々伝



 英国海軍では比較的簡単に、沈没した軍艦の名前を再使用する。特に、英雄的な抵抗の末、撃沈された艦の名前は、より規模の大きい新鋭艦に名付けられるようである。かなり不吉な運命をたどった艦の名前でも、再利用される。
 1763年に建造されたベローナ級74門艦ラミリーズ号は1782年に火災で失われ、その年の12月に進水した準同型のカローデン級の6番艦が「ラミリーズ」の名を襲名している。また、ベローナ級テリブル号も火災で失われ、同じようにカローデン級の4番艦に引き継がれている。 
 「勇者の帰還」でホーンブロワーが「レアンダー号のトンプソンは、300人中、92名を失いました、閣下」と例に取ったリアンダー号は第2次世界大戦に参加した英国海軍の軽巡洋艦にもこの名が見られる。「沈んだ艦の名前は縁起が悪い」というのは、どうやら日本人独特の(かなり損な)感覚のようである。
 また、郵便船と軍艦での名前の共用もされた。日本で海上自衛隊と海上保安庁が同じ名前の艦船を持っていることが問題になったことがあり、それを不仲の原因としてマスコミが騒いだことがあった。海上自衛隊と海上保安庁の不仲は否定できないかも知れないが、同名艦船の存在は不仲の証拠にはならない。英国海軍と英国郵便が不仲であったという説は聞いていないからである。記録を読むと英国海軍艦と同じ名前で東インド会社船だったり、私掠船だったり、フランス海軍艦だったり(実はこれが多い)。特に、フランス海軍も英国海軍も、勇敢な抵抗の後に降伏・撃沈された敵艦に敬意を表し、その艦名を自国艦につける習慣があった。
 海洋冒険小説で艦名を記すとき「国王陛下の」にこだわるのは、こんな一面があるからなのかも知れない。

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