現代の首狩り族?



 「革命の聖公女、ラ・ギヨティーヌ」(チャールズ・ディケンズ『二途物語』より)と呼ばれていたことだけあって、ギロチンは18世紀後半に医師ギョタンによって開発され、開発者名を元に命名された機械である。フランス語の特性として、名詞は女性名詞と男性名詞に分けられるが、「ギロチン」は女性名詞である。
 ギロチンの目的は「人道的な処刑」の実現である。というのはM.フーコーの『監獄の誕生』の冒頭で長々と描写されているが、ギロチン登場前の死刑は「拷問死」以外の何ものでもなかったからである。
 フランス革命が勃発するとギョタンの娘さんは一生懸命、働き始める。来る日も来る日も仕事に精を出し、社会階級の上の方から順番に首を刎ねていった。貴族階級の次は商人などの有産階級と知識階級。その中には「医師」も当然、含まれる。
 「哀れギョタン医師は自らの娘の手に掛かって露と消えました」
 というオチは真っ赤な嘘である(しかし、すさんでるなぁ。悪趣味)。しかし、ある医師がギロチンの「人道性」に疑問を持ち、死刑を宣告された知人に、首を刎ねられたあと意識が続く限りまばたきするよう頼み、その知人はその通りにした。その結果、切断後も数分は意識があることが確認され、ギロチンの「人道性」は否定された。しかし、何かと便利だったので、その後も使われ続けた。疑問を持つべきは革命政府の人道性だったのである。
 ギロチンは近代、それも、産業革命の産物である。それが生産したものは、死。そして、時の為政者の不名誉でもある。
 フーコーは、死刑にあたって受刑者の苦痛を長引かせず、また執行人が受刑者と関わりを持たなければ持たないほど近代的であるとされた、と『監獄の誕生』で指摘している。とはいえ、当時のフランス人は当時の英国マスコミによって以下のように表現され、その認識は英国国民に広く行き渡った。
 「カエルを喰らう、現代の首狩り族」!
 これを名誉と呼ぶかどうか……しかし、20世紀半ばに斬首刑を行っていた国民が断じることができるであろうか?


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