足を見せろ!


 起床の号令にはTurn outというのがある。しかし、作家が好んで使うのはShow a legである。この時代、入港中の軍艦には女性が乗組員の妻であると自己申告するだけで乗艦できた。そのため(軍艦は梅毒の大交換会会場になってしまうのだが)水兵「夫妻」は並べてハンモックを吊る。「夫人」には日常勤務がないが、水兵にはあるので、起床命令に従わなければならない。そこで、ハンモックの中身を確かめるために、「足を見せろ」ということになる。女性のすらりとした足なら見逃され、ごっつい(とはいえ、当時は「脚線美」ともてはやされた筋肉質の)毛むくじゃらの足なら、たたき出されるのだ。そして、航海中もこの言い回し(下記)は使われ、最後まで寝ている不届きな水兵は月に代わってお仕置き……ではなくて、ハンモックの紐を切られて甲板にまっさかさまという運命にあった。まかりまちがった落ち方をすれば、頭蓋骨陥没で実質弾と一緒に海底散歩をすることになった。
 

Out, or down there, out or down there, all hands, rouse out, rouse out, rouse out. Lash and carry, lash and carry, show a leg or else a purser's stocking. Rouse and shine, rouse and shine. Lash up and stow, lash up and stow, lash up and stow. it's to-morrow morning and sun's a-scorching our (bloody) eyes out.
訳:「おーい、出てこい、出てこい、総員、起きろ、起きろ、起きろ。(ハンモックを)縛って運べ、縛って運べ、縛って運べ、脚を見せろ、さもなきゃ主計長のストッキングを見せろ。しゃっきり起きろ、しゃっきり起きろ。(ハンモックを)縛って仕舞え、縛って仕舞え、夜が明けた。お天道様に寝ぼけ目ン玉焼き焦がされンぞ」(英文は『永遠の帆船ロマン』155ページから引用、訳はそれを参考にした)


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