さればでござる
レフテナントとリューテナント



 海尉と書いてごまかしている感もあるlieutenant。「レフテナント」と「リューテナント」2つも読み方があって、一体、どちらが正しいのか? 結論から云うと、どちらも正しい。ただ、時代と状況、国によって違ってくるので、18世期末〜19世紀初頭の英国海軍に絞って考えてみよう。
 元々、ローマ式のアルファベットにはUとVの区別がなかった。そこで、この単語のUも[f]と誤読されるようになったのである。Oxford English Dictionaryによれば、この当時の海軍では「レフテナント」と読む方が慣習になっていたものの、象牙の塔では「リューテナント」が正しいのではないかという議論が起こっていたようである。アカデミー・フランセーズに対抗してイングリッシュ・アカデミーが設立され、「正しい英語」が模索されていたという背景が、この議論にはある。
 結局どちらが正しかったのかと云えば、結論が出ないまま関心がなくなったように見える。イングリッシュ・アカデミーは「正しい英語」などという不毛な論議よりも自然科学などに関心を向けていき、それ以後は、そのような試みが繰り返されることはなかった。そのため、現在の日本での英語教育で「正しい」とされる文法(試験に出る、実に細々とした文法規則)は実はこの時に決められたもので、当の英国人はほとんど一顧だにしないというものである。18世紀の日本語というと……えー、近松門左衛門でござる(何時のギャグだよ……)。


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