猫鞭(「九尾の猫」鞭、Cat-o-nine-tailes)



 水兵を駆り立て、艦上の規律を守り、無能な艦長やキチ○イ艦長の体面を守る必需品が、この猫鞭である。
 柄は長さ約2フィートで太さ1インチのロープ、9本の「尾」も長さ約2フィートで太さ4分の1インチのロープで作り、柄は赤い布で包まれた。また、1回ごとに使い捨てにされるため、鞭打ち刑執行の前日に掌帆手(または受刑者本人)が作った。鞭打ちの単位は1回が12打で、2回24打の場合は2つの鞭が用意された。犯罪の種類によって鞭の「尾」の先に結び瘤がつけられたが、艦長によっては必ず鉛の重りをつけさせた。また、凝る艦長は鞭打ち係に右利きの水兵と左利きの水兵を揃えておき、交代で鞭打たせて受刑者の背中に「綺麗な網目」を刻み込んで悦に入ったという。
 また、鞭打ち刑は刑の確定から1日おいて執行されることになっていた。これには裁判官たる艦長が一時の感情で水兵を鞭打ちにすることを防ぐ目的もあったが、往々にして無視された。
 シンガポールでの鞭打ち刑が取り沙汰され、それが「オリエント的残酷」の権化のように宣伝されていた感もある。しかし、打つ回数が3、6、12と60進法的であることから中国の伝統というより、英国の伝統であるかも知れない。それは伝統中国における体刑の回数は「笞」刑(竹の棒で叩く)も「杖」刑も10〜50回の10進法だからである。
 閑話休題。 200年前の英国海軍で鞭打ち刑を宣告された受刑者は、格子蓋、横静索または索巻き機に固定されて、背中を打たれた。このとき、受刑者は上半身裸にされる。鞭がロープ製であるために皮膚はおろか、筋肉組織さえ斬り割き、軟骨までもが飛び散るスプラッタな光景が展開されるためである。「一生傷が残る」どころか、その場で死ぬ受刑者もあり、1艦で1回ずつの、「艦隊引き回しの鞭打ち」は死刑の宣告に等しかった。立ち会いの軍医は受刑者の生命を保つことに専念し、彼の中止勧告がでると、翌日以後に続けらた。

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