THE HORNBLOWER COMPANION
The Red Wine Fleet Version

第4巻「トルコ沖の砲煙」



§.ホーンブロワーの衣装箱

 ホーンブロワーは念願の勅任艦長に昇進。しかし、昇進して3年間は右肩にしか肩章が付かないジュニア・キャプテンである。
 ペンギン版の表紙絵では、相変わらず折り返し襟を空色にした明るい青のコートを着ている。立襟と袖口の金モールはかなり増量されていて、ナカナカ派手好きである。赤いサッシュをコートの下に右肩からかけているのが目新しいが、着こなしは両側の折り返し襟を折って前を開けている形で、前巻と変わらない。
 砲22門搭載の小型フリゲート艦、アトロポス号をあずかっての初仕事はネルソン提督の葬列の指揮で、この時は喪服という珍しい服装になる。これは礼装に黒い半ズボンと黒いストッキング、そして喪章を付けたものである。この喪章(mourning band)は、辞書を読むと上着の袖に巻くことになるが、早川文庫版では「喪章の垂れ襟」とされている。どうも、立て襟の縁に取り付ける帯状のもののようである。
 

§.サイツ・ブナウの王子殿下

 「こちらへ、どうぞ」と、再び姿を見せたハーモンドが言った。
 彼が二人を案内していった相手は、泰然として二人を待っていた。小柄な青年で――いや、ほんの少年にすぎない――金と緑の異国風の軍服を身にまとい、短い金柄の剣をさげ、胸に勲章をつけ、首からも二つ掛けている。
 サイツ・ブナウは恐らく架空のドイツの小国で(どうにも、ドイツ史にはとんと疎いもので)、掲げた画像は勲章と剣を除外した軍服の想像図(?)である。「異国風」を「英国にない形の前襟がある」と解釈し、プロイセンやオーストリアが肩章を積極的に導入していなかったことから、肩章を付けず、また、サッシュ・ベルトも両国の陸軍士官に倣って白とした。
 聖ジェームズ宮でホーンブロワーはこの派手な軍服を着た少年、サイツ・ブナウの王子殿下を士官候補生としてアトロポス号に迎えることになる。そして彼と彼の「式部官長兼国務大臣」が引き起こすトラブルはホーンブロワーを徹底的に困らせるのである。
 

§.オスマン帝国の五六門艦、メジディエ号乗組員

 ……ホーンブロワーは一生のうちにこういう光景を見ようとは夢にも思っていなかった。とりわけ、水兵たちがガウンのような長いゆるやかなシャツを着ており、彼らがヤードに目白押しに並ぶと、シャツがぱたぱたと風に吹かれて体にまといつく光景は奇妙だった。
 物語後半に登場するメジディエ号は一時代、旧式な戦列艦である。後檣には大三角帆が掛けられ、艦首斜桁も高い角度がつけられている。ホーンブロワーはオスマン帝国領海内でサルベージ作業を行ったために、引き上げたものの引き渡しを要求され、陸上は軍隊に、海上の退路もメジディエ号がふさいでしまったため、進退窮まることになる。しかも、オスマン帝国と英国が中立関係にあるのも事態をややこしくする。アトロポス号が先制攻撃をかければオスマン帝国に会戦の口実を与えてしまうからである。

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