THE HORNBLOWER COMPANION
The Red Wine Fleet Version

第3巻「砲艦ホットスパー」




§.ホーンブロワーの衣装箱

 ホーンブロワーは再軍備政策の一環として現役に復帰し、更に見送られていた昇進も獲得して、一度外した左肩の肩章をまた付けることになる。冒頭では軍服を新調したことについて触れられていないので、おそらくレトリビューション号(旧ガティタナ号)指揮官の時と同じように、海尉の軍服に肩章を付けた姿であったと思われる。後半にはいって、ダウティが艦長係水兵になると、軍服を新調するのしないのとあるので、おそらくしているはずである。
 ペンギン版のHornblower and the Hotspurの表紙ではホーンブロワーが海尉艦長の軍服、そしてブッシュが海尉の軍服を着ている。ホーンブロワーの両肩に肩章が付いているが、これは画家の虚構であろう(虚構と言えば、ホーンブロワーの存在自体が虚構なのだが)。片方だけにしかないのは、確かに「絵にならない」。海軍省の規定、原作ともに、海尉艦長としてのホーンブロワーの肩章は左肩のみのはずである。
 ペンギン・ホーンブロワーの軍服は明るめの青の地に空色の折り返し襟(袖口は確認できず)。立て襟と折り返し襟の縁は金モールで縁取られている。海軍省の規定では海尉艦長の軍服は地、立て襟、折り返し襟、袖口は全て青または紺となっている。しかし、艦長たちの一部は折り返し襟と袖口を白にした18世紀後半のデザインに郷愁を持っていたために、それらの色を薄くして変化を付けていた。実際、「白ではない」と言うことで海軍省では黙認せざるを得なかったようである。ホーンブロワーもまた郷愁を持っていたタイプのようで、ブッシュ副長も手紙を出す際には"Master and Commander"という古い階級名をホーンブロワーの宛名に添えている。
 因みに、ブッシュ明るめの青の軍服を着ていて、ホーンブロワーとお揃いになっている。この当時の肖像画を見ると紺のほうが主流なので、2人とも、かなり目立ったかも知れない。向かって右手の上がホーンブロワーの、下は規定通りの軍服を再現してみた。
 

§.フランス陸軍砲兵

 銃声は、砲台攻撃に向かった海兵隊員の不手際を示している。歩哨がいたにちがいないが、音を立てることなく処理するべきであったのだ。しかし、いずれにしても敵に知られてしまった。警備隊――完全武装の兵二十名ほど――が防戦し、今や本隊が出撃準備を整えている。
 ホーンブロワーはホットスパーの乗組員を中心とする上陸部隊を率いてプティ・ミノウの信号所と砲台を奇襲した。ホーンブロワーに「銃や銃剣での戦いにはあまり役に立たない」とされた砲兵は黒い馬形帽に紺の長上着、紺のウェストコート、紺のズボン、黒いゲートル、そして黒い靴を履いている。長上着は立襟、折り返し襟も紺で、赤の縁取り(パイピング)がつけられている。裾の折り返しと袖口は赤。士官は金の肩章を付けている。
 

§.フランス陸軍戦列歩兵

 そのフランス兵は紺の制服に白い縫い取りがついている――砲台周辺で抵抗した砲兵ではなく、歩兵である。その後方を陽気な太鼓のリズム――襲歩――に合わせて、歩兵隊の長い列が駆け足で近づいてくる。
 砲台を爆破したホーンブロワー麾下の襲撃隊は歩兵隊の追撃をくい止めつつ退却した。流石に砲兵より銃撃に秀でていて、ホーンブロワーの襲撃隊は若干の被害を受けている。
 フランス陸軍の歩兵隊は縦深陣で進撃するため、一度に射撃する弾丸の数はあまり多くない。英国陸軍や海兵隊のように横列展開して追撃してきた場合、被害は相当大きなものになったかも知れない。しかし、道からはみ出た隊列が遅れる分、取り逃がした可能性もある。また、フランス陸軍の歩兵隊の進撃速度の速さは定評があった。
 フランス陸軍の歩兵は戦列歩兵と軽歩兵があるが、「白い縫い取り」、つまり白い折り返し襟があるのは戦列歩兵である。立て襟は赤で、折り返し襟などの赤くない部分の縁取りは赤のパイピングが施されている。その他は黒い馬形帽(擲弾兵は熊の毛皮の帽子)、白いウェストコート、白いズボン、黒いゲートル、黒い短靴を着用している。


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