§.艦上の「食」


堅パン(biscuit)

 英単語は「ビスケット」であるが、その語が想起させるような生やさしいものではない。材料は小麦粉とエンドウ豆の粉、それに骨粉である。ただでさえ非常に堅く、かなづちでもなければ割ることはできない。なかでも中心の通気孔は異常に堅く、どんなに飢えた水兵でも海へ捨てたという。航海中には必ずコクゾウムシ(後述)がわいた。


配給酒(grog)

 ラム酒を水で割ったもの。配給は航海士などが樽からひしゃくで計って食事当番に配分した。英国海軍の原動力で、1970年に廃止されるまで続いた伝統の酒である。水割りのラムのことを一般に指すが、適宜砂糖やレモンを加えていたようである。水とラムの混合比は2:1。1740年にエドワード・ヴァーノン中将がラムを水割りにして配給した。すると、それがなくなったので、水割りでの配給が一般的になったのである。
 このヴァーノン提督のトレードマークはグログラム(絹毛混紡の布)のボート用長マントで、「グロッグ親父(Old Grog)」の通り名があった。このために、彼が発明した配給酒も「グロッグ」と呼ばれるようになったのである。
 
水兵の食事 (mess)
 准士官、下士官と水兵は同じ食事だったようである。大砲の間に臨時に取り付ける食卓を数人の乗組員が囲む。天井には飲料水樽が吊られる。食料は主計長が配給し、これを食事当番が受け取りに行く。


食事当番(mess cook)

 輪番制の当番。主計長の配給する食料を受け取ると、調理場へこれを運び、調理して貰ってから食事仲間(mess mate) のところへ戻って、給食する。このとき、1人あたりの分量を公平にするために1人の食事仲間が目隠しをされる。食事当番が1人分を取り分けるたびに「誰の?」と食事仲間が問うと、目隠しが指名する。


コクゾウムシ(weevils)

 航海中、堅パンにわく虫。テーブルに堅パンを打ちつけていると、親虫は這い出してくる。幼虫は出てきてくれないので、パンごと暗がりで一挙に口に入れるしかない。貴重なタンパク源でもあったようである。

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