§.階級:将官・佐官・尉官



提督(Admiral)
 この時代の英国海軍の艦隊は、名目上は3個艦隊で構成された。上位から赤色艦隊、白色艦隊、そして青色艦隊である。それぞれの艦隊に大将(admiral)、中将(vice admiral)、少将(rear admiral)が1人ずついた。
 このため、都合9人の提督が艦隊勤務に就くことができた。そして、それぞれが赤色艦隊中将(vice admiral of the red)や白色艦隊少将(rear admiral of the white)などと呼ばれたが、「赤色艦隊大将(admiral of the red)」は存在しなかった。なぜなら、白色艦隊大将と青色艦隊大将も指揮下に置くために、海軍元帥(admiral of the fleet)と呼ばれたためである。
 提督は海佐艦長の名簿からの先任順、あるいは戦功などによって昇進する。

海佐艦長(Post-Captain)
 海佐艦長(または、単に「艦長」とも)は1等艦から6等艦のポストシップ(post-ship)の艦長である。post-shipとは、旧日本海軍でいう「軍艦」(戦艦、巡洋戦艦、航空母艦、巡洋艦、砲艦など。駆逐艦、水雷艇などは含まない)とほぼ同義語である。このため、第2次世界大戦中の大佐に当たる階級といえる。
 このpost-ship(または海軍工廠や沿岸国防軍などの陸上部隊)の指揮を執るよう海軍本部から任命され、指揮艦に着任することで、海佐艦長になる。このため、海尉が直接、海佐艦長になる場合もある。これ以後、海佐艦長の名簿に記載され、先任順や能力、戦功、コネなどによって軍艦を預かることになる。
 やはり海尉艦長と同じく、初めて指揮艦に乗り組むにあたっては全士官が舷門に出迎える。着任する艦長は命令書を読み上げるまでは指揮権を持たないので、まず、正式には舷門で1等海尉に乗艦の許可を求め、許可を得て乗艦する。次に1等海尉に総員呼集を求める。一等海尉が総員を呼集し、艦長が任命書を朗読すると、この瞬間から正式に海佐艦長になり、乗艦の等級にあわせた俸給を受けることになる。
 
戦隊司令官(Commodore)
 戦隊司令官は提督、あるいは海軍本部からの任命による、海佐艦長の役職である。この時代の英国海軍では階級とされていないが、フランス海軍とスペイン海軍では「准将(brigadier)」という階級になっている。
 独立行動をとる数隻の軍艦を指揮するのが戦隊司令官の任務で、戦隊司令官の座乗する艦にはブロード・ペナントと呼ばれる幅広の吹き流しが掲げられる。このため、旗艦はpennant shipと呼ばれる。ペナントの色は所属する艦隊の色に応じて赤、青、白である。海軍本部直下の戦隊の場合は赤のペナントを掲げた。
 戦隊司令官には2種類ある。旗艦艦長を伴う場合と、旗艦艦長が戦隊司令官を兼ねる場合である。前者は少将の俸給を受けるが、後者は海佐艦長の俸給しか受けない。しかし、どちらの場合も少将の軍服を着用した。懐の苦しい海佐艦長が臨時の戦隊司令官になると、かなり大変なことになる。


旗艦艦長(Frag Captain)

 勅任艦長の役職。提督または戦隊司令官の乗艦の艦長である。「お膝もと」という意味で、特殊な地位には違いないが、将官級へのステップというわけでもない。 むしろ旗艦勤務の士官のほうが昇進の機会が多く、特殊な地位かもしれない。
海尉艦長(Commander, Master and Commander)
 本来は海尉の役職で、この時代に階級として扱われ始め、儀礼上は「艦長(captain)」と呼ばれる。非常にわかりにくい微妙な地位で、民間人がこの区別に戸惑うのは「お約束」となっている。
 1794年にmaster and commanderから単にcommanderへと改称されたが、非公式にはmaster and commanderが使われ続けた。また、慣習上、Captainとも呼ばれた。海尉艦長は海佐艦長直下の階級で、当時の陸軍では少佐に相当するとされたが、Commanderという語自体は現代では中佐を指す。
 また、海尉艦長が指揮する艦はその規模を問わずスループ艦(sloop)とされた。
 海尉艦長は指揮艦に乗り込むと、海軍本部からの任命書を全乗組員の前で朗読する。この時から海尉艦長としての俸給を受け取ることになるため、任命書を受けた艦長は一刻を争って指揮艦へと急ぐことになる。また、この儀式と制度は海佐艦長になっても同じである。
海尉(Lieutenant)
 海尉になるには2段階を経なければならない。まず、航海士あるいは士官候補生は公用と私用の航海日誌を提出したうえで、海佐艦長3名による口頭試験を受け、これに合格する必要がある。次に、「合格候補生」と「合格航海士」は軍艦に着任しなければならない。試験合格と着任の両方がそろって、初めて海尉になる。試験に合格しても着任するまでは候補生か航海士の俸給のままである。着任の報告が航海日誌に記されると、その時点から海尉の俸給を受けることになる。
 海尉としての着任が試験より前になることも多かった。軍艦に勤務中の士官候補生が、欠員を埋めるために海尉心得(acting lieutenant)場合である。後日、海尉の試験に合格すれば、海尉心得に昇格した時点にさかのぼって海尉としての俸給を受けることになる。試験に不合格であれば、また単なる候補生に逆戻りである。
 海尉は先任順によって軍艦での地位が決まる。6等艦(小型フリゲート)やシップ型スループ艦では海尉は1名のみの場合もあるが、海尉が複数の場合はどちらが先に海尉名簿に登録されたかで身分の上下が決まる。それに従って上から1等海尉(副長)、2等海尉、3等海尉、となる。軍艦を乗り換えるたび、そして新顔を迎えるたびに等級が変わるので、海尉たちはそうした折りに神経質になる(ブッシュ海尉がレナウン号に着任した時など)。
 海尉の次の階級は海尉艦長か、あるいは海佐艦長に直接昇進する場合もある。昇進は戦功やそれ以外の功績、能力そしてコネなど、何らかのメリットによる。特に有名海戦での戦功が昇進に与える影響は非常に大きくなる。また、拿捕船の回航指揮官を海尉が務めた場合、これが昇進のお墨付きになる不文律がある。
副長(First Lieutenant)
 海尉の役職。その艦で最も先任の海尉が務める。1等海尉、ともいう。それ以外の海尉は先任順に2等海尉、3等海尉と続く。戦列艦で5〜6名、フリゲート艦で3〜4名、スループ艦で1〜2名の海尉が乗り組んだ。

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