§.概説

1789年のフランスでは海員約6万人を数えた。その海軍は地中海と北海、北大西洋に分割されていたものの、世界第2位の規模を誇っていた。主要な軍港はツーロン、ロシュフォール、ブレストで、1770年にロリアン、1783年にはシェルブールが開港している。その一方で、1770年に東インド会社が解散している。

フランス海軍の伝統的な戦略は、艦隊の温存により敵主力を牽制しつつ、フリゲート艦を用いて敵国の海上輸送を阻害して、戦争終結へと導くというものである。また、通商破壊の効果を高めるためにも、私掠船の積極的な活用もためらわなかった。

このため、基本的にフランス艦は戦闘を避け、必要があるときのみ砲火を交えるが、この場合も敵艦の帆や索具、マストを狙って敵艦を行動不能にすることが最初のタスクとなる。そして、フランス側が優勢な場合は、英国海軍より豊富な人的資源を背景に接舷・斬り込みを行って敵艦を拿捕し、フランス側が劣勢の場合は敵艦が応急艤装を整える前に撤退することになる。

同様に、フランス海軍の主力艦隊は戦列を組んで戦闘する場合も基本的に敵艦隊の風下側から接近し、交戦した。風下側の戦列は損傷艦の脱出が容易である上、波が高い場合には風上側の戦列では下層砲列甲板の砲門が開けないためである。

フランス革命によって人材が枯渇したナポレオン戦争中も、フランス海軍の主力艦隊は軍港にあってプレゼンス効果を発揮したものの、軍港に封鎖させた艦上では訓練が行き届かず、優勢な砲撃力を生かし切ることができないまま出港を強いられ、トラファルガルの海戦に臨み、壊滅的な打撃を受けてしまった。

軽戦隊(Flotille legere)
1801年3月10日、12個師団のFlotille legere編成が決定された。これは英仏海峡の沿岸で建造され、英国本土への侵攻を企図したものであった。用意された上陸用舟艇は英国人に「平底船」と揶揄されたものの、ある程度の軍事訓練を受けた水夫と海兵隊員が乗り組むことになっていた。ラトゥーシュ・トレヴィル海軍少将が精力的に準備に当たり、同年7月までに3万名を輸送できる船腹が整えられている。

しかし、英国方面軍司令官に任命されたナポレオン・ボナパルトはこれに乗り気ではなく、陸軍兵士は4千人を集めたにすぎず、結局はアミアンの和約後に解散された。

フランス国民戦隊(Flotille Nationale)
1803年5月末、ナポレオン・ボナパルト第1執政はFlotille Nationaleの計画を開始した。ボナパルト将軍はFlotille legereに脅しの効果しか期待しなかったのに対し、Flotille Nationaleは最初から英国本土への上陸・侵攻を目的に計画された。

当初は約150隻の小艦艇による上陸が計画されたが、同年6月に850隻、7月5日に1410隻、8月22日には2,000隻を超える小艦艇が要求され、歩兵7万2千、騎兵1万6千、砲兵および工兵9千、砲400門以上が英仏海峡を渡ることになった。

これら上陸用舟艇や護衛用の砲艦を運用するために2万1千人以上の水夫が必要となった。これはフランス全土の海員の3分の1に当たる数字である。その調達の遅れや移動の問題から侵攻は1804年夏まで延期されたものの、同年8月には上陸用舟艇2244隻の準備が整っていた。しかし、英仏海峡における英国海軍による厳重な封鎖により、一時的にもフランスが制海権を握らなければ上陸作戦は不可能であった。

そして1805年10月21日、制海権をもたらすはずのフランス・スペイン連合艦隊はトラファルガル沖の海戦に敗れ、Flotille Nationaleはその存在意義を失い、待機していた大陸軍は東へと移動したのであった。

フランス帝国海軍大隊(Bataillons de la Marine Imperiale)
1808年3月2日にフランス海軍に在籍していた水夫は軍人としてフランス帝国海軍大隊に編入された。これによって水夫は正式に水兵になり、正式の軍事訓練を受け、初めて(英国海軍に先駆けて)海軍全体で統一された軍服を支給された。マスケット銃、銃剣、その他装具も支給されている。これはナポレオンが水夫すべても必要に応じて海兵隊と同様の役割も果たせるようになるべきだと考えたためである。

この改革で、砲艦などの沿岸警備艇の乗員は小艦隊大隊(Bataillons de Flotiille、後にEquipage de Flotille)、戦列艦などの乗員は航洋艦大隊(Bataillons de Haute-Bord、後にEquipage de Haute-Bord)に所属した。小艦隊大隊と航洋艦大隊をあわせて50個大隊を数えた。航洋艦大隊1個大隊は500人からなり、4個小隊に分かれる。この1個大隊で戦列艦1隻、またはフリゲート艦2隻の乗員をまかなった。

4号室・フランス海軍資料室赤色葡萄酒艦隊