癌についての漢方的な考察

 

癌の発症原因の大部分は、五臓(肝・心・脾・肺・腎)六腑のバランスの乱れから

生ずると されています。

 

食欲・体力・持久力・体を温める力・精神力・健全な睡眠・正常な思考力・のびやかな感情などが、

さまざまなストレス、たとえば、

(喜・怒・憂・思・悲・驚・恐などの 感情の激変や過多、寒さ・湿気・打撲・過労・睡眠不足・過緊張・

慢性刺激・飲食不摂生・食毒・水毒)

などの 長期の存在で乱され、

食欲不振や 食べてもふとれずに次第にやせ、運動不足で体力も落ち、仕事のしすぎで持久力がなくなり、

慢性的な疲れから冷え性となり、

疲れすぎて夢をみたり、睡眠が浅くなったりして、目覚めがすっきりせず、

一言で言えば、

元気が失われている状態となったときに 

外部からさまざまな邪を受けたり、

あるいは肝・心・脾・肺・腎などの五臓の弱りから、よけいな物を 長期に体内にためこんだために、

塊となって、それがストレスにより 過熱して腐り、癌が生ずるとされています。

 

体が弱っているということが、癌発生の原因の第一です。

 

体が弱ると、風邪・寒邪・湿邪などの 外界の影響を受けやすくなり、

寒さに弱くなり(寒邪)、湿気が体にたまり(湿邪)、痰というベタベタしたもの(痰飲)が、

体のいたるところに張り付いた状態が、長くつづいたときに、(同時に、元気や血のながれも滞り)

更に、気血の渋滞から塊が生じて、それがストレスによって加熱して、癌の発生となると、

漢方では 原因を説明しています。

 

体の弱りというものは、

体が丈夫でも、無理をしたり、大食したり 飲酒を過ごしたり、精神的に無理をして弱めて、

よけなものを体内にためこむことが、癌になる原因だとしています。

 

ここでは、一般的な癌の発生メカニズムを説明していますが、

内臓の癌については、漢方では、

お腹の中の塊、積聚、食物のつかえ、嘔吐、不正出血や帯下 などの項目にも 

癌によるものやその病因や処方が分類され載っています。

 

胃癌の初発症状では、よく、急に吐いて、調べたところ 胃癌が見つかったという例が、多いようです。

 

これは、大抵 気虚・血虚という疲労や、

あるいは 悲しんだり物思いにふけったりして

胃腸を傷めることによって 血虚(栄養失調)がすすみ、

このような方は、顔色が悪く(多くは、不健康な色黒や、不自然に 薄黄色がかった色白の顔色)

になり、多くは、やせていて、たべても太れず、食欲もあまりわかない人に 多く癌が生じます。

 

胃腸がよわいと、気血が生成できないだけでなく、思慮過度があれば 胃腸が痰を生ずるようになり、

その痰は、体のいたるところに生ずるのですが、さまざまな流通をさまたげて、交通渋滞を起こします。

 

元気や血液・水分や神経の流れが滞り、食欲がすすまなくなり、胃癌となるとしています。

 

言い換えれば、疲労やストレスによる胃腸虚弱が、気血の不足や痰を生じて、

流通が阻滞され 胃癌となるというのです。

 

体内のあらゆる流れが、のびやかに よく流れていれば 癌は生じない といいます。 

 

婦人の不正出血では、中年以上に生じやすく、原因の多くは 思慮過度と気血不足(部分的な栄養失調)

で生じ、不規則な出血や 悪臭のある帯下、やせてゆき、腰や背中などの体痛 が生ずるとしています。  

  

漢方の古典の<諸病源候論>では

 「積聚(癌)は、すなわち五臓の陰陽が和せず、五臓が虚弱となっているときに、外界から風邪をうけ、五臓の臓の元気をうち破って生ずる」としています。

 

また、<景岳全書>では、

「飲食のとどこおりが体内になく、体の冷えや 外界からの寒さにあわなければ、癌は生じない。

つまり、風寒・湿邪の邪が 外界から侵入しても、体内に飲食のとどこおりがなければ癌にならない」

 

言い換えれば、

飲食のとどこおりは、風邪・寒邪(悪い寒さ)・湿邪(湿気)・元気の停滞にであって癌が生ずる。

風邪・寒邪の外邪は、飲食のとどこおり(痰・食毒・水毒)があって 初めて癌が生ずる。

 

あるいは、寒邪や風邪、湿邪など、体が みまわれているときに、

それらの外邪が、まだ 体から去っていないときに、

飲食を過ごす(胃腸を傷めると)と癌ができる。」

と言っています。

 

そして、「飲食を過ごして胃腸を傷めると、痰や食毒・水毒が停滞するので、

胃腸の寒さや温かさなどの機能が正常でなくなり、停滞した病因と

風寒湿邪が結合して、それらがストレスによって さらに加熱して、癌が生ずる」としています。

 

要するに、胃腸を傷めると 癌になりやすいということを言っています。

 

さらに、胃腸が悪い方や、ストレスで胃腸を傷める方は、癌になりやすいということです。

 

胃腸は、思慮過度や 過緊張や 慢性疲労、飲食過多や過少 で機能の失調が生じます。

いわゆる、「脾(胃腸)は、思(思考)をつかさどり、思考過多は、胃腸を傷めるという原則」です。

 

癌の原因の中で、七情(喜・怒・憂・思・悲・驚・恐)の過ぎたるものが、

発生原因とし重要であるとしています。

 

<素問・通評虚実輪>に

「食道癌で、上下が通じないのは、その原因は暴憂の病である」とあり、

食道癌の原因は、思い悩むこと、感情の起伏が激しいこと と関係がある としていますが、

すべての癌の発症には、心理的なストレスが関係しています。

 

<外科正宗の乳よう・乳癌論>では、

「憂鬱な気持ちは、五臓の肝を傷り、思慮は脾(胃腸)を傷る、重ねて思い悩みつづけ、

心に願うところがあって、それが得られなければ、経絡が阻滞して流れなくなり、

渋滞があつまって核となって 癌が生ずる」としています。

 

<譫寮集験方>では、

「胸や腹に塊が生ずるのは、怒りや憂いや思慮過度などの七情(喜・怒・憂・思・悲・驚・恐)の感情が、

五臓(肝・心・脾・肺・腎)を傷めることによって、病となる」としている。

 

つまり、喜・怒・憂・思・悲・驚・恐という 過度な感情のゆれは、五臓の機能を傷つけて、

外邪(風・寒さ・暑さ・湿気・乾燥・火熱)の影響を受けやすく、体内に侵入しやすくなり、

それによって 元気の体内の経絡上のめぐりが悪くなり、経絡を阻滞させて気が鬱して、血が滞り、

塊を生じて、それが癌になるとしている。

 

また、飲食が不規則や過多・過少となると、容易に胃腸機能は失調して、

食物の消化吸収に影響を与える。

 

胃腸の弱りにより、飲食が気血に生成されず、気血不足となると体の抵抗力は弱り、

外邪(風・寒さ・暑さ・湿気・乾燥・火熱)の侵入を受けやすくなる。

 

更に、胃腸が弱れば、飲食のエキスが気血とならずに、水毒や食毒という(痰飲)不消化物に変わり、

それは病因へと変化し、それらが、水毒やむくみや元気の滞りを生じて、経絡に交通渋滞を引き起こし、

血流が悪くなり、水毒・食毒(痰飲)と血の停滞が重なって癌が発症する。

 

飲食の失調は、癌の発症に深くかかわっている。

胃腸が疲れていると、水毒や痰、消化不良による食の滞り、元気の流通が滞り、血が滞って古血となり、

病理変化をきたして、癌を発症する基礎ができる。

 

この他、慢性的な刺激も癌の発症をもたらす。

「焦げた物や 焙って熱い物を過食したり、

思慮過度や、喜・怒・憂・思・悲・驚・恐の 振幅の大きな感情変化 が長期間続くと、

消化不良とストレスによる加熱が合わさって、癌を生ずる」

 

「酒や麺類や焙った物や、味の濃い物、脂っこいものや消化の悪いものは、体内にたまり、

胃腸を弱らせて、徐々に 食道がつかえたり、胸焼けを生じ、ひどくなると食道癌や胃癌となる」

 

「熱い食べ物を好む人は、食道癌になりやすい」

 

以上は、食べ物による発癌性を、説明しているが、

漢方書には 体の基礎の面でも 発癌性を述べている。

 

「丈夫な人は 癌にかからない。丈夫でも、弱めたり傷めたりする人、虚弱な人は 癌にかかる」

 

「40歳以上の人で、血虚や血の流れが滞り、ストレスで 気の滞りがある人で、

味の濃い物や 脂っこい食事を過多にとる人は、10人のうち1-2人しか、余命を全うできない」

 

「癌は、臓腑の病気であり、慢性疲労により 五臓のバランスをくずし、血や元気の流れが滞り、

それらが経絡をのびやかに流れることができずに、体内に渋滞を生じさせ塊となって癌を生ずる」

 

つかれた つかれた と常々言っている人に、癌は生じやすい。

「高齢者は、元気が不足しやすく、五臓(肝・心・脾・肺・腎)のバランスがそこなわれていて、

元気や血が機能の失調を起こし、癌の発症の基礎ができている」

 

漢方の理論では、

胃腸は、生まれてからの生命力の源を、食物から得るために重要で、

もともとの生命力(腎の力)は、父母から その生命力を生まれながらにして受け継いでいるとしている。

 

したがって、胃腸と腎(生命力)の損傷は、癌の発症に深くかかわている と漢方では考えている。

 

「胃腸の虚弱や飲食過多や、冷たい物や生物の過食は、消化不良を起こして、体内に癌を生じやすい」

「癌ができるのは、疲労などで元気が損なわれるから、悪い物がそこにつけこんでくるのだ」

 

つまり、癌は、元気が損なわれた時に つくられることが多く、

特に、胃腸と(腎)生命力が損なわれた時に 生じ易い。

 

「感情(喜・怒・憂・思・悲・驚・恐)の激変や過剰や、飲食の不調という原因が、

長期間、人体に作用して肝・心・脾・肺・腎のバランスを崩し、元気がそこなわれた慢性疲労の状態が、

癌の発症の条件である。」

 

要約すると、疲労・飲食の不調・感情の失調 の長期間の作用が、癌の発症の原因としている。

 

「そして、一旦 癌が発症すると、体の元気・活力を損ない、五臓六腑や気血がそこなわれ、

陰陽のバランスがくずれるとともに、痰が塊となり、体内の湿気も固まり、気の流れが滞り、

血がめぐらないという さまざまな病理変化を来たし、熱がそこに凝結して さらに病因をつくるために、

元気不足と病因の産生という悪循環に陥るために、癌は治療が困難となる」としている。

 

癌になったら・・・

元気を回復させ、胃腸を立て直し、感情の起伏を調え、気血の流れを快復させ、

痰の固まりを軟化させ、湿気をためないようにして、鬱熱をさまして、病因をとりのぞくことが

重要だとしている。

 

具体的には、癌の発症部位とその経絡を考慮して、肝・心・脾・肺・腎の診断を行い、

上記の病因となる原因を除去するように処方することが、大切であるという。

 

乳房のしこりについて、

<外科啓玄>では、

「婦人が、年齢50歳以上で、疲れやすく、肌は荒れ、髪はかさつき、顔色のよくない人が、

常に うつ的で、ストレスに煩悶し、乳房にしこりができて、

天気が悪くなると しこりに痛みが生ずるようになる。

これを乳核という」

<医宗金鑑>では、

「乳房のしこりは、梅やスモモの形で、これにさわっても動かず、皮膚の色は不変で 紅くなく、

時々、わずかに痛み、疲労や塊が徐々に大きくなるという症状は、

ストレスによる肝の失調・たかぶりと、

胃腸のバランスの失調により 郁結することによって生ずる」としている。

 

乳房のしこりが、長期に慢性に経過すると、乳癌に移行することがあります。

通常は、乳房のしこりは、大小いろいろあり、周辺との癒着がなく、可動性のものを指します。

 

乳房のしこりを治療するためには、

イライラや怒りっぽい、あるいは胸や脇が張って苦しい・痛むなどの症状、

しこりの刺すようなズキッとする痛みや、月経時の不調を改善し、

暴飲暴食や食事の過少、食事を抜くなどの不摂生からいためた胃腸を回復させる必要があります。

 

食事の不摂生は、食事や水分をうまく消化・吸収・運搬できずに、

水毒(湿邪から痰が生じ)から、(痰が)気のながれが渋滞して、

肝の経絡がめぐらくなり、のびやかさを失い、イライラして、

肝の経絡がめぐっている乳房の部分に、しこりが生ずる。

 

それが、慢性化すると、しこりにストレスがさらに加わり加熱するために、

肝腎の血が消耗して、

午後に微熱がでて、手足はほてり・寝汗・のぼせ・口乾・めまい・耳鳴り・腰がだるくなる症状がでて、

経絡は損傷されてしこりに潰瘍を生ずるようになる。

 

乳房のしこりは・・・

五臓(肝・心・脾・肺・腎)の、肝と脾(胃)と密接な関係があり、

こころがのびやかで、胃腸の働きが正常で、飲食の不摂生がなければ、しこりができることはない・・

としています。

さらに、ストレスと 慢性疲労による栄養失調 を避けることも重要とされています。