99/12/30 ◇ペイオフ延期−失政十年の締めくくり◇朝日新聞ニュース速報

国民のためと言いながら、この連立政権は結局、国民を軽んじ、見くびっているのではないか。負担や痛みを伴うものは、前言を翻してあっさり先送りする。介護保険に続き、今度はペイオフである。

金融機関が破たんしても、今は預金の全額が保証されている。その特例を打ちきり、保険で守るのは一千万円までという預金保険の本則に立ち返る「ペイオフ解禁」が一年間、先延ばしされることになった。

いったん決めた方針をくつがえしたことに、異をとなえたい。予定通り、二〇〇一年四月から全面実施すべきである。延期は国民の負担を和らげるどころか、金融改革を遅らせ、重荷を増やしかねない。

政府は、一九九五年にペイオフの凍結を打ち出した。五年余を費やして金融の立て直しを進めるための緊急避難だった。この間、金融再生委員会が設けられ、不良債権の処理ができない金融機関は退場させた。一方で資本不足に陥ったところには国が資金を投ずる制度までつくった。

利用者の方も、預金先を選ぶようになっている。ペイオフ解禁の後には、自己責任が原則となるということが、ようやく浸透してきた。

今度の先送りは、金融機関と利用者のこうした自助努力に水を差し、もとの「お上依存」体質に戻してしまいかねない。日本の金融制度が透明で強じんなものに生まれ変わらない限り、それへの国際的な評価は上がらない。

内外に宣言した約束を破ることが、もたらす意味を、亀井静香自民党政調会長ら与党の政策責任者は、どこまでわかっているのだろうか。

国や金融機関の格付けが下げられれば、資金調達のコストが上がる形で、国民全体が被害を被る。

一連の金融改革で政府は、一番弱いところに速度を合わせ、全体を過保護にする「護送船団」方式との決別を覚悟したのではなかったのか。

信用組合への配慮から、延期を求めていない都市銀行などまで総ぐるみで延期というのは、旧来の手法そのものだ。

信組が心配というなら、その経営総点検を二〇〇一年三月までに済ませればいい。まだ一年以上も時間がある。総選挙が近いからという理由も加わっているとなれば、世界の笑いものになるだろう。

どうしても解せないのは、小渕恵三首相や宮沢喜一蔵相の姿勢である。

市町村が必死になって態勢を整えた介護保険の実施計画を、亀井氏らが土壇場でひっくり返したときと同様、黙ってなすがままにさせたとしか思えない。

首相は自民党の総裁でもあり、宮沢氏は三顧の礼をもって迎えられた経済政策の責任者である。いかに政党政治とはいえ、亀井氏らに政府方針の重さ、変更のもたらすマイナスを説く責任があったはずだ。

蔵相はつい数日前まで、「(ペイオフ解禁は)全体として予定通り行ってもらう。まず心配ないというのが私の判断だ」と述べていた。予定通り実施すべきだという考えに変わりがないのなら、なぜ三党の政策責任者会議を傍観したのか。

一九九〇年代は、やっかいなことの先送りで、傷を大きくする繰り返しだった。「失われた十年」の集大成が、三党によるペイオフ延期であることを、次の総選挙まで有権者はよく覚えておく必要がある。[1999-12-30-00:31]


99/12/30 <ペイオフ>自民党の非主流派中心に執行部への反発激化か=毎日新聞ニュース速報

ペイオフ実施の先送り合意によって、介護保険の見直しと同様に、自民党内の非主流派を中心に党執行部への反発が強まることが予想される。

加藤紘一前幹事長は29日夜、取材に対し「大変残念な決定だ。何のために金融ビッグバンをやってきたのか。政策理念の根本が問われる」と安易な延期を批判した。

また昨年秋の金融国会で、与野党協議の中心だった石原伸晃衆院議員は「金融機関を統廃合して、悪い金融機関には退場いただくということを4年前に日本は国際公約した。その手段がペイオフの凍結解除だ」と指摘。「延期なら、倒閣運動を展開せざるを得ない」と語っている。

小渕恵三首相の足元の小渕派でも、首相の政策アドバイザー役を果たしている大原一三元農相が、繰り返しペイオフの2001年実施を求めていた。大原氏も29日夜、「ペイオフが予定されているからこそ、銀行の再編が進んでいる。延期は大失敗だ。小渕首相のリーダーシップが欠けていた」と語った。[1999-12-30-00:16]


99/12/29 <ペイオフ>自自公3党の「先送り体質」、再び露呈=替

毎日新聞ニュース速報

介護保険問題であらわになった自自公3党の「先送り体質」が、ペイオフ問題でも表に出てきた。1996年から「5年間だけの特例措置」と位置づけられてきたペイオフの凍結期間を、さらに1年延長するという29日の与党3党合意は、介護保険法の成立(97年12月)から2年も経って保険料徴収の一部凍結を決めた先の介護保険騒ぎと同じ構造を持っている。

自民党内には「ペイオフ延期なら倒閣運動を起こす」と勇む声もあり、小渕内閣は通常国会に向けまた一つ波乱要因を抱え込んだ。 【古賀攻、有田浩子】

与党3党の政策責任者が、ペイオフ問題で実質協議に入ったのは24日。2001年4月に迫ったペイオフ実施後の新たな「預金者保護」の枠組みを作るため、来年の通常国会に預金保険法の改正案を提出する必要があり、臨時国会の閉会後に論議が本格化した。

「凍結解除の延期」を主張する自民、自由両党と「予定通りの実施」を求める公明党とで分かれていた与党内の議論が、一つにまとまったのは、公明党の妥協だった。

同党は7月の党大会でペイオフの予定通り実施を盛り込んだ基本政策を採択している。しかし、28日になって幹部が相次いで「3党協議ではわが党の筋論を主張するが、応じてもらえない場合は妥協せざるを得ない」「2対1なんだから、多数決には従わなければならないだろう」と方向転換を示唆するようになった。

党の主張をあっさりと捨てたのは、「連立維持優先」という政治的な判断からだ。最高幹部の一人は「予定通りに実施したら、恐慌が起きるかもしれないという指摘がある。延期したら、日本が信用を失うと言われるが、恐慌よりもましだろう」と政策的判断を強調してみせたが、結論先にありきという印象はぬぐえない。

29日夜、3党合意後の記者会見で坂口力政審会長は「最終的には多数決の原理に従った」と述べ、党の政策を変えるのかとの質問には「党は党としての、連立は連立としての政策がある」と苦しい言い訳を口にした。

ペイオフの実施に一貫して消極的だったのは、自民党の亀井静香政調会長だ。記者団に対し「東京三菱に要求することを地方銀行に求めると預金移動が起き、地銀はお手上げになる。国際競争に勝ち抜く部分と、国民生活の末端を担う部分とを十把ひとからげに扱っていいのか」などと語ってきた。

また自民党金融問題調査会では「延期反対論」の方が優勢だったにもかかわらず、ペイオフ問題で亀井氏と同調している相沢英之会長があえて党としての意見集約を見送っていた。今月16日に開かれた自民党商工部会では、第2地銀や信用組合の業界代表からのヒアリングが実施され、「凍結解除を延期してほしい」という要望を党として受けている。このヒアリングは党内論議を盛り上げるために、亀井氏が指示したものだった。

自民党内でペイオフ先送り論の根拠になっているのは、「中小企業への貸し渋りが強まる」との懸念だ。特に同党の支持基盤である中小・零細企業経営者は、信用組合などに資金繰りを依存しているケースが多いため、次期衆院選を控えてペイオフ凍結期間の延長圧力になっていた。[1999-12-29-23:37]


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