99/12/26 <東京・山谷>路上生活者が急増 炊き出しに加え自給の試み  毎日新聞ニュース速報

「職」よりまず「食」を――。自由労働者が集まる東京台東区の通称山谷の街で路上生活者が急増している。年末年始は仕事がなく、役所も閉まり、食糧確保にも不安が募る。従来の市民団体の炊き出しに加え、「自給自足」を模索する試みも始まった。

日曜日の26日午後。山谷の東京都城北福祉センター前の路上に湯気を上げる大型のナベが12個並び、炊き込みご飯を求めて数百人が列を作った。

たき火をしていた長崎県出身の男性(58)によると、今年は例年になく仕事がなく、12月には周辺を清掃する区の仕事が2回あっただけ。1回8000円の賃金で食いつないできたという。今年は横浜や名古屋からも路上生活者らが集まってきているといい、「知らねえ顔がえらく増えた。この時期、炊き出しにありつくのもけんか腰だ」とこぼす。グレーの薄手のじゃンパーの両手を入れながら肩を震わせた。

近くの路上に座り込んでいた関西出身の男性も「55歳を過ぎると1日300円にしかならないアルミ缶拾いの仕事しかない」と言う。「30年もここで生活しているが、こんな年は初めて。集団生活が苦手なため、近くの公園にも行かず、路上を転々としている」

 

山谷労働者福祉会館の藤田寛さん(29)は「炊き出し量は昨年より2割以上増えている。材料がとても追いつかない」と悲鳴を上げる。1回に使用するコメは200キロ。カンパだけではとても足りない。藤田さんは長野県小諸市の休耕田を借り、ボランティアと協力して約7000本のタマネギの苗を植えた。藤田さんは「慢性的な不足を少しでも補うため。将来的には路上生活者が自分たちの手で栽培できれば」と願う。

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有留武司・都城北福祉センター所長によると、同地域の簡易宿舎の住人は約5000人と1960年代前半の3分の1に減ったが、路上生活者は約1500人と1年で約300人増。センターへの相談も従来の職の相談とは違い、その日の食を求めるものが大半。センターはパンを渡している。昨年度の相談は約12万件と前年より約3万7000件も増え、今年度はさらに増加している。

都は今年から市民団体との協力を打ち出し、年末年始に山谷の施設の一部をNPO(非営利団体)「ふるさとの会」に貸し出す。

カンパの問い合わせは藤田さん電話070・5883・0642、ふるさとの会電話03・3876・8150 【柴沼均、山本悟】

[1999-12-26-20:07]


99/12/25 12月26日付◇ホームレスに柔軟な行政を◇読売社説 読売新聞ニュース速報

◇ホームレスに柔軟な行政を◇

 公園や路上で暮らすホームレスに、厳しい季節がやってきた。厚生、労働など関係五省庁と東京都、大阪市、横浜市など六自治体による連絡会議が半年ほど前に、当面の対応策を公表したが、景気低迷で日雇い労働が減り、簡易宿泊所にも泊まれずに野宿する高齢者が目立つ。寒空のもとでの貧弱な食事とストレスにより、健康をむしばまれている。

その数は厚生省の全国集計で二万人を超え、対応策の当時より約四千人増えた。

ボランティアの「神戸の冬を支える会」の調査では、神戸市内で四百九十九人を数え、震災が起きた九五年の七倍だ。

生活相談のため、同会を訪ねた二百六十八人のうち、70%以上が五十、六十歳代の中、高齢者で、13%にあたる三十五人が震災による罹災(りさい)証明を持っていた。

ホームレスの増加とともに、路上などで生活するようになった理由が多岐にわたっていることを示すデータである。

先の対応策は、生活自立への支援を基本とし、自立支援センターの設置を大きな柱としたが、今冬は間に合いそうにない。

自立にはまず就労であり、一定期間を宿泊して、健康、生活、職業相談を受け、社会復帰をはかるというセンターへの期待は大きい。しかし、三年前にこの構想を打ち出した東京都では設置場所をめぐって難航して、めどが立っていない。

原則二週間以内の一時宿泊所を五年前から運営している横浜市は、就労相談の機能を強化・拡充して、当面の支援センターとする方向で検討中だ。

自治体側には、「手厚くすれば流入を招く」との懸念がある。アルコール依存症だったり、自立心の乏しかったりするケースに自立支援センターが効果があるか、との疑問もある。画一的な施策で対応できないところにこの問題の複雑さがある。

自治体が設置、国が補助する自立支援センターと並行して、対応策が指摘するように、老齢や健康に問題のある人々への適切な保護が望まれる。一時宿泊所の拡充とあわせて、病弱者や高齢者には現行の福祉施策を活用すべきだろう。

住所不定が就労や福祉適用の制約になるのなら、とりあえずの住所を一時宿泊所にするといった工夫も可能ではないか。

ケースワーカーや相談窓口、行政各部局が連携して、一人ひとりの状況に応じた弾力的で多様な対策を求めたい。

大阪では、ホームレス支援のグループがNPO法人の認定を受けた。NPOやボランティアグループと連携することで、よりきめ細かな対応を期待したい。

就労についても、大阪府と市は政府の緊急地域雇用特別交付金の一部を使って、あいりん地区の労働者を道路清掃、公園美化の軽作業に日雇いする事業を拡大した。焼け石に水であっても救済につながる。

社会から一時的に疎外された人々に、機会を与える社会システムも必要だ。

ホームレス対策も、セーフティーネットの一つとして位置づけ、国、自治体とも息の長い取り組みが必要だろう。[1999-12-25-21:35]


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