2000/2/14 生活家庭部長・津武 欣也 小川村「小川の庄」 毎日新聞ニュース速報

長野市から西へ約10キロの小川村。四方を山に囲まれた人口4000人ほどの小さな村に「小川の庄」という変わった名の会社がある。資本金500万円。信州名産の野沢菜漬、郷土食の「おやき」などを生産、販売し、年間7億円を売り上げる。

「若者は、もう村には戻らない、ならば残った老人が助け合って働き、生きていこう」。いまから14年前、農林業の先行き不安と過疎に悩む住民たちが興した会社だ。資金は地元漬物会社が半分、残りを農協と住民が出し合い、掲げた採用条件は「60歳以上」。約120人の従業員のうち、経理や営業業務を除く100人が60歳以上で、その大部分が女性たちだ。

おやきの製造工場は古い母屋や農協の遊休施設の再利用。各集落ごとにある工場に、自分で歩いて通える限り定年はなく「80歳くらいになると『そろそろ若い衆(と言っても60歳)にバトンタッチしようかな』となる」(権田市郎社長)。

村は現在、人口の4割が65歳以上。権田社長は「高齢化で5800ヘクタールもある山林での山仕事は無理。夫婦二人で年金が50万円以下の人たちも多い。この人たちに、なんとか100万円の収入をプラスしたい。そうすれば暮らしていける。そう考えての会社です」と話す。

65歳以上の8割は「まだまだ健康で働ける人たち」という。顔の見える職場で、仲間たちと働く小川村の高齢者は、生活にハリが出て、生き生きと若々しい。それがまた健康に結び付き、老人医療費の低下にもつながる。村はいま、同県内でもトップクラスの長寿村である。

この「小川の庄」の経営方法は、少子・高齢社会のなかでの私たちの生き方を、過疎に悩む地方の農山村のあり方を教えてはいないか。

「役場と農協」しか働き口のない過疎の農山村では、若者の都市流出への流れは止めようがない。とすれば、地方の町村は、いま住む高齢者に生きがいを与え、間もなく定年になる団塊の世代などを地方に迎える「受け皿」を考えるべきだ。

高齢社会が抱える地域コミュニティの衰退。それは空洞化の進む大都市でも、やがて抱え込む問題かもしれない。

利益を求めての企業活動でもない、ボランティア活動でもない。地域の失業者や定年退職者、高齢者が身の丈にあった暮らしを営むための労働の場の提供。行政、住民、企業が知恵とカネを出し合って、地域の特産品を売り出したり、環境を整備したり、介護サービスを展開したりのコミニュティ・ビジネスが出来ないものかーー。

そんな事業に使う税金なら、バラマキとか無駄使いとかの批判は起きないであろう。最近、とかく悪玉にされる公共事業も、過疎の町村では失業対策事業の色が濃い。それさえも「無駄」と言うのは都市住民のおごりである。[2000-02-14-09:44]


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