2000/2/9 <社説>ゼロ金利1年 「利上げで日本経済に活を」 毎日新聞ニュース速報

世界史でも例を見ない世界第2の経済規模を持つ国のゼロ金利政策実行から1年がたつ。この間金融機関も小康状態、景気もずいぶんと回復した。物価も安定している。

国民は金利の付かない預金にすっかり慣れてしまい、今では文句を言う元気さえなえて、年金を貯金に回すという世界史的にもまれで異様な自己防衛がまん延している。

金利水準の是非は非常に難解で、どこがいいか基準はない。経験的に3〜6%ぐらいがまあ正常なところだ。昔の表現だと、日歩1毛つまり年利3・5%が最低限としてひとつの目安になってきた。お金には利子が必ずつくもので、自然利子率などが議論され、それは経済人の倫理観と密接に結びつくとされてきた。

その伝でいくと公定歩合が3・5%を切ったのが1992年7月。以来8年近く異例の低金利状態を続けている。0・5%という異常な超低金利になったのが、95年9月だからそこからでも、4年半経過した。92年に生まれた子が小学校2年か3年生になっているわけで低金利の影響を考えるならば、この長期間を見なければいけない。

デフレ的傾向が払拭(ふっしょく)されれば、金利を上げると日銀は言っているが、それは間違いだ。今日からでもまずゼロ金利解消に向け動き、速やかに公定歩合を0・5%から引き上げ、早急に正常な水準に直すべきだ。幸い株は上昇、景気動向指数も6カ月連続プラス、米欧も利上げした。

そもそも水準に正当さがない金利という政策手段を武器にしながら、下げる余地のない状態で政策などありえない。ここまで下げてしまったのがそもそもどうしようもない過ちだ。だからこそ、とにかく最悪の状況から早急に脱出することだ。そうしないと日本は財政と金融という2大政策手段のうちひとつを完全に失ったも同然だからだ。もう一方の財政も400兆円に迫ろうという累積赤字を抱え機能不全に陥っていることを考えれば、猶予はないはずだ。

ゼロ金利の弊害は慣れてしまって気づかないが、そこら中にある。

まず財政赤字そのものがそうだ。国債の利払いが小さいから出しやすくなり、それに10年近く甘えつづけてきた。それとあわせ、日本経済全体が、財政・金融というマクロ政策に依存しすぎる体質を醸造した。我々は景気からベンチャー企業設立まで、これほど政府だのみで生きていこうとする自活力のない国民だったのだろうか。違うはずだ。

日本の余った資金がゼロ金利を忌避してアメリカの株を買い支え、日本よりアメリカ経済に大きく貢献してきたのも、ばかばかしい話で、日本の中央銀行としての金融政策の失敗以外の何物でもない。今ではそれが世界経済の慢性病、過剰なマネーゲームの原因になっている。

年金や生命保険など基金運用によって将来の支払いに備える社会システムがすべて運用難に陥っているのもゼロ金利のせいだ。金利自体物価に含まれていくものだ。物の値段を上げたいなら金利を上げればその分確実に上がる。企業努力の原点でデフレ傾向を解消する手立てになる。

最大の弊害は日銀内にある。かれこれ10年間も金利を引き上げたことがない。下げは上手でも風あたりの強い利上げのやり方を知っている人がいなくなってしまうことだ。[2000-02-09-22:31]


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