99/11/26 <女児遺体>「心のぶつかり合い」識者談話 毎日新聞ニュース速報

山田容疑者は春奈ちゃんの母親と「心のぶつかり合い」があったと供述したという。最近の「お受験熱」をめぐるかっとうものぞく。その言葉や心理をどうみるか。識者に聞いた。

◆野田正彰・京都造形芸術大教授(精神病理学)の話

容疑者は「心のぶつかり合いがあった」と言っているようだが、殺害の動機がそれなら幼稚だ。何か問題があっても他の文脈で物事を考えられるのが大人だが、「傷つく」「むかつく」など子供のような言葉を使う30代が最近増えている。その現象の通じるものがある。それに比べると、殺害後の処し方は冷静で、異常な感じはしない。どれだけ罪悪感があるのか。お受験が原因ともいわれるようだが、自分と子供を分離せず、子供の世俗的出世を親の自己実現と感じる傾向は70年代後半から、ずっと続いている。幼児塾の過熱など、しのぎを削っているお母さんも多いが、これも幼稚な考えだ。

◆福島章・上智大学教授(犯罪心理学)

「お受験」と称して、子供たちの世界には早いうちから厳しい競争原理が持ち込まれているが、母親にとってはそれが生きがいになっている。今回の事件は、成功した者への嫉妬心が引き金になったようだが、殺人にまで発展したケースは聞いたことがない。

最近、感情の高まりが激しくて自分でコントロールすることができない女性が増えている。また、若者に目立つ「キレる」現象が、親の年齢にまで上がってきている印象もある。

◆作家、高村薫さんの話

容疑者がノイローゼなど精神的な面で問題があったかどうか考えないといけない。″お受験戦争”だけでなく、ねたみ、そねみはいつの時代にもあった。しかし、今はちょっとしたことが心の中で大きく膨らみ、思い悩んで、受験問題がきっかけで、親同士が子供をめぐってかっとうすることも多い。そんな悩みを抑えきれない母親も確実に増えている。かつては、周りの人が気付いて予防措置を取ったものだが、今は事件になって初めてその人が置かれていた精神状況を知ることも多い。現代は、個人が追い詰められやすい環境とも言える。

◆漫画家の加藤芳郎さんの話

恨みやねたみ、嫉妬はだれにだってあるし、これが人間の中で最も醜い。だが、この事件は私の想像をはるかに超える人間性を失った事件だ。今の世の中、何が起きるか分からない。この事件だけが特異とは言い切れない。警察にしても政治家にしても、不祥事が続き、昔のモラル、常識、社会のルールが完全に崩れた。

◆汐見稔幸・東京大学助教授(教育人間学)の話

容疑者の35歳というのは難しい世代だ。学校生活では校内暴力と管理教育にさらされ、子供のころから塾に行った人も多く、自分で自分の人生を作った満足感に乏しい最初の世代だ。この世代のキーワードは競争、管理、いじめ。その自信のない世代が子育てを迎え、競争でお受験に走ったり、逆に子供を過剰にしかったりする。人にも相談できない。不況で先が見えない不安もある中で、起きた事件がこういう形なのか。社会が子育てを支えられない現象の一つかもしれない。[1999-11-26-01:03]


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